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ソライフ  作者: 無為無策の雪ノ葉
氷雪凍土
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136 緑鋼の剣

「柄が外れないな。鋳造とは思えないが、どういうことだ?」

 亡霊がぶつぶつと呟きながら鍛冶作業を行っている。

「ああ、だから、元の部分の上から鉄で刃を作ったのか。しかし、そうなると、これが邪魔に……」


 亡霊はぶつぶつと呟きながら考え込んでいる。光る青い球体の中で緑鋼がドロドロに溶けたままになっているけれど大丈夫なのだろうか。


「いっそのこと全部溶かして作り直すか。しかし、マナ銀と鉄が混じって……」

 亡霊のつぶやきは続く。

「鉄部分を落とすためにも魔法炉に突っ込むか。まぁ、何とかなるだろう」


 亡霊がガラクタを蹴っ飛ばし、その中から、もう一つのやっとこを取り出す。


 そしてフードをかぶり直す。


 鉄の剣の柄部分を、そのやっとこで掴み魔法炉に突っ込む。鉄の部分が一瞬にして溶けてドロドロの塊に変わる。

 そして、亡霊が鉄の剣を――鉄の剣だったものを引き抜いた。


 それに合わせて溶けて液体となった鉄が飛び散る。


「うわ、危ない!」

 飛んできた液体を慌てて避ける。


 溶けた鉄なんて浴びたら洒落にならない。下手したら燃えて死んでしまう。


「あ、ああ。大丈……いや、私は危ないから近寄るなと忠告していたからな」

 亡霊がフードを外し、キョロキョロと目をせわしなく動かしている。よく見ると、その、かぶっていたフードに金属片がくっついていた。もしかすると、このフードは溶けた金属から身を守るためのものなのかもしれない。

「そうです……ね」


 夢中になると周りが見えなくなる性格で間違いないようだ。


 改めてフードにこびりついている金属片を見る。


 いや、たんに大雑把な性格なだけかもしれない。


「ま、まぁ、今のは私も危なかったからな。もう少し注意して取り扱おう」

 亡霊がやっとこで剣の柄を挟んだまま、うんうんと頷いている。溶けた鉄がボタボタと地面に落ちている。


 いや、だから、それが危ないんじゃないかな。


 尻尾を服の下に隠すのも頷ける。


 にしても、溶けた鉄が地面に落ちているのに、なんともないなんて、ここの床はどんな材質で作られているのだろうか。鍛冶仕事が出来るように特殊な補強がされているのかもしれない。


 そして金属片がこびりついたフードと外套。


「そのフード付きの外套は、もしかして……」

「あ、ああ! 良く気がついたな。鍛冶仕事を行うための特別製だ。燃えにくく熱にも強い優れものなのさ。ただ、ずっと着ていると熱くて蒸れて大変なんだがね」

 亡霊は外套を持ち上げてパタパタと扇いでいる。てっきり正体を隠すための外套かと思っていたが、鍛冶作業用の服装だったようだ。


 大雑把なこの人には必ず要るものなのかもしれない。


「だから、離れていた方がいいって言ったろう」

 亡霊は犬耳をパタパタと動かし、冗談めかしてそんなことを言っている。


 亡霊は作業着を持っているから大丈夫だが、自分は燃えやすい毛皮装備だ。冗談ではなく、本当にかなりの距離を離れていた方が良いかもしれない。


 亡霊が、元々の自分が手に入れた時と同じ、折れた刃の姿に戻った剣を金床の上にのせる。そして、またフードをかぶり直し、やっとこを持って魔法炉の中から、ドロドロの緑鋼を取り出す。


 溶けた塊となった緑鋼を金床の上にある、折れた剣の刃と混ぜ合わせるようにのせる。

「さて、と私の鎚は何処にあったかな」

 その状態で、亡霊がガラクタを蹴り飛ばし、何かを探し始めた。溶けた金属を放置して大丈夫なのだろうか? 冷めて固くなってしまわないのだろうか?


