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ソライフ  作者: 無為無策の雪ノ葉
氷雪凍土
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113 鱗

 見習いだが、もう一人の職人である走る手さんが見たことのない土器に水を入れている。この土器は蜥蜴人さんたちが新しく窯で焼いて作ったもののようだ。自分が作った窯も活用してくれているようで嬉しい限りだ。

 にしても、何をしているのだろう?


 こちらがこっそり観察していると、走る手さんが小さくため息を吐いた。

「戦士の王、気が散るのです」

「あ、ごめんなさい。何をしているのか気になったので……」

 つるつる肌の走る手さんは、もう一度、今度は大きくため息を吐いた。


「見ていれば分かるのです」

 許可が出たので、こっそりではなく、しっかりと観察する。


 すると水を入れている土器の中に小動物の毛皮と切り倒した木の樹皮が見えた。木の板を加工した時に出た樹皮を使っているのかもしれない。

 土器の大きさに対して小動物の毛皮が多すぎるのか、走る手さんは、同じようなものを何個も作っていく。


 水と毛皮と樹皮が入った土器がいっぱい。


 見ていれば分かると言われたが、見ていても分からない。


「毛皮の漬物ですか?」

 それを聞いた走る手さんはがっくりと肩を落としていた。

「皮を革に作り替えているのです。この状態で様子を見て何日も放置して、後はなめせば革になるのです」

 詳しい説明は面倒だ、という感じで簡単に教えてくれる。

「これで革になるんですね」

「細かく言え……そうなのです!」

 やはり説明は面倒なようだ。


 蜥蜴人さんたちには革を作る技術もあるようだ。


 確かに思い返してみれば、語る黒さんは革の水筒を持っていた。水筒から水を出しているね、と、あまり気にせずに見ていたが、よくよく考えてみれば革を作る技術がなければ革の水筒は作れない。革で保護した水筒の中身がどうなっているかは分からないが、どちらにしても覆うための革は必要だ。


「その作業で作られるものが、その……革なら、自分の分の水筒を作って貰っても良いですか?」

「これだけで作るのは、無……ではなく、戦士の王には便利な道具があったと思うのです」

 走る手さんが言っているのは、多分、錬金小瓶のことだろう。確かに、これはこれで便利な代物だと思う。

「でも、これは水を何度かに分けて飲むとか、そういう使い方が出来ないんです」

 そう、この錬金小瓶は中身が一気に全部こぼれ落ちてしまう。少しだけ飲むとか、そういう使い方が出来ない。

「分かったのです。今度の定期便が来た時に、必要なものを頼んでおくのです。ただ、かなりの日数はかかるのです。戦士の王が忘れたくらいに完成するのです」

 走る手さんは面倒くさそうにしながらも水筒を作ってくれることを了承してくれた。

「お願いします」


 と、そこへ戦士の二人がやって来た。

「戦士の王なのです」

「戦士の王と見習いが一緒なのです」

 戦士たちの手には小動物が握られている。狩りの帰りなのかもしれない。

「狩りの帰りですか?」

「そうなのです。今日はまだ二匹だけなのです」

「マナを奉納して得た力の確認なのです」

 戦士の二人が頷く。そう言えば、昨日、マナを奉納して力を得ていたはずだ。何を得たのだろうか。


「えーっと、どんな力を授かったんですか?」

 戦士の二人が何処か得意そうに頷く。

「見て欲しいのです」

「これなのです」

 戦士の二人が腕を曲げ、つやつやの鱗を見せてくれる。


「えーっと、艶々ですね」

「そうなのです」

「鱗のつやが増したのです。ずいぶんと硬くなったのです」

 どうやらマナを奉納したことで鱗のつやが増したようだ。確かに艶が凄い。それにとても硬そうだ。


「あの棘も跳ね返したのです」

「ずいぶんと狩りが楽になったのです」

 この新しくなった鱗は、小動物が尻尾から放つ棘を防ぐくらい硬いようだ。確かに、それは便利かもしれない。


 それを見ていた走る手さんは、面倒そうに小さく舌打ちをして、土器に水を入れる作業に戻っていた。走る手さんには鱗がない。それに他の蜥蜴人さんと比べても小柄だ。二人の鱗自慢はあまり楽しいものじゃないのかもしれない。


「大丈夫なのです」

 戦士さんが走る手さんの肩に手を回す。

「うるさいのです」

 走る手さんは、それを面倒そうに跳ね返そうとしていた。

「もう少し大きくなれば生えてくるのです」

 戦士の二人は楽しそうに笑っている。

「構わないで欲しいのです」

 走る手さんは、戦士の手をはね除け、鬱陶しそうに作業を行う。


 やはり、というか、走る手さんは、見た目通り、ずいぶんと若いようだ。


「戦士の王も奉納すれば鱗が生えてくるのです」

「気にしなくても大丈夫なのです」

 戦士の二人は自分にもそんなことを言ってくる。


『あの小さな祠に奉納すると鱗が生えてくるんだ……』

『ふむ。ゲーディアの眷属特典のようじゃな』

 いつものようにいつの間にか現れていた銀のイフリーダが、少し首を傾げながら、教えてくれる。そんな特典があるなら、ますます奉納したくなくなる。鱗は結構です。


 にしても、だ。


 戦士さんたちの様子を見ていて思ったのだが、蜥蜴人さんたちにとって鱗が生えているというのは、とても重要なことのようだ。


 でも、だからと言っても、だ。

「あー、えーっと、自分は遠慮しておきます」

 自分は自分のままでいい。


「もったいないのです」

「戦士の王には戦士の王の考えがあるのです。無理強いはよくないのです」

 戦士の二人は笑いながら去って行った。


『うむ。力を得て気が大きくなっている典型なのじゃ』

『それを聞くとさらに奉納したくなくなるよね』

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