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ソライフ  作者: 無為無策の雪ノ葉
氷雪凍土
133/365

131 吹雪の亡霊

 巨大な城が口を開けて、こちらを待ち構えている。


 声の主に導かれるように城の中へと入る。


 城の中へと踏み入った瞬間、こちらを追いかけていた鎧たちの動きが止まる。そして、そのまま、こちらへの興味を失ったかのように城から離れていった。


「アレは、この城の中までは追ってこないからな」


 謎の声に振り返る。


 そこに立っていたのはフード付きの外套を纏った人物だった。かなり背が高い。自分の倍近い背の高さだ。人というよりも巨人だ。


 フードを深くかぶっているため顔は見えないが、そこからこぼれ落ちている長くのびた青い髪、そして、体つき、声の感じから、謎のフードの人物は女性のように見えた。


「えーっと、初めまして」

「う、ああ、初めまして」

 フードの人物は、少しどもりながらも反応してくれる。言葉が通じている。銀のイフリーダから習った言葉で問題ないようだ。


「自分はソラと言います。あなたは誰ですか?」

「まずは、自分から名前をなの……って、ああ、随分と礼儀正しいな」

 フードの人物は腕を組み、感心したように何度も頷いていた。


「答えたくないことなら、それでも良いんですけど……」

「あ、ああ! すまないな。私はこの城に住む亡霊の一人だ」

 亡霊の一人? 一人と言うことは他にも誰か住んでいるということだろうか。


「それで、あなたは……」

「ああ。言わなくても分かるぞ。強大なマナに惹かれて、それを奪いに来たのだろう」

 フードの亡霊さんが何やら勝手に話を進めて、勝手に納得している。


「いえ、違います」

「そうだろう、そうだろう。だが、その強大なマ……うん?」

 確かに強大なマナを得ることは目的の一つだ。しかし、今回の目的ではない。


「友人を探しに来ました」

「友人……だと? こんな廃墟に、なのか」

 フードの亡霊さんが腕を組んだまま唸っている。廃墟だと何か不味いのだろうか。


「見ていませんか?」

「見ていない。会話が出来そうな存在はお前が初めてだ。そもそも、お前の声が聞こえなければ、お前と会ってみようとは思わなかったくらいだ」

 もしかすると、この人は、自分が外で喋っていた独り言を聞いて、それで声をかけてくれたのかもしれない。


「えーっと、その友人は喋れません。青い毛並みを持った大きな狼の魔獣です」

「なんだと!」

 フードの亡霊さんが驚きの声を上げる。


「知っているんですか?」

 フードの亡霊さんはゆっくりと頷く。

「それは女王の眷属だな。はぐれの一部が生き残っていたのだな」

「ここで見ていませんか?」

「アレの近くには飼い慣らされたのが沢山いるだろう」

 飼い慣らされた?


 どうにも話がかみ合っていない気がする。


「探しているのは自分の友人です。女王の眷属を探しているわけではありません」

「しかし、魔獣は魔獣で同じだと思うのだが」

 この人と自分の認識は違うようだ。

「違います。探しているのは女王の眷属という魔獣ではなく、友人のスコルです」

 フードの亡霊は組んでいた腕をほどき、少しだけ首を傾げる。


「分からないな」

「分かりました。もう一つだけ聞いても良いですか?」

「うん? あ、ああ。答えられることならな」

「この都市の外で、友人の一人が吹雪によって氷漬けになっています。助ける方法を知っていませんか?」

「氷漬け? それは死んでいるだろう。死者を生き返らせるのは無理だな」


 ……。


 質問の仕方が悪かったようだ。


「氷を溶かす方法はありますか?」

「この吹雪の元凶、強大なマナを奪ったアレを倒せば、氷は溶けるだろうな」

 強大なマナ。


 それが吹雪の原因。


『イフリーダ。どうやら、強大なマナを持った存在を倒す必要が出てきたようだよ』

『うむ。我の思惑通りなのじゃ』

 思惑通りなのか。


「分かりました。予定を変更して強大なマナを持った存在を倒しに行きます」

 自分がそう言うとフードの亡霊は慌て始めた。

「お、おい。本気で言っているのか。お前は子どもだろう? 最初は、そういった種族なのかと思ったが、どうも違うようだ。見たまま子どものようだが、それがアレを倒すだと、無理に決まっている」

 無理かどうかは……、

「やってみないと分かりません」

「馬鹿な。やってみたら殺されるだろうが。そんな寝覚めの悪いことを見過ごせるか」


 このフードの亡霊は、悪い人じゃないのかもしれない。


 でも。


「それでも行きます」

 まずは吹雪の元凶である強大なマナを持った存在を倒す。それから、ゆっくりとスコルを探そう。吹雪が止めば、語る黒さんも助かるし、捜索もし易くなるはずだ。


「せっかく話が出来たのに……子どもには無理だ」

「気にしないでください。いつものことです」

 強大な敵に立ち向かうのはいつものことだ。


 今までは銀のイフリーダが居なければ勝てなかったような相手ばかりだった。今回もそうなのだろう。


 今回も強大で強力な敵なのだろう。


 それでも、自分はやるべき事をやるだけだ。


「しかし、お前、その、それだ、その、おんぼろ剣で戦うのか?」

「そうですね。でも、これは自分の友人が鍛えてくれた剣です」

 鉄の剣はヒビが入り、壊れかけだ。


 しかし、今、手元にある武器はこれくらいしかない。


 ここで何か武器が手に入れば、と思ったが、どうやら、この鉄の剣で戦うことになりそうだ。


「お前……」

 フードの亡霊は、言葉を詰まらせ、こちらを見ている。フードを深くかぶっているため、その表情は見えない。


「この城に、その元凶が居るんですよね。行ってきます」

「……あ、ああ。分かった。分かったよ」

 フードの亡霊が肩を竦める。

「こっちだ、ついてこい」

 フードの亡霊が外套を翻し、歩いて行く。


『もしかして案内してくれるのかな』

『ふむ。罠の可能性も考えるのじゃ』

 銀のイフリーダの言葉に頷きを返す。


 とりあえず、この亡霊の後を追おう。

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