140 お互いの
音のする方へ――建物の方へと急ぐ。
階段を上りきり、書庫と同じように窓枠のみとなった場所から、城内へ――建物の中へと侵入する。ここは、その建物の天井にある梁部分のようで、床からはかなりの高さがあった。
網の目のように伸びている天井の梁は、人がやっと一人通れる程度の大きさしかない。油断すれば、足を滑らせて下に落ちてしまうだろう。
床から、この梁までの高さは、三、四階建ての建物の地上から屋上くらいまではある。落ちたら助かりそうにない。
そして、そんな梁の遙か下では、何ものかの戦いが行われていた。
聞こえてきた音はこれが原因だったのだろう。
一つは沢山存在している白い塊。もう一つは、それよりは少しだけ大きな青い塊。それらがぶつかり合い、戦っている。
小さい方の白い塊が真っ赤に染まって吹き飛ぶ。そして、その中を青い塊が進む。しかし、すぐにそれを取り囲むように他の白い塊が動く。
ここからだと距離がありすぎてよく見えない。
無数の白と青の戦い。
よく見えないが、それでも分かる。
分かってしまった。
白い塊と戦っている、あの青い塊は――スコルだ。
生きていた。
もちろん生きていることは信じていた。
この距離で姿はよく見えないけれど、元気な様子で白い魔獣を倒している。
『良かった』
これで、目的の一つは達成だ。
『ふむ。あれを連れ戻すのじゃな』
いつの間にか現れ、梁にぶら下がって遊んでいた銀のイフリーダの言葉を聞き、自分は首を横に振る。
『連れ戻さないよ。スコルはやることがあって拠点から出ていったはずだからね。無事が分かればそれで良いし、手伝えることがあるなら手伝う。それだけだよ』
スコルの身に、拠点を出なければいけない、そんな何かがあったのだと思う。それを責めるつもりはない。
ただ、自分はスコルを仲間だと思っていた。だから、一言欲しかっただけなんだ。
こちらが助けたことも、逆に、スコルに助けて貰ったことだって何度もある。スコルが助けを必要としているなら、自分はいくらでも手を貸す。
だから、一言だけでも欲しかった。
それがスコルを追いかけた理由だ。
『それでどうするのじゃ』
『この梁の上から下に降りるのは難しそうだから、スコルの戦いが終わったら声をかけてみるよ』
スコルは白い塊と戦い続けている。邪魔をしてはいけない。
それにしても、スコルの目的もこの城だったとは……。
もしかして、とは思っていたが、こんなことがあり得るのだろうか。
スコルも強大なマナを倒すために動いているのだろうか?
……。
分からない。
スコルに聞かないと分からない。
……。
しばらくして、スコルが大きな咆哮を上げた。
見ればスコルを取り囲んでいた白い塊の全てが真っ赤な色に変わっていた。どうやら戦いは終わったようだ。
「スコールーッ!」
梁の上から身を乗り出し、スコルへと呼びかける――叫ぶ。
戦いを終え、伏せて一息ついていたスコルがこちらの声に気付き、その顔だけを上げる。
ここからではよく見えないが、青い塊のスコルの耳部分がピクピクと動いている気がする。
「スコルーッ!」
もう一度呼びかける。
伏せて青い塊となっていたスコルが起き上がり、顔を頭上に、こちらの方へと向ける。
こちらに気付いてくれたようだ。
そして、スコルは頭を小さく下げ、ため息でも吐いているような様子で動き出した。こちらを向いたのはその一度だけ。スコルは、一瞬、こちらへと顔を向けただけで城の奥へと消えていった。
『ふむ。どうするのじゃ』
銀のイフリーダの言葉。
どうする?
決まっている。
『ふむ。あれを追いかけるのじゃな』
首を横に振る。
『スコルには会えたから、もう大丈夫だよ。後は元凶を倒すだけ。そちらを優先するよ』
スコルにはスコルのやることがある。
それを邪魔はしない。
自分は自分の出来ることをする。
それに、だ。
多分、スコルが進んでいるのは、この城の正規の道筋なのではないだろうか。今、自分が進んでいる場所に魔獣の姿が見えないのは、正規の道順で進んでいるスコルが、それら魔獣を一手に引き受けてくれているからではないだろうか。
それなら!
スコルを助ける?
違う、スコルはそれを望んでいないはずだ。
それを有効活用させて貰うべきだ。
自分は、このまま一気に元凶の元まで駆け抜け、倒す。
それが一番のはずだ。
自分よりも先に、この吹雪の大地に消えたスコルが、何処をどう進み、そして、どうして、今の狙ったかのようなタイミングで出会うことになったのかは分からない。
でも、お互いの出来ることをやるべきだ。
スコルはスコルの戦いを。
自分は自分の戦いを。
お互いの戦いを協力して行う。
これも仲間だから、こその連携だよね。
梁の上からシャンデリアを落とす。