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ソライフ  作者: 無為無策の雪ノ葉
氷雪凍土
122/365

120 出来ること

 とりあえず食べる物を確保しようと湖に沈めていた蛇肉を取りに行く。


 しかし、湖は凍り付いていた。


 凍り付いた湖に手を伸ばし、軽く叩いてみる。


 固い。


 とても固い。


 今度は、恐る恐る、足を伸ばしてみる。


 乗った。


 氷の上に乗れた。


 次は飛び跳ねてみる。


 割れない。


 カチカチだ。


 湖の中に沈めた蛇肉を取り出すことは出来そうにない。


 これでは、蜥蜴人さんの里から救援物資が来るのを待つのは無理そうだ。それどころか、向こうがどんな状況になっているのか――こちらより酷い状況になっている可能性もある。


『さ、寒い』


 もう限界だ。


 駆けるように急いで焚き火へと戻る。焚き火に手を伸ばし、その暖かさに一息つく。


『寒かった。凄く寒かった』

 やはり長時間の活動は無理そうだ。


「戦士の王、これを食べるのです」

 焚き火で暖を取っていると語る黒さんが串に刺した焼きキノコを目の前に突き出してきた。

「あ、はい。ありがとうございます」

 突き出された焼きキノコを受け取り、食べる。温かい。体の中から暖まるようだ。


「戦士の王、焦らず、私たちに任せるのです」

 小動物の姿が見えなくなった今、このキノコは貴重な食料だ。元々、冷たい暗所で育てていた品種だからか、今みたいに雪に包まれた状態でもしっかりと育ってくれている。


 それでも、貴重な食料だ。


「……手伝うことはありますか?」

 語る黒さんは首を横に振る。

「戦士の王は力を蓄えていてほしいのです」

「でも……」

 ただ、焚き火で暖まりながら食事をするだけなんて耐えられない。


 自分も何か出来ることを……。


「そうなのです。戦士の王にも手伝って貰うことがあるのです」

 声に振り返る。


 そこに立っていたのは、何故か、つるつるの頭を掻き上げる仕草で止まっている青く煌めく閃光さんだった。もう片方の手には、ほぐされた狼食い草があった。踏みつけてほぐしていたものを持ってきたのかもしれない。


「手が空いている戦士の王に加工をお願いするのです」

 青く煌めく閃光さんが自分の前にほぐした繊維を置く。気をつけないと焚き火で燃えてしまいそうだ。

「これの加工ですか?」

「そうなのです。まずは紐を作るのです」

 青く煌めく閃光さんが小さな棍棒のようなものを取り出す。


「それは?」

「紐にするための道具なのです」

 青く煌めく閃光さんが道具の使い方を教えてくれる。


「さあ、頑張るのです」

 習ったとおりにほぐされた繊維を加工し、紐に変えていく。最初は道具の扱いに慣れず難しかったが、慣れてくると繊維の塊が紐に変わっていくのが楽しくなってくる。


「数はまだまだ沢山あるのです」

 青く煌めく閃光さんが追加を持ってくる。

「すいません、この量だと今日中には終わりそうにないです」

「当然なのです。何日もかけて行う作業なのです」


 良かった。一日では全部処理できないと悩んでいたところだった。


「そういえば、栽培していた狼食い草はどうでしょう? この寒さですが大丈夫でしょうか?」

 青く煌めく閃光さんが大げさな動作で首を横に振る。

「狼食い草は寒さに強いのです。ただ雪の重さで潰れて駄目になってしまったのです」

「それは……」


「なので、屋根を作ったのです」

 青く煌めく閃光さんは腕を振り上げ、笑う。口の端にちらりと牙が見えた。

「これからも、どんどん追加が来るのです」

「分かりました。どんどん持ってきてください。加工します」


 蜥蜴人さんの殆どが雪を固めて家を作る作業中だ。本来は、この加工作業を行う人たちもそれどころではないのだろう。

 自分のために、崖に階段を作ってくれている蜥蜴人さんもいる。


 今は自分が出来ることを、やるべき事をやるだけだ。


『この寒さだと槍や剣を振るって練習するなんて出来ないからね』

『ふむ。まだまだ文字の習得や戦う為の方法など学ぶことは多いのじゃ』

 いつものようにいつの間にか隣に座っていた銀のイフリーダが、うんうんと頷いている。


『そうだね。学びながら、今はやるべきことをやるだけだよね』

『うむ』

 ほぐされた繊維から紐を作り、銀のイフリーダから学ぶ。


 今、出来ることだ。


 やることをやる。


 当たり前のことだ。


「戦士の王、もう夜なのです」

 声をかけてきたのは呆れたようにこちらを見ている語る黒さんだった。


「もう夜?」

 周囲を見れば、確かに薄暗い。焚き火の明かりで気付かなかったのかもしれない。


 そして、いつの間にか、周囲が氷の壁に覆われていた。天井にまで壁が作られている。

「これ、上、大丈夫なんですか?」

 左右の壁もそうだ。焚き火の熱で溶けてしまわないか不安になる。


「意外と大丈夫なようなのです」

 語る黒さんは上を見ながら、そんなことを言っている。

「本当に大丈夫ですか」

 焚き火の煙はもうもうと立ち上っている。


「た、多分、大丈夫なのです。壊れたらまた作れば良いのです」

 確かにそうかもしれない。材料となる雪はいくらでも余っている。


 ……。


 気になるのは煙くらいだ。


 少しだけ煙たい。


 ……ん?


 もしかすると、これは壁が溶ける心配よりも煙が充満してしまうことの方が問題のような気がする。


「えーっと、気のせいかもしれないんですが、少し煙がたまってきてませんか?」

 語る黒さんが周囲を見回す。

「確かに、なのです。これは問題なのです」


 急いで天井に空気穴を作った。

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