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ソライフ  作者: 無為無策の雪ノ葉
氷雪凍土
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121 みんなの手助け

 毎日、毎日と狼食い草の繊維から紐を作り続け、その素材がなくなりそうになったところで炎の手さんがやって来た。


 その手にあるのは……毛皮?


「戦士の王、完成したのです」

「それが炎の手さんの用意してくれた寒さを防ぐための手段ですか?」

 炎の手さんが頷く。


「毛皮を集めて作ったマントなのです」

 炎の手さんから毛皮のマントを受け取る。小さな毛皮を無理矢理つなぎ合わせたからか、不格好で見た目はよろしくない。しかし、肌触りがよく、触っているだけで暖かい。

「毛皮が小さかったため、どうしても形は悪くなってしまうのです」

 炎の手さんは形が悪いことが不満そうだ。


 サイズもあまり大きくなく、自分の体が小さいから良いが、大人だとかなりおかしな格好になるだろう。


 でも、だ。自分からすれば、形なんてどうだって良い。自分の手作りの道具なんて、もっと不格好だ。手元にある素材だけで、しっかりと形にしているだけでも凄いと思う。


「充分です。助かります」

「次にこれなのです」

 まだあるようだ。


 炎の手さんの後ろから、隠れるようにしていた見習い職人の走る手さんが現れる。


 その手に持っているのは……手袋と靴だった。


「これも必要になると思ったのです」

 毛皮の手袋と靴を受け取る。これも小動物の毛皮から作られているようだ。


 毛皮の手袋に手を入れる。暖かい。指は分かれておらず、親指部分とその他という形になっている。細かい作業は難しいかもしれないが、これでも武器を握ったり、ちょっとしたことなら出来るはずだ。どうしても細かい作業が必要な時は、この手袋を外せば良い。


 次に毛皮の靴だ。

「それは、今、戦士の王が履いている靴の下に身につけて欲しいのです。今、戦士の王が履いている靴は里で作った水を弾く靴なのです。この雪も防いでくれるのです。ただ、冷たさだけは防げないので、それを緩和するためのものなのです」


 どうやら、これは、靴ではなく、靴下だったようだ。


 毛皮の靴下をはき、その上から靴を履く。サイズ的に難しいかと思ったが、里で作られた靴は若干の伸縮性があり、何とか履くことが出来た。ただ、これは脱ぐ時が大変そうだ。


「ありがとうございます。暖かいです」


 毛皮は暖かい。


 これなら、何とかなるかもしれない。


「水筒は間に合わなかったのです」

 毛皮装備の具合を確かめていると、走る手さんが、少し悔しそうに、呟いた。


 次の支援物資で道具が届く予定だったはずだ。間に合わないのは仕方ない。

「大丈夫です。飲み水は錬金小瓶に入れます。それに、どうしても水が必要になれば、雪を溶かして水にします」

 周囲にはいくらでも雪がある。これを溶かせば、いくらでも水は作れる。ただ、しっかりと煮沸させないとお腹は壊しそうだが……。


 これでスコルを追うための装備は揃った。


 崖の上に登るための階段も、蜥蜴人さんたちの協力で完成している。


「これで準備完了ですね」

「いや、まだなのです」

 と、そこに待ったがかかった。


 見れば、いつの間にか、他の蜥蜴人さんたちが集まっている。


「戦士の王、食べる物が必要になるはずなのです」

 青く煌めく閃光さんだ。牙をきらりと輝かせ笑っている、その手にはキノコが乗っている。


 肉が取れなくなった今、貴重な食料のはずだ。

「これは貴重なものでは?」

「しかし、戦士の王には必要なものなのです。戦士の王が加工を手伝ってくれたことで助かったのです。その報酬だと思えば良いのです」

 青く煌めく閃光さんは笑っている。


「ありがとうございます」

 貴重な食料だ。だから、その気持ちを考え、ありがたく貰うことにした。


「燃やす木も必要になるはずなのです」

 乾燥させた木の枝の束を受け取る。火を起こすための燃料は旅で必ず必要になるものだ。雪に包まれている状態では、探すのも苦労するはずだ。


「ありがとうございます。助かります」

 これも今の環境では貴重な燃料だ。荷物にはなるが、ありがたい。


「戦士の王の帰りを待つのです」

「自分たちは一緒に行くことが出来ないのです」

 喋る足さん、働く口さん、戦士の二人には、この場を、皆を守る仕事がある。蜥蜴人さんたちは、この地で暮らせるように開拓するだけでいっぱいいっぱいのはずだ。

 食料と毛皮だけでも充分な助けだ。


「ありがとうございます。必ずスコルと一緒に戻ってきます。待っていてください」

 手助けしてくれる気持ちだけでも嬉しい。


「待つのです」

 と、そこに待ったがかかった。


 語る黒さんだ。


「私が一緒に行くのです」

 語る黒さんが自分を見る。

「しかし、院の力が必要になるのでは?」

 ここには魔法の力が使える蜥蜴人さんは語る黒さんだけのはずだ。その力は貴重で大切なもののはず。


「大丈夫なのです。院の補充なら、次に里から来たものにでも頼めば良いのです。この私の力は戦士の王の力になるはずなのです」


 語る黒さんはそう言っている。


 しかし、湖の水は凍ってしまっている。次の定期便が来るかどうか――来られるかどうかも分からない。


 応援は――人員の補充は難しいはずだ。


 皆の顔を、他の蜥蜴人さんたちを見る。


 皆は笑って頷いている。


「分かりました。助けてください」

「任せるのです」

 語る黒さんが力強く頷いた。


 魔法の力と、蜥蜴人さんの寒さに強い体質は心強い。スコルを追う旅での大きな力になってくれるはずだ。


 北の崖の先に何が待っているか分からない。


 でも……。


 うん、何とかなる。


 何とかしてみせる。


 ここまで準備をしてくれたんだ。


 みんなの力を借りて、進む。


 出来るはずだ。

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