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ソライフ  作者: 無為無策の雪ノ葉
氷雪凍土
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125 吹雪の代償

 迫るかぎ爪を受け流しながら、好機をうかがう。


 洞窟の奥の部屋がいくら通路よりは広くなっているといっても、逃げ回ったり、槍を振り回したり出来るほどの広さはない。横ではなく、縦や点での行動が求められる。


 その場で上から迫るかぎ爪を受け流し続けるしかない。


「くっ!」

 魔獣が振るうかぎ爪の回転が速くなっていく。こちらを押し潰すほどの勢いだ。


 こちらは相手の攻撃を防御しているわけではなく、かぎ爪の動きを見切り、間を合わせての受け流しだ。それに対して、向こうは力任せにかぎ爪を振るい続けるだけ、労力が違う。


 徐々に魔獣の攻撃に押されていく。


 このままでは不味い。


 自分に相手の攻撃を受け止めるだけの膂力があれば!


「……水の壁を作って欲しいのです――ウォーターシールド!」


 語る黒さんの力有る言葉を受け、目の前に水の壁が作られる。


 語る黒さんの魔法だ!


 水の壁が魔獣のかぎ爪を跳ね返す。しかし、その一撃で水の壁はあっさりと壊れてしまう。


『でも!』


 魔獣はかぎ爪の一撃を跳ね返され、のけぞっている。


『隙が出来たっ!』


 鉄の剣を下向きに構え、斬り上げる。鉄の剣から生まれた衝撃波が魔獣を襲う。


 そして魔獣の左手が血煙とともに宙を舞った。


『外した!』

 魔獣がのけぞっていた体を無理矢理、捻り動かし、回避した。


 致命傷を避けた!


『それでも!』

 鉄の剣を構え直し、駆ける。


 懐に入って必殺の一撃をたたき込む!


 鉄の剣を振り上げ――そして、その一撃が魔獣の残った右のかぎ爪によって防がれた。鉄の剣がかぎ爪に挟み込まれ防がれている。そして、その怪力によって鉄の剣ごと押さえ込まれる。

『思っていたよりも反応が良い!』

 まるで戦うことに特化したかのような魔獣だ。


 ぴしりと嫌な音とともに鉄の剣にヒビが入る。


『鉄の剣が!』

 いや、鉄の剣どころではない。このままでは鉄の剣ごと押し潰されてしまう。


 鉄の剣を手放して魔獣との距離を……。


 距離を取りたいが、その隙が無い。鉄の剣を手放そうとした瞬間に押さえ込まれ、やられてしまう。


「……水の飛沫を作って欲しいのです――アクアショット!」

 語る黒さんから水の塊が飛び、こちらを押さえ込んでいた魔獣の目に刺さる。その一瞬、魔獣の手が緩む。


 すぐさま鉄の剣を手放し、転がるように距離を取る。


 そして、すぐに立ち上がり、背中の槍を引き抜く。


 錬金小瓶の破片を使った槍。


 魔獣が目から涙を流しながら咆哮を上げる。


 こちらに突撃するつもりだ。


 しかし、遅い!


 咆哮を上げた魔獣の顔面を目掛け、錬金小瓶の破片を使った槍を投げ放つ。


 槍が空気を、空間を切り裂き、うねりを上げて飛ぶ。


 視界を奪われている魔獣は、飛んでくる槍の速度に対応出来ない。


 そして、槍は、天然の毛皮に覆われた魔獣の顔面を貫き、粉砕する。しかし、その一撃に耐えられなかったのか、錬金小瓶の破片を使った槍も途中から折れ、砕け散った。


 頭を粉砕された魔獣が大きな音を立てて崩れ落ちる。


「何とか倒せたようです」

 語る黒さんの方へと振り返る。ここに潜んでいた魔獣はかなり強い魔獣だったのだろう。それでも、何とか倒すことは出来た。


 しかし、その代償は大きい。


 ヒビの入った鉄の剣。折れてしまった錬金小瓶の破片を使った槍。もう、まともな武器は鉄の槍しかない。


『イフリーダ、この魔獣の肉は食べられると思う?』

 自分の言葉に応えるように、銀のイフリーダがひょっこりと現れる。まるで最初からその場にいたかのような現れ方だ。

『うむ。食べられるのじゃ。それよりもマナ結晶なのじゃ』

『……そうだね』

 肉は食べられるようだ。


「今日の晩ご飯が手に入りました」

 自分のその言葉に、何故か、語る黒さんは、少しだけ嫌そうな顔をした。

「それは良かったのです。それよりも酷い血の臭いなのです。このままだと休むのが難しそうなのです」

 語る黒さんの言葉を聞いて、改めて倒した魔獣の方へと振り返る。


 辺りには魔獣の血と肉片が飛び散っている。相手の頭を粉砕したのだから当然だ。


 戦いの高揚が消え、冷静になると、その漂う濃い血の臭いに吐き気を覚えた。


 ああ、語る黒さんは、自分の言葉に嫌そうな顔をしたのではなく、匂いに顔をしかめていたのか。

「確かに、これは酷い……」

 魔獣からは未だに血が流れ続けている。


「と、とりあえず、魔獣を洞窟の入り口まで運びましょう」


 語る黒さんと二人で洞窟の入り口まで魔獣を引っ張っていく。流れ落ちた血が洞窟内に線を作る。

「それで、どうするのです」

「とりあえず、火を起こして、血と肉片を燃やしましょう。燃やしきってしまえば匂いは薄れるはずです」

「この魔獣は、どうするのです」

「この寒さなので腐ることは無いと思います。後で処理しましょう。今日は焼き肉です」

「肉は嬉しいのです。ただ、作業量を考えるとうんざりするのです」


 確かにその通りだ。


 この魔獣の死骸は巨大な肉の塊だ。捌ききるのにどれだけの時間がかかるかも分からない。マナ結晶も取り出さないといけない。

 洞窟の奥も最低限、眠られるようにする必要がある。


 洞窟の外では吹雪が続いている。


 吹雪によって空が隠され、今が夕方なのか、夜なのかも分からない。


 ただ、これからの作業を考えると、今日は眠ることが出来そうになかった。

「一日仕事ですね」

「生き残れただけでも良かったと思うことにしたのです」

 語る黒さんは大きなため息を吐いていた。


 大量の肉が手に入った。


 寒さを防ぐ天然の毛皮も手に入った。


 水は、外の雪から作ることが出来る。


 吹雪から身を守る寝床も手に入った。


 当分の間、吹雪が続いたとしても、これで耐え凌ぐことが出来る。


 問題があるとすれば、火を起こすための木材が背負い袋に入っている分だけしかないということだけだ。

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