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ソライフ  作者: 無為無策の雪ノ葉
氷雪凍土
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126 吹雪の牢獄

 散らばっていた肉片を出来るだけ集め火を起こす。


 火が起こり、肉片を燃やし、煙が立ち上る。


「あれ?」

 自分の予想に反し、立ち上った煙は入り口の方へと流れていった。

「どうしたのです?」

「あ、はい。たいしたことではないんですが、部屋の中に煙が充満する可能性を……考えていたんです。なのに煙は入り口の方に向かっているのでおかしいな、と」

「よく分からないのです」

 語る黒さんは首を傾げている。


「外は猛吹雪です。洞窟の中に風が吹き込んできそうな状況です。なのに……」

 なのに、煙は外に向かっている。まるで何かに吸い寄せられるかのようだ。

「確かにおかしいのです。でも、そのおかげで煙りまみれにならないのです」

 確かにその通りだ。


 魔獣の肉片が燃え、周囲に美味しそうな匂いが漂う。血の臭いが中和されるかのようだ。そして、その匂いは焼け焦げた苦い匂いへと変わっていく。


 血なまぐさい匂いは消えたが、その代わりに焼け焦げた匂いが残った。

「焦げ臭いのです」

「そうですね。でも、煙は外に流れてます。そのうち、匂いも消えるはずです。それまで肉を捌きましょう」

「分かったのです」


 洞窟の入り口へと戻る。入り口は、外からの冷気が吹き込み、肌寒い。それでも、この場で処理をしてしまうべきだ。


 語る黒さんが鉄の短剣を取り出す。自分も石の短剣を取り出し、二人で協力して魔獣を捌いていく。


 まずは、語る黒さんに頼み、魔獣の腹へと切り込みを入れて貰う。語る黒さんの持つ鉄の短剣がきらめく。


 さすがは鉄の短剣だ、石の短剣とは違い、よく刃が通る。魔獣の皮膚をものともしない。それとも、魔獣が死んだことで、この魔獣を守っていた力のようなものが抜け出たからなのだろうか。

「内臓はどうしますか?」

「さすがに内臓は食べる気にならないのです」

 お肉が大好きな蜥蜴人でも内臓は食べないようだ。


 スコルなら喜んで食べてくれそうなのだが、さて、どうしよう。


「外に穴を掘って埋めるのです」

 語る黒さんの提案……だ。

「でも、外は凄い風と雪ですよ」

「私なら問題無いのです」

 蜥蜴人さんたちは寒さに強い。自分が考えているよりも、もっと、もっと、寒さに強かったようだ。

「分かりました。お願いします」


 まずは魔獣の体内からマナ結晶を引き出す。取り出したマナ結晶は……待ち構えていた銀のイフリーダに食べられてしまった。素早い行動だ。

『ふむ。まぁまぁなのじゃ』

『そうなんだ。強い魔獣だと思ったけど、それでも、まぁまぁなんだ』

『うむ。迷宮の深層にはびこる魔獣とは比べものにならないのじゃ』

 銀のイフリーダの話の中にときどき出てくる迷宮という言葉。


 その迷宮の攻略が銀のイフリーダの願いだ。


 それは、どんなところなのだろうか。恐ろしく強い魔獣が跳梁跋扈している洞窟? 想像が出来ない。


 内臓を取り出し、その処分を、語る黒さんにお願いする。

「任せるのです」


 語る黒さんが内臓の処分を行っている間に自分は魔獣の毛皮の剥ぎ取りだ。


 この処理は語る黒さんから鉄の短剣を借りて行う。


 やはり石の短剣とは切れ味が違う。


 すいすいと刃が通る。


 毛皮を剥ぎ取り、肉の塊を切り分けていく。


 肉の切り分けを行っているところで、語る黒さんが外の吹雪から戻ってきた。

「処分してきたのです」

 そして、何故か、沢山の雪を抱えている。

「その雪は?」

「残りは私が行うのです。戦士の王は、この雪を使って、血を落とすのです」

 語る黒さんの言葉を聞き、改めて自分の手を見る。血で真っ赤に染まっている。途中で毛皮の手袋を外していたが、それで正解だったかもしれない。


「手だけではないのです。顔も血まみれなのです」

 語る黒さんはこちらを見て少しだけ呆れている様子だ。


 夢中で肉の解体を行っていた。全身、血まみれなのかもしれない。


 ありがたく雪を受け取り、手と顔についた血を拭う。とても冷たい。


「外の様子はどうでした?」

「凄い吹雪なのです。いつ止むのか分からないのです」

 確かに、ここから見るだけでも外は猛吹雪だ。


 こんな中を進んでいれば、迷子になり、最終的には凍死してしまうだろう。


 ある程度、肉を捌いたところで食事にする。

「焼き肉なのです」

 語る黒さんは嬉しそうだ。

「皆で食べたかったですね」

 大きな魔獣だ。その肉は、二人で食べきるには、何日もかかるだろう。


「さすがに今日は飲み水を作るのは無理なのです」

「はい。外の雪を溶かして水にしましょう」

 魔獣との戦いでは語る黒さんの魔法に助けられた。これは仕方ない。


 剥ぎ取った毛皮を洞窟の奥で乾かす。これを毛皮のマントの上からかぶれば、今よりもっと寒さに強くなる。寒さを防いでくれるはずだ。


 そして、洞窟での生活が始まった。


 一日が経ち、二日が経ち、三日が経つ。


 しかし、吹雪は止みそうにない。


「今日はこれだけなのです」

 燃やすための木が少なくなってきたところで、語る黒さんが吹雪の中から木の枝を探しに行ってくれるようになった。しかし、拾える木の枝の数はあまり多くない。


「助かります」

 吹雪の中で燃やせるものを探すのは大変なはずだ。感謝しかない。


 四日が経ち、そして五日目に入る。


 外の吹雪は変わらない。


 まだまだ魔獣の肉には余裕がある。


 食べ物は大丈夫だ。


 飲み水も作れる――問題無い。


 しかし、火が……燃やすための燃料が心許ない。


 火を起こすことが出来なくなれば、肉を生で食べる必要が出てくるし、雪から水を作ることも出来なくなる。生で肉を食い、水分を取るために雪を食べる。そんなことをすれば、間違いなくお腹を壊してしまうだろう。


 この状況でお腹を壊せば――それは命に関わってくる。


 寒さは……大丈夫だ。我慢できる。


 火だ。


 火が必要だ。


 六日目。


 やはり吹雪は止まない。


 止む気配がない。


『こんな場所で足止めされて……そんな場合じゃないのに』


 気持ちばかりが先行して、焦る。


 しかし、外の吹雪は変わらない。


 猛威を振るっている。


 七日目。


 燃やすものがない。


 火がおこせない。


 今回の旅は、ここまでの日数をかけるつもりではなかったため、準備が足りていない。


 もう限界だ。


 語る黒さんは、この吹雪の中、燃料を探しに行ってくれている。


 ここ数日、探しに行ってくれているんだ。近場は探し尽くしている。新しい燃料を見つけるのは難しいだろう。


 何か、行動を起こさないと駄目だ。


 このままでは……。

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