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ソライフ  作者: 無為無策の雪ノ葉
氷雪凍土
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116 前へ進む意思

 荷物になる弓を置き、鉄の槍を持ち、四人で東の森の中へと踏み入る。一応、自分だけは、邪魔にならない石の短剣と鉄の剣を持っていくことにした。


 そしてすぐに小動物と遭遇する。本当にすぐに現れる。もしかすると、この東の森自体がこの小動物の巣なのかもしれない。


 小動物はこちらに気付いていない様子で、森の奥へと飛び跳ねるように動いている。


 獲物を見つけた戦士の二人が鉄の槍を構え頷きあう。そして、小動物を追うように駆ける。この東の森で狩り続けていたからか、動きが速い。

「水流と門の神ゲーディア……」

 語る黒さんも力の言葉を紡ぐ。


 戦士の二人が小動物に追いつき、驚き動きを止めた小動物を目掛けて突きを放つ。しかし、放たれた突きは、すぐに驚きから立ち直った小動物にひょいと躱されてしまう。


「――アクアショット!」

 そこへ語る黒さんの水弾が飛ぶ。水弾は小動物に命中し、その小さな体を吹き飛ばす。

「仕留めるのです」

「任せるのです。行くのです」

 二人が駆け、跳ね転がった小動物に槍を突き刺す。


 二つの鉄の槍に貫かれた小動物が、あがくようにジタバタと体を動かし、そして動きを止めた。

「勝ったのです」

「まずは一匹目なのです」

 二人は動かなくなった小動物を持ち上げ大喜びだ。あんまり振り回すと全身に血が回って美味しくなくなると思うのだが、二人はお構いなしだ。


「私が手助けしなければ当たっていなかったのです。二人はもっと鍛錬するのです」

 そう言った語る黒さんは何処か少し得意気だ。


「無茶を言うのです」

「槍を主力として扱うのは今日が初めてなのです」

 確かにその通りだ。逆に、いきなり獲物を仕留められたのは、最初の鍛錬として上出来だと思う。


「待つのです。水流と門の神ゲーディア……」

 突然、語る黒さんが呪文を唱え始める。


 語る黒さんが呪文を唱え終わるよりも早く、鋭い針が飛んできた。

「悠長に唱えている場合ではないのです」

 飛んできた針を働く口さんが、腕に生えた鱗で止め、弾き飛ばす。つやつやの鱗はずいぶんと硬いようだ。


「こっちなのです」

 喋る足さんが鉄の槍を構える。見れば新しい小動物が茂みから顔を覗かせ、尻尾を膨らませていた。

「新手なのです」


 そして……次々と小動物が姿を現す。


 こちらを囲むように、どんどんと新しい小動物が現れていく。

「囲まれたのです」

「倒すのです。突破するのです」


 いつの間にか次々と現れた小動物に囲まれてしまっていた。もしかすると最初に現れた一匹を生け贄にして、この場所へ誘い込まれたのかもしれない。


 針が飛んでくる。


 飛んできた針を鉄の槍を振り回し打ち落とす。


 そこに次の針が飛んでくる。


 戦士の二人は飛んできた針をつやつやの鱗で受け止めている。今日、槍を持ち始めたばかりの二人が、飛んできた針を鉄の槍で打ち払えるほど使いこなせる訳がない。これは仕方ない。


 二人は何とか鱗で防いでいる。しかし、鱗とはいえ、自分の体で受け止めるのは限界があるはずだ。


 囲んでいた小動物たちは、こちらに近寄らず、離れた場所から針を飛ばし続ける。

「水流と門の神ゲーディア……」

 次々と飛び交う針の中、語る黒さんが呪文を唱え始める。それを守るように戦士の二人が盾になる。自分も鉄の槍を振り回し針を打ち落とす。


 ……数が多いっ!


