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ソライフ  作者: 無為無策の雪ノ葉
氷雪凍土
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108 畑

「戦士の王に話があるのです」

 食事を終えたところで青く煌めく閃光さんが話しかけてきた。

「どうしました?」

 青く煌めく閃光さんは、少しだけ、ためを作り、それから話し始める。

「畑を作りたいのです」

 畑? 何か持ってきた作物でもあるのだろうか?

「それは食べられる作物ですか?」

「た、食べられないと駄目だとは思わなかったのです」

 青く煌めく閃光さんは、頭に手をやり、大げさな動きでよろよろと崩れ落ちた。


「あ、いや、食べられない物でも大丈夫です。ただ、確認したかっただけです」

「良かったのです」

 青く煌めく閃光さんが、スクッと立ち上がる。無駄に洗練された何度も練習をしていたかのような素早い動作だ。


「それで何を植えるつもりなんですか?」

 青く煌めく閃光さんが、チラリと口の中の牙を見せて笑う。

「狼食い草を植えたいのです」

 彼の一つ一つの動作はとても大げさで、演劇か何かを見ているようだ。

「それって確か服などに使っている布を作るための草ですよね」

「そうなのです」

 青く煌めく閃光さんが両手を広げ、くるりとまわる。動作の意味が分からない。もしかしなくても、青く煌めく閃光さんはちょっと面倒な人なのかもしれない。


「今後は分かりませんが、今の時点では、場所にも余裕がありますので、大丈夫です」

「戦士の王の許可がもらえて良かったのです」

 青く煌めく閃光さんは大げさな動作で微笑んでいる。青く煌めく閃光さんの仕草については考えることを止めよう。この人は、こういう人なんだ、と思っていれば問題ないだろう。


「でも、大丈夫なんですか?」

「戦士の王、何の心配なのです?」

 青く煌めく閃光さんが大げさな動作で首を傾げている。


「いえ、元々とでは環境が違うと思うんですが、上手く育つのかな、と」

「そうなのです。それは分からないのです。しかし、なのです。狼食い草は多くの場所で育つ非常に強い草なのです。里の宝なのです」

 青く煌めく閃光さんが、こちらが圧倒されるような、そんな、とても力強さに溢れる勢いで教えてくれた。もしかすると、彼は、その狼食い草の管理を任されている立場の人なのかもしれない。

「えーっと、頑張ってください」

「任して欲しいのです」


 翌朝、と言っても、もう昼前だが――には、青く煌めく閃光さんは、残りの四人を連れて畑作りを行っていた。場所は、東の森の入り口の近く、自分が育てていた小さな赤い実の植物の隣だ。

 こちらに気を遣って、作物を育てる区画を固めようとしてくれたのかもしれない。


 青く煌めく閃光さんの指導の下、五人みんなで頑張って土を耕している。持ってきていた(であろう)鉄の道具を使っているみたいで、ずいぶんと作業は捗っているようだ。


『さて、と。自分はどうしようかな』

 蜥蜴人さんたちは自分たちで考えて行動している。

『ふむ。戦力を向上させるなら、我があの二人を鍛えても良いのじゃ』

 銀のイフリーダはそんなことを言ってくれている。確かに、戦士の二人が強くなって、安定して森の魔獣が狩れるようになれば、食糧の不安はかなり消えるはずだ。

『そうだね、それも悪くないね』


 二人を探すと……居た。


 戦士の二人は、窯の前で腕を組んで考え込んでいる炎の手さんのところに居た。


 行ってみよう。


「どうしたんですか?」

 話しかけると、窯の前で考え込んでいた炎の手さんが顔を上げた。

「戦士の王なのです。少し、これからのことで問題なのです」

 どうやら、何か問題が起こっていたようだ。

「教えてください。力になれることなら手伝います」

 炎の手さんが頷き、改めて戦士の二人を見た。

「昨日、二人が魔獣と戦ったのです」

 知ってます。その場にいました。

「思っていたよりも矢の消費が多いのです」


 あ!


 炎の手さんの話は続く。

「これは戦士の王が作った窯だと思うのです。ただ、この窯だと鉄を鍛えることは出来ないのです。持ってきている鉄の鏃には限りがあるのです。曲がった鏃を打ち直して再利用することも出来ないのです。里から持ってくるにしても、里からの定期便は当分先になるのです」

 あ、定期便が来るんだ。じゃなくて、確かにそれは問題だ。


 弓は、矢を放って攻撃する関係上、どうしても矢を消費してしまう。ある程度は回収しているが、それでも全て回収できる訳ではない。戦えば、戦うだけ、数は減っていく。


 これは……。


 早くも銀のイフリーダの力を借りることになりそうだ。


「分かりました。消費しない武器で戦いましょう」

 とりあえず提案してみる。

「戦士の王、自分たちは弓以外の扱いにはあまり慣れていないのです」

「使いこなせないのです」

 しかし、二人の反応はあまりよろしくない。


 でも、ここで諦めては駄目だ。

「槍を使いましょう。使い方は自分が教えます」

 ……自分を介してイフリーダも力を貸してくれるはずだ。

『イフリーダ、よろしくだよ』

『うむ。任せるのじゃ。これも、ソラが迷宮に向かうための助力なのじゃ。マナ結晶の供給のために力を貸すのじゃ』

 銀のイフリーダも猫耳を動かし、力強く頷いてくれる。


「お願いするのです」

「さすがは戦士の王なのです」

 戦士の二人が感動した様子でこちらを見ていた。少しだけ、大げさな気がした。この二人も青く煌めく閃光さんの病気が感染したのだろうか。


「分かったのです。でも、まずはこれなのです」

 そんな戦士の二人を、どこか覚めた目で見ていた炎の手さんが、その二人に鉄の斧を渡していた。

「これは……斧なのです」

「戦士の武器ではないのです」

 二人は首を傾げている。


「木が必要なのです。大量に必要なのです。周りに沢山あるのです。頼んだのです」

 炎の手さんがにこりと笑う。


 鉄の斧を受け取った二人は顔を見合わせ、そして申し訳なさそうに、こちらへと顔を向けた。

「戦士の王、こうらしいのです」

「戦士の王、そうらしいのです。まずは木を切ってくるのです」

「あ、はい」

 彼ら二人を鍛えるよりも、まずは木を切ることが先のようだ。


 と、そこで大きな声が上がった。


 東の森の方だ。


 今度は何だ?


 魔獣でも出たのだろうか。


 慌てて戦士の二人とともに、そちらへと向かう。


 場所は……東の森の入り口。青く煌めく閃光さんたちが畑を作っている場所だ。


「こ、こんなものが出てきたのです!」

 とっさに名前が出てこない蜥蜴人さんの一人が手に何かを持って震えている。確か、あの辺りは金属鎧と折れた剣があった場所のはずだ。散らばった骨でも見つかったのだろうか。


「何がありました?」

「鉄の道具が曲がるほどの素材なのです!」

 そう言った、蜥蜴人さんが手に持っていたのは――透明な破片だった。


 これは……。


『イフリーダ、あれって……?』

 その透明な破片には見覚えがある。


 そう、錬金小瓶だ。

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