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ソライフ  作者: 無為無策の雪ノ葉
氷雪凍土
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123 失敗しないために

 肌寒さに目が覚める。


 焚き火は……消えていないようだ。ただ、熱源が焚き火だけでは、いくら暖かい毛皮のマントに包まっていても眠っている間に体が冷えてしまうようだ。


 寒さで、少し体が痛い。


 焚き火の火は消えていないので、凍死することはないだろう。しかし、体が冷え切ってしまい、すぐに動くことが出来ない。寒さで体が固くなってしまっている。


 焚き火に手をかざし、ゆっくりと体をほぐす。

『すこしは動くかな』


 その後、包まっていた毛皮のマントを外し、地面に敷いていた布を片付ける。これは語る黒さんが用意してくれた布だ。多分、これも狼食い草の繊維から作られているのだろう。地面に直接眠るつもりでいたので、こういったものがあると、体が汚れることもなく、地面からの冷えをある程度緩和してくれるので、非常に助かる。


 その語る黒さんは……?


 焚き火の側で眠っているようだ。


 二人とも眠っていた、ということだ。その事実に気付く。


『これは油断しすぎ……だよね。大失敗だ。焚き火が消えても困るし、最低でも交代で見張りを行った方が良いよね』

 大きなため息が出る。


 今回は問題無かったが、二人とも眠ってしまった時に魔獣の襲撃を受けていたら――危なかったかもしれない。


『ふむ。ならば我が見張りをしても良いのじゃ』

 銀のイフリーダが、まるで最初からそこにいたかのように焚き火の陰から現れる。

『イフリーダが? 手伝ってくれるなら助かるけど……』

『うむ。何かあった時に伝えることが出来るのはソラのみになるのじゃが……』

 と、そこで銀のイフリーダが眠っている語る黒さんの方を見る。

『まぁ、問題なかろう、なのじゃ』

 何かあった時に、そのことを自分にしか伝えることが出来ない。


 銀のイフリーダの存在が見えていない(と思われる)語る黒さんに反応して貰うのは難しいかもしれない。それでも銀のイフリーダが手助けしてくれるだけで充分だ。

『助かります』

『うむ、任せるのじゃ』

 本当に助かる。でも、銀のイフリーダに頼ってばかりではいけない。他の方法も考えるべきだ。


 ……。


 と、そこで焚き火の火が弱くなっていることに気付く。

『とりあえず焚き火が消えないように木を足そうかな』

 焚き火は燃え続けているが、いつ消えてもおかしくない。昨日は雪が降らなかったので何とかなったが雪が降っていたら危なかったかもしれない。

『これも失敗だよね』

 失敗ばかりだ。


 一つため息を吐き、毛皮の手袋を身につけたまま鞘紐に手を伸ばす。そして、鞘紐を外し、鉄の剣を引き抜く。

『うん、問題無い。手袋をつけたままでも普通に……とまではいかないけれど、無視できる程度で扱えるね』

 昨日は気が張っていたからか、手袋の使い勝手を気にすることなく、普通に行動していた。でも、逆に言えば、それくらい違和感なく、扱えるということだ。


 今回も手頃な木の枝を切り落とし、焚き火の燃料にする。


 そのままキノコを焼いて食事の準備を行っていると、語る黒さんが目を覚ました。

「眠ってしまっていたのです」

「おはようございます」

 もしかすると、夜の間、起きて見張りをしてくれるつもりだったのかもしれない。


「戦士の王は朝が早いのです」

 語る黒さんは、少しだけ眠そうにしていた。

「食べますか?」

 焼いたばかりのキノコを手渡す。

「あ、はいなのです」

 眠そうな語る黒さんはよく分からないまま焼きキノコを受け取り、食べている。


「ずっと起きて見張りをしてくれるつもりだったんですか?」

 そう聞くと語る黒さんは慌てて首を横に振った。

「ち、違うのです。安全が確認出来るまで起きていようと思っていただけなのです」

 語る黒さんは否定する。


 ……ちょっとだけ自分の考えの甘さにため息が出た。


「すいません。自分の考えが甘かったです。自分がすぐに眠ってしまったのは問題でした」

 そうだ。これも自分の失敗だ。拠点にいる時と同じつもりで寝てしまった。いくら気が張っていたといっても、やってはいけない失敗だ。


「次からは交代で見張りに立つか、屋根のあるような安全な場所を見つけてから休むようにしましょう。なので、少し早くてもちょうど良い休める場所があったら、その日は、そこで休むことにしましょう」

 道が分かっている竜の王の時とは違う。右も左も分からない初めての土地なんだ。それを忘れてはいけない。


「分かったのです」

 語る黒さんが頷く。


 もしかすると、語る黒さんは、あまり旅に慣れていないのかもしれない。よく考えれば蜥蜴人さんたちの生活は里の中で完結している。普通の人は、あまり外に出ることがないのかもしれない。特に治療に携わる院の人間なら、その可能性は高い。


「少しは休めましたか?」

「大丈夫なのです」

 大丈夫な人は大丈夫なんて言わない。今日は早めに休んだ方が良いかもしれない。自分は自分一人じゃないと、しっかり理解するべきだ。


 もっと考えて行動しよう。


『どうしても休む場所がない時は、拠点で蜥蜴人さんたちが作っていたような氷の家の、それの小さいものを作って休むしかないかな』


 食事を終え、出発する。


 今日も雪を踏みしめ、歩く。


 天気が良いのだけが救いだ。

「これだけ晴れているなら雪が溶けても良いと思うのです」

「天気が良くても寒いですから……」

 と、そこで気付く。


 確かに雪が溶けている気配がない。


 いくら寒いといっても、今は、晴れているんだ。少しくらいは雪が溶けてもおかしくないはずだ。


 おかしい。


『もしかして、この雪や寒さには、何かの力が働いている?』


 可能性はある。


 これは何かが支配域を広げるための攻撃なのかもしれない。


 なんだか、そんな気がしてきた。

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