「――ウォーターシールド!」

 語る黒さんの言葉とともに自分たちを包むような形で水の壁が生まれる。


 水の壁が飛んできた針を防ぐ。


 そして、戦士の二人が水の壁の中から、小動物たちを攻撃しようと、腰に手を伸ばす。しかし、そこには何も無かった。


 あるはずの矢筒がない。


 今日は鉄の槍の練習ということで弓を置いてきている。


 今、二人の手にある武器は鉄の槍だけだ。


「機をうかがうのです」

「突破するのです」

 戦士の二人は鉄の槍を構え直す。


 弓を置いてきたのは――荷物になると思った自分の判断だ。


 いつも戦っているから、慣れているから――油断した。


 動物がこんなにも戦術的な方法で襲ってくるとは思わなかった。


 周囲から止めどなく飛んでくる針を水の壁が弾き返す。


『どうする、どうすれば……』

 考える。


 ここは少しくらいは負傷を覚悟して突っ込むしか……。


『ソラよ……』

 と、そこへ銀のイフリーダが現れる。銀のイフリーダは何処か呆れたようにため息でも吐きそうな様子だ。

『ソラよ、いつまでも、同じような相手に、同じようなことを繰り返すのじゃ』

『しかし……』

 飛んでくる針の数は多い。同じ相手かもしれないが、今回のように連携されてしまうと――数で攻められると苦労してしまう。


『ソラよ。どれだけの数がいようと雑魚は雑魚なのじゃ』

『でも……』

 自分だけなら、負傷を覚悟すれば突破できるかもしれない。


 そこで隣にいる三人を見る。戦士の二人はまだしも、語る黒さんは、この小動物の囲いを突破できないかもしれない。


 三人を見捨てなければ抜け出せない。


 抜け出してスコルに助けてもらうのが最善?


『ソラよ、聞くのじゃ。上を目指すなら、どのような敵でもはね除ける力が必要なのじゃ。数が多い? 相手の策略、戦略? それがどうしたのじゃ。それらを跳ね返すのは――簡単な答えなのじゃ』

 銀のイフリーダはニヤリと笑う。

『それは全てをねじ伏せる単純にして圧倒的な力なのじゃ』

 銀のイフリーダの答えは理想だ。夢でしかない。

『それが出来たら!』


 水の壁が針を防ぐ。しかし、この水の壁もいつまで持つか分からない。


『ソラよ、この程度を覆す技は、力は、すでにソラの中にあるのじゃ』

 銀のイフリーダは胸を張り、大きく笑う。


 ……。


 技、力……?


 そんなものが……。


 そんな都合の良いものが……。


 いや、あった。


 うん、あるはずだ。


 鉄の槍から手を離す。


 そして、目を閉じる。


 思い出せ。


 思い出すんだ。


 目を閉じたまま、鉄の剣の鞘紐を外し、柄に手をのせる。


 腰を低く落とし、弓を引き絞るように力を蓄え、構える。


 ――出来る、出来るはずだ。


 目を開ける。


 放つ。


 鉄の剣を抜き放つ。


「神技アルファクラスターっ!」


 鉄の剣が煌めき、無数の刃が、斬撃が放たれる。


 イフリーダが見せてくれた必殺の神技。


 剣の閃光が周囲の小動物たちを切り刻み、吹き飛ばす。


 鉄の剣を振り払い、鞘へと戻す。


 出来た。


 使えた。


 あれだけあった小動物の気配が完全に消えている。


 放たれた無数の一撃が周囲の小動物を倒したようだ。

『そうだね。イフリーダの言うとおりだよ。いつまもで同じような相手に、同じようなことをしている場合じゃないよね』

『うむ。それでこそ、我が技を授けたソラなのじゃ』

 銀のイフリーダは先ほどと同じ位置で胸を張って笑っている。


「す、す、凄いのです」

「さすがは戦士の王なのです。凄い数の肉が手に入ったのです」

「信じられないのです」

 蜥蜴人さんたちが驚きの声を上げる。


「ありがとうございます。それよりも早く回収して戻りましょう。次が現れたら厄介です」

 それに、


 それに、だ。


 体が痛い。


 無理矢理、体を動かしたから、何処かに負担がかかったのかもしれない。神技は人の限界を超えた技なのだろう。こんな状態で、もう一度、同じことは……出来ない。

さすソラ。

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