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ソライフ  作者: 無為無策の雪ノ葉
氷雪凍土
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127 吹雪の迷宮

 考える。


 外は吹雪。


 今、自分たちは吹雪に閉じ込められている。


 洞窟の奥で、体力を温存するために膝を抱えて座り、動かず、ただただ、語る黒さんの帰りを待つ。


『今日は遅いね』

『ふむ。必死に探していると思うのじゃ』

 銀のイフリーダの言葉通り、なんとしてでも燃やせるものを持って帰ってこようと粘ってくれているのだろう。


 ただ、語る黒さんの帰りを待つ。


 待つ。


 ただ、待つ。


 待ち続け、語る黒さんのあまりにも遅い帰りに、何かあったのでは、と不安が募る。


 ……。


『遅いね』

『ふむ』

 あまりにも遅すぎる。


 もう、じっと座って待ち続けることが耐えられない。


『少し様子を見てくるよ』

 せめて洞窟の入り口の方で待とう、と立ち上がる。座って待っていると嫌な想像をしてしまう。


『ふむ。その必要は無くなったようなのじゃ』

 銀のイフリーダの言葉を聞き、歩き出そうとした足を止める。


 そして、待つ。


 ……。


 洞窟の入り口の方から人の気配を――こちらに近寄ってくる気配を感じる。


「遅くなったのです」

 そして、語る黒さんが戻ってきた。


 無事に帰ってきてくれた。


「お帰りなさい。かなり遅かったみたいですが、何かあったんですか?」

 語る黒さんは、少しだけ申し訳なさそうな顔をし、そのまま首を横に振る。

「何も無かったのです」

「何も無かった?」

 語る黒さんが頷く。

「何も得られるものはなかったのです」

 語る黒さんの手には何も無い。成果がなかったのは一目瞭然だ。


「語る黒さんが無事に戻ってきてくれただけで良いですよ」

「申し訳ないのです。何故か同じところをぐるぐると回っていたようなのです。この吹雪に閉じ込められているのです」


 同じところを……?


 吹雪に閉じ込められている?


 何だろう、何か、おかしい気がする。


 自然じゃない、何か違和感が……。


 いや、考えるよりも先にやることがある。


 外の猛吹雪の中を、燃えるものを探して歩き続けてくれた語る黒さんのために出来ることをしないと。


「まずは食事にしましょう」

 そうだ。お腹いっぱい食べて、それから考えよう。

「しかし、燃やせるものがないのです」

 確かに用意していた木は全て無くなってしまった。


 このままでは食事の用意も出来ない。


 だけど、まだ燃やせるものなら、ある。


「これを使います」

 鉄の槍を語る黒さんの前に置く。

「それは戦士の王の……」

「これを使いましょう」

 鉄の槍の握り部分は木で作られている。これを使えば、火は起こせる。


 鉄の剣を引き抜き、鉄の槍を半分に叩き折る。そして、燃えやすいように削っていく。削りかすを火口に使い、火を起こす。


「さあ、食べましょう」

 魔獣の肉を焼き、食べる。食べながら、手元に残った鉄の槍を見る。


 鉄の槍は半分の長さになってしまっている。もう、槍とは言えない長さだ。


 この残りを使えば、もう一回くらいは火を起こせるはずだ。


 でも……。


「戦士の王、これからどうするのです」

 語る黒さんがこちらを見る。


 本来なら撤退するような状況だ。


 しかし、撤退は……ない。いや、撤退が出来ないと言った方が正しい。吹雪によって視界を奪われ、帰ろうにも帰る方向が分からないのだ。


 自分たちは、吹雪の迷路に閉じ込められている。


 出来ることは、このまま吹雪が止むのを待つだけ。


 もう一回は火を起こせる。


 これで……。


 いや、本当に待つだけなのか?


 ……。


 出来ること……?


「語る黒さん、残った魔獣の肉を運べますか?」

「大丈夫なのです。しかし、どうするのです」

 語る黒さんが不安な様子でこちらを見る。


 うん、こんな状況だもんね。不安になるよね。


 だからこそ、自分がしっかりしないと。


 自分は語る黒さんの方を向き、力強く頷く。

「任せてください!」

 毛皮のマントの下から手を出し、服の袖を引き裂く。

「何をするのです!?」

 引き裂いた布。これも燃える。


 布を半分になった鉄の槍に巻いていく。


 そして、その巻いた布に肉の脂を塗りつける。


 これで簡易の松明になるはずだ。魔獣の油を塗っているから、燃やせば酷い臭いが出るだろうし、煙も沢山出るだろう。しかし、今は、逆にそれが助けになるはずだ。


「この吹雪を脱出します」

「どうやって脱出するのです!?」

 語る黒さんは驚いた様子でこちらを見ている。


 多分……この吹雪は止まない。


 語る黒さんが戻ってきた時に言っていた『同じところをぐるぐると回って……』という言葉。


 この吹雪の性質。


 最初に火を起こした時に、煙は吹雪の方へと向かっていった。今も、煙が出れば吹雪に吸い寄せられている。何か力の元が周囲の空気を吸い寄せ、それを吹雪としている。


 原理は分からない。


 でも、そんな気がする。


 この吹雪は自分たちを閉じ込めたのではなく、吹雪の迷宮を作り、何かを守っているのかもしれない。


 煙の向かった先にあるのは吹雪の中心――吹雪を起こしている何かがあるはずだ。


 全て憶測だ。


 こうあって欲しいという自分の思い込みかもしれない。


 それでも、自分は、語る黒さんの方を向き、自信を持って語る。

「この吹雪を抜ける方法が分かりました。任せてください」

 不安なところは、弱いところは、不安にさせるような姿は、語る黒さんに見せてはいけない。


『イフリーダ、約束、守れないかもしれない。自分の思い込みで失敗するかもしれない』

 だから、銀のイフリーダにだけ伝えた。

『ふむ。ソラよ、どうしようもなくなったら我に任せるのじゃ』

 銀のイフリーダは胸を張り、力強く笑う。


『うん、その時はお願いするよ』

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