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ソライフ  作者: 無為無策の雪ノ葉
氷雪凍土
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132 城の迷路

 フードの亡霊の後を追いかける。フードの亡霊は背が高く、足が長いため、こちらとは歩幅が違う。向こうは普通に歩いているつもりでも、油断すると置いてけぼりだ。


 右へ、左へ、城の中のよく分からない細くのびた道を進んでいく。


 通路の天井はかなり高く作られている。前を歩いているフードの亡霊を見る。背が非常に高い。この城は、この人たちの種族が使うことを考えて作られているのだろう。そう思ってみると、この城の外で出会った動く鎧も、この人たちにとっては普通の大きさだったのかもしれない。


 通路の高さはかなり余裕をもって作られているが、横幅は何とか人がすれ違えるほどしかない。そんな通路が折れ曲がり、複雑に広がっている。ここで、このフードの亡霊を見失ってしまえば、大変なことになる。


『外から見ても大きな城だと思ったけど、中も広いね。でも、部屋がなくて細長い通路ばかりだから、迷子になりそうだよ』


 と、そこで前を歩いていたフードの亡霊の姿が消えた。


 見れば、道の先が十字に別れているようだ。フードの亡霊は、その先に進んだのだろう。急いで追いかけないと見失ってしまう。


 十字路まで駆ける。


 そして、その十字路の先は――すぐに折れ曲がり、道の先が隠れて見えなくなっていた。フードの亡霊の姿は見えない。


 これでは、この十字路の、どの道の先に進んだのか分からない。


 まるで蟻の巣の迷路だ。


『見失った』

『ふむ。そのようじゃ』

 いつの間にか銀のイフリーダが隣に立っていた。


『ついてこいって言っていた割には一人で勝手に何処かに行っちゃったね』

『ふむ。長く一人で居て、人との距離感が分からなくなっていると予想するのじゃ』

 銀のイフリーダは、楽しそうにニヤリと笑っていた。


 フードの亡霊の言葉や態度を思い出す。


 確かに銀のイフリーダの言葉通りかもしれない。久しぶりに会った、自分という話が出来る相手に興奮して周りが見えなくなっているような感じだった。


『それにしても、なんでこんなに入り組んで複雑なんだろうね。住んでいて不便なんじゃないかな』

 考えられる理由はいくつかある。


 侵入者を迷わせるためにワザと複雑に作っている。

 建物を拡張していくうちにこうなってしまった。

 少ないスペースを活用しようと思った。

 種族的に、こういう作りの方が相性が良かった。


 でも、そのどれもが理由として、しっくりこない。


『ふむ。ここが住む空間ではないからというのもあり得るのじゃ』

『どういうこと?』

『ソラよ、上を見るのじゃ』

 銀のイフリーダに言われて上を見る。


 天井は高い。


『天井が高いね』

『うむ。よく見るのじゃ』


 天井をもう一度よく見てみる。


 よく見てみると、天井の一部に穴が空いているのが見えた。いや、今は空いていた穴が氷で塞がれているので、穴にはなっていないのだが……。

『何で天井に穴が?』


 考える。


 考えた。


『もしかして、ここは元々は地下だった?』

『うむ。我もそう思うのじゃ』


 下水道か、荷物の運搬用の通路か、もしかすると、そういった場所だったのかもしれない。

『でも、普通に城の入り口から入ってきたよ』

 城の入り口が地下通路に繋がっている?


 そんなことがあるだろうか。


 そこでもう一度考えてみる。


 ……。


「あ!」


 ここはすり鉢状に凹んでいた。その中心に、この城があった。


 元々はすり鉢状に凹んでなかったとしたら?


『本来の城の入り口はもっと上にあった?』

 何が原因で沈んでしまったのか分からないが、そう考えると、しっくりときた。


『だから、ここは複雑に入り組んでいる?』

 しかし、それが分かったとして、だから、どうだという話だ。


 フードの亡霊とははぐれてしまった。


 このままでは、この入り組んだ迷路で迷子になってしまうかもしれない。


 さて、どうしよう。


『えーっと、確か、迷路では右手を壁につけて歩いて行けば、いつかは目的地にたどり着けるって聞いたことがあるよ』

『ふむ。確かに悪くない考えなのじゃ』

 確かに、この方法で進めば、はぐれてしまっている今でも大丈夫だろう。


 ただ、問題がある。


 大きな問題だ。

『これ、殆ど全ての道を通ることになるから凄く時間がかかるんだよね。それに、この道に罠があったら……』

 この迷路が下水道や荷物搬入路だったのなら、罠は無いと思うが、それはあくまで自分の想像でしかない。

 罠がないとは言い切れない。


 それにかつては、そうであったとしても、今もそうだとは限らない。


 どうしよう。


 ……。


 と、そこで一つの考えが浮かんだ。


『そうだよ。そうだった』

『ふむ。どうしたのじゃ?』


 もっと簡単な方法があるじゃないか。


「亡霊さーん!」

 叫んだ。


「何処ですかー!」

 とにかく大きな声で叫んだ。


 フードの亡霊は自分の声が聞こえたから会ってみようと思ったと言っていた。


 つまり、だ。


 彼女の種族は、とても耳が良いのではないだろうか。


 叫び、しばらく待つ。


 ……。


 ……。


 もう一度、叫ぼうかと思ったところでフードの亡霊が現れた。


「はぐれるな」

 フードの亡霊はいじけたような様子でそんなことを言っている。

「すいません。ただ、もう少しゆっくりと歩いてもらえると助かります」

 そして、こちらの上から下までをゆっくりと眺める。


「……子どもの歩幅を考えていなかった、か。分かった、ゆっくりと歩こう」

 自分が小さいから、というよりも、フードの亡霊が大きすぎるだけだと思うのだが。

「助かります」

「あ、ああ。なんなら、担いで運ぶが?」

「それは遠慮しておきます」

 荷物のように担がれて運ばれたくはない。

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