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ソライフ  作者: 無為無策の雪ノ葉
氷雪凍土
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114 順調?

 食卓にキノコ料理が並ぶようになり始めた頃、一艘の船が湖を渡ってやって来た。


 乗っているのはもちろん蜥蜴人さんたちだ。船の上には三人の蜥蜴人さんの姿が見えた。そこそこ袖の長い服装から院の人たちだと思われる。

「待っていたのです」

 炎の手さんが、こちらの蜥蜴人さんを代表して、やって来た船の方へと向かう。


 自分も行ってみよう。


「これとこれが欲しいのです」

 炎の手さんが、船に乗っている物の中からめぼしいものを選んでいく。全て貰う訳ではないようだ。

「それだと、これくらいになるのです」

 やって来た蜥蜴人さんが、心配そうな様子で指を三本ほど立てる。

「大丈夫なのです。ここでは結晶が多く取れるのです」

 炎の手さんは用意していたマナ結晶の殆どを手渡している。結構な量だ。あれは、戦士の二人が頑張って集めたマナ結晶だと思う。


 驚いた。


 てっきり、里からの支援ということで無料だと思っていた。


 こんなところでもマナ結晶が必要になるんだ……。


 小動物を狩り続けているから、小さいマナ結晶の数だけなら、それなりの量になっている。今は、大丈夫だ。だけど、それでも、支援物資が届く度に取られるということになると話は別だ。もし、マナ結晶が取れなくなってしまえば――支援を受けられなくなってしまう。


 自分が考えているよりも蜥蜴人さんたちは厳しい状況なのかもしれない。


「次は道具類を頼みたいのです」

「道具と言っても……」

「一通りお願いするのです」


 炎の手さんとやって来た蜥蜴人さんたちのやりとりは続いている。


 そうだ。


「里の様子はどうですか?」

 興味本位だが、向こうがどうなっているかを聞いてみよう。


「里……なのです?」

 蜥蜴人さんは首を傾げている。

「あ、いえ、竜の王がいなくなってどうなったのかな、と」

 蜥蜴人さんが、ああ、という感じで手を叩く。

「飛竜の討伐に平原の魔獣退治に大忙しなのです。沢山の結晶が必要になるので、こうして、ここで受け取れたのは嬉しい誤算だったのです」

 戦うにも結晶が必要になる?


 もしかすると、砕き、そうやって得たマナを奉納し、それを力としているのかもしれない。


「それなら少しは加減して欲しいのです」

「それこそ、我々リュウシュの未来のために、もっと出して欲しいくらいなのです」

「こちらでも結晶は必要になるのです!」


 そんな感じでやって来た蜥蜴人さんたちはすぐに帰って行った。


『なんだか慌ただしい感じだね』

 里の方は里の方で忙しいのかもしれない。


 キノコの栽培も上手くいき、植えていた狼食い草もそろそろ収穫が出来そうな勢いだ。ここは植物などが普通よりも早く育つらしい。狩りも順調だ。最初はどうなるかと思ったが、引き際を心得ている戦士の二人は危なげなく、小動物を狩ってくる。ただ、問題もある。今回やって来た蜥蜴人さんから鉄の矢を追加したとはいえ、それでも矢の残り数は限られてしまう。矢が尽きた時が問題だ。


 それでも、安定はしている。


 そろそろ、大丈夫かもしれない。


『そろそろ、遠出しても大丈夫かな』

『ふむ。強大なマナの一つを狩りに行くのじゃな』

 いつものように、最初から、そこに存在していたかのように現れた銀のイフリーダに、自分は首を横に振る。

『確かに、それも必要だけど、まずは、あの石の城を探索しようかなって思っているよ』

『ふむ。今更、必要ないと思うのじゃ』

 しかし、銀のイフリーダの反応はいまいちよろしくない。


『そうかな。前回、殆ど探索できなかったからね。竜の王の住処で見つかった錬金小瓶みたいなものが落ちているかもしれないよ』

『ふむ。確かに可能性が無いとは言わないのじゃ』

 銀のイフリーダは消極的だ。早く、次の強大なマナの元へ向かいたいのかもしれない。ただ、自分としては力をつける意味でも、色々と探索をして、足元を固めてから進めたいのだ。


「戦士の王、ここにいたのです。探したのです」

 と、そこへ炎の手さんがやって来た。

「どうしました?」

「頼まれていたものが完成したのです」

 炎の手さんの言葉に首を傾げる。


 頼んでいたもの……?


 何か頼んでいただろうか。


「こちらなのです」

 炎の手さんの案内で、殆ど炎の手さんの作業場と化している窯の近くへと歩いて行く。そこには走る手さんもいた。


 もしかして、水筒?


 と、思ったが、炎の手さんが取り出したのは、三本の鉄の槍だった。

「頼まれていた槍なのです。何とか完成したのです」


 確かに鉄の槍だった。


 預けていた若木を元に作成された槍だ。もしかすると定期便から受け取った材料で完成したのかもしれない。


 先端に付いている鋭い鉄の刃もそうだが、自分が頑張った手作りの槍とは比べものにならない完成度の槍だ。

 一本を受け取り、手に持って振り回してみる。里の時のしなる木とは違い、堅めの木を使ったからか、空気を切り裂くような振り心地だ。手にしっくりとくる。


「凄いです。これはお店に並んでいてもおかしくないくらいの代物です!」

 本当に凄い。


 そんな自分の言葉に炎の手さんは、小さくため息を吐いていた。


「これでも職人なのです。ヒトシュの工芸品と比べて欲しくないのです」


 あ。


 これは失言だったかもしれない。


「すいません。凄いってことを伝えたかったんですが、言葉が悪かったです」

「良いのです。元々、鍛冶仕事はヒトシュの領域なのです。それに負けていないということで良いとするのです」

 炎の手さんはもう一度ため息を吐いていた。


 と、とにかく、これで鉄の槍が手に入った。


『遠出をしようかと思ったけど、まずは戦士の二人に鉄の槍の使い方を教える方が先かな』

『うむ。配下を鍛えるのも悪くないのじゃ』


 別に戦士の二人は配下ではないのだが、イフリーダの中では配下扱いのようだ。


「ありがとうございます。早速、戦士の二人にも渡してきます」

「そうして欲しいのです。矢の消耗だけで限界を超えそうだったのです。これで改善して欲しいのです」


 現在、この地では鉄の加工が出来ない。鉄鉱石も見つかっていないので、加工する以前の問題だ。このままでは、どうしても里からの輸入に頼ることになる。まぁ、それは鉄の槍が壊れてしまえば同じことなのだが、消耗品に近い鉄の矢よりはマシなはずだ。


 鉄の加工が出来る製鉄場の建設と鉄鉱石が採掘できる鉄の鉱脈の発見が急務だよね。

炎の手 職人の蜥蜴人

走る手 職人見習いの幼い蜥蜴人

語る黒 院の魔法使い

喋る足 戦士の一人

働く口 戦士の口数が多い方

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