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ソライフ  作者: 無為無策の雪ノ葉
氷雪凍土
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122 雪原

 マントを身に纏い、皮の袋に燃料としての枝と大事な食料であるキノコを入れ、背負う。その背中に錬金小瓶の破片を使った槍と鉄の槍を交差させるように結びつける。背負い袋と重なって少し動きにくくなるが仕方ない。

 腰には鉄の剣と石の短剣、それと飲み水を入れた錬金小瓶。

 最後に、フード代わりとして狼食い草の繊維から作った布をかぶる。


 これで準備は完了だ。


「こちらも準備は終わったのです」

 語る黒さんも準備は終わったようだ。語る黒さんの格好はいつもの袖が少しだけ長い法衣だ。語る黒さんは寒さに強い蜥蜴人だ。この格好でも問題がないのだろう

 そして、その背中に自分と同じような袋を背負っていた。中身は食料などだろうか。

「出発しましょう」

「行くのです」


 東の森に沿って北上すると、すぐに崖が見えてきた。崖の前には皆が頑張って作ってくれた階段がある。

「戦士の王、気を付けるのです。昨日降った雪が積もって滑りやすくなっているのです」

 よく見れば階段の上に雪が積もっている。確かに登っている途中で転けてしまったら危険だ。

 気を付けて登ろう。


 ゆっくりと足元を確かめて階段を上る。


 一歩一歩、階段を……。


「あうち……なのです」


 ん?


 なんだか後ろの方で変な声と大きな音が聞こえた。振り返ってみれば語る黒さんが尻餅をついていた。


 転けないように注意した人が転けている。


「何でも無いのです」

 語る黒さんが法衣の裾を払い立ち上がる。


 ……。


「何でも無いのです!」

 語る黒さんが顔を背ける。


「気を付けて登りましょう」

「分かっているのです」


 滑らないように気を付けて氷の階段を上る。


 崖を登った先は雪が積もる平原だった。

「雪原地帯ですね」

「意外と雪が深いのです」

 雪の深さは足が埋まるくらいはある。歩くのに苦労しそうだ。


 遠くの方に木がまばらに生えているのが見えた。


「とりあえず、あの木が生えている場所を目指しましょう」

「分かったのです」

 スコルを追いかける手がかりは……ない。とりあえず、めぼしい場所を目指して進むしかない。

 ずぼずぼと深く沈む雪に足を取られながら進む。


「戦士の王、寒さはどうなのです」

 寒さは……大丈夫だ。


 毛皮の暖かさに感謝する。

「大丈夫です。これなら問題ありません」


 時間をかけ、木々が生えている場所まで歩く。


 木はそこそこ大きく、硬い。枝の上には沢山の雪が乗っているが、それをものともせず大きく伸ばしている。

 東の森の入り口に生えている木と似ていた。


 木が生えている地帯をさらに北上していく。大きく伸びた枝が雪が積もるのを防いでくれているのか、この辺りは積もっている雪の量も少なく歩きやすい。


 木々の隙間を抜け、さらにさらに北上する。


 やがて、空は紅く染まりはじめ、夜が近づいてくる。


「そろそろ野営の準備を始めましょう」

「分かったのです」


 雪が少ない場所を探し、野宿の準備を始める。


「ある程度は木が必要ですよね」

 周囲から手頃な木を探す。


『うん、これで良さそうだ』

 近くの木まで歩き、鞘紐を外す。そして鉄の剣を引き抜く。


 そのまま鉄の剣を構え、振り下ろす。


 空気を切り裂くような鋭い斬撃が木の枝を切り飛ばす。


 ――神技エアースラッシュ。


 雪を振りまきながら、切り飛ばされた木の枝が宙を舞う。


 さらにもう一度。


 鉄の剣を構え、振るう。


 宙を舞った木の枝がさらに細かくバラバラになって落ちてくる。


『出来た』

『うむ。ソラもずいぶんと剣の扱いが上手くなってきているのじゃ』

 いつものようにいつの間にか現れた銀のイフリーダが腕を組み、得意そうな顔で頷いていた。

『ありがとう。鉄の剣になって切れ味が良くなったからね。使いやすくなったよ』


「戦士の王には、驚きなのです。その幼体のような体からは信じられない技なのです」

 語る黒さんが驚き、何処か呆れているような表情のまま、バラバラになった木の枝を拾ってくれる。


「火を起こしましょう」

 背負い袋から乾燥させた木の枝を取り出し、鉄の剣で削る。それを火口として、先ほどバラバラにした木の枝に火を点けていく。

 水分の多い木の枝でも火口さえあれば、時間をかけて燃やすことが出来る。


「食事の用意をするのです」

 語る黒さんが背負い袋からキノコを取り出す。自分も同じようにキノコを取り出し、焼き、食べる。もう食べ慣れたキノコだ――味は、うん。


 焼いたキノコ一本だけでも、結構、お腹になった。蜥蜴人さんたちが主食にしているだけはある。


「飲み水を用意するのです」

 食事を終えた語る黒さんが背負い袋から木の器を取り出す。いつ作ったのか、蜥蜴人さんたちは木の器を作っていたようだ。

 その木の器に雪を盛る。山盛りだ。


「水流と門の神ゲーディア、水門を開き水を癒やして欲しいのです――キュアウォーター!」

 語る黒さんの呪文とともに山盛りの雪が水に変わっていく。

「それは?」

「綺麗な水に作り替えたのです。若干ながら癒やしの力を持ち、疲れを取ってくれるのです」

 雪を飲み水に作り替えてくれたようだ。


 語る黒さんから癒やしの水が入った木の器を受け取る。

「ありがとうございます」

「良いのです。今日は力を使うことがなかったので問題無いのです。ただ、他の力を使った時は難しい時もあると覚えていて欲しいのです」


 受け取った癒やしの水を飲む。飲んだ水は……少しだけ苦かった。あまり美味しい水じゃない。それでも喉の渇きは癒える。今日一日、雪の中を歩き続けた疲れも消えていく――そんな気がする。


「飲み水としてはあまり美味しくないのです」

 語る黒さんがこちらを見て笑っている。癒やしの水を飲んだ時の自分の顔を見ていたのだろう。

「だ、大丈夫です。水が飲めるだけでも助かります」


 錬金小瓶の中の水は貴重だ。使わなくて済むなら、それに越したことはない。

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