 そして、ふっと何か思い出したように手を叩く。

「そういえば、用心として武器代わりに、ここに……」

 外套の下に手を伸ばし、そこから小さなハンマーを取り出す。ハンマーはあまり大きくない。頭部が人の手のひらくらいの大きさしかないハンマーだ。


 そのハンマーを使いドロドロになった緑鋼を叩く。片手には、動かないようにやっとこで挟んだ折れた剣、片手には小さなハンマー。


 亡霊は緑鋼を叩き続ける。


 溶けた緑鋼を叩いて引き伸ばしているのかもしれない。


「何で鍛冶士が鎚で金属を叩くか分かるかい?」

 緑鋼を叩きながら亡霊が呟く。


 金属を叩く理由?


「形を整えるためですか? それとも金属の中の不純物を追い出したり、隙間を無くしたりして硬くするため?」


 緑鋼を叩き続けている亡霊が首を横に振る。


「お前の言っていることはよく分からないが、違う、違うな」

 よく分からないのに否定されてしまった。

「多くの鍛冶士が空気中のマナを取り込むためだって言うんだが、私は違うと思うんだ」

 亡霊は言葉を続ける。


 空気中のマナを取り込む?


 そのために叩いている?


 空気の中にマナが混じって漂っている?


 分からない。


「叩くのは、鍛冶士が金属を叩くのは、さ!」

 そこで亡霊が言葉を止め、ためる。

「作り手の思いを、作り手の思いをさ! その中に封じ込むためだ」

 フードで表情は見えないが、亡霊は、ちょっと得意気な顔をしている気がする。見えなくても分かる。


「あ、すいません。刃はあまり横に広げないでもらえますか?」

「え? あ、ああ。そう……って、何でだ?」

 良いことを言ったと得意気なところを悪いが、少しだけ聞いて欲しい。


「出来れば鞘に入る形にして欲しいです」

「その鞘に、か? あまり成型は得意じゃないんだがな」

 亡霊は少しだけ困っている様子だ。


「あー、はい。出来れば、でお願いします」

「仕方ないな。私の腕を疑われても困るからな。やってやるさ、やってやるよ」


 亡霊が緑鋼を叩き、叩き、そして再度、魔法炉の中に突っ込む。そして、引き抜き、また叩く。


 それを何度も繰り返し、刃を作り上げていく。


 本来の鍛冶のやり方を詳しく知っているわけではないが、魔法炉を使った刃物はこうやって作り上げるようだ。


 刃作りが続く。


「よし、これで完成だな」


 そして、長い時間をかけ、新しい剣が完成した。


 鈍く薄暗い緑色に輝く刃を持った剣だ。


「持って見ろ」

 亡霊から緑鋼の剣を受け取る。


 軽い。


 刃を足しているのに、元々の折れた剣と変わらない重さにしか思えない。


 この緑鋼は本当に軽い金属のようだ。


 そして、くるりと剣を横にして刃の作りを見てみた。


 ……。


 あまり尖ってない。それどころか少しちぐはぐで、でこぼこしている。刃を作るために叩いて潰した跡が残っているというか、何というか……。


「えーっと、これは……」

「おいおい、私の腕が悪いわけじゃないからな。緑鋼は研いだり出来ないから刃付けが難しいんだよ。まぁ、それを言い訳に、そういう手抜きが出来るところも初心者鍛冶士向けなんだけどな」

 そこは手を抜いたら駄目なところだと思うし、逆に熟練者向けの素材だと思います。


「さっきも言ったが緑鋼は硬い。手入れの必要が殆ど無い」

 亡霊がこちらの視線を無視して言葉を続ける。

「無いとは思うが、刃が駄目になった時は打ち直すしか出来ないからな」


 その辺りは、さすが魔法の金属だ。


「恐ろしい金属ですね」

「まぁ、それでも魔法金属の中では下の方なのさ」


 緑鋼の剣を振り回してみる。


 軽く、空気を切り裂くように扱うことが出来る。


 刃が鈍いのは自分の腕で何とかしよう。


 何にせよ、これで武器は手に入った。


 緑鋼の剣を鞘に収める。


「ありがとうございます」


 これで戦える。

鞘に収める形にするため無理をしているので、刃がボコボコになっている可能性……ないです。

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