107 皆で食事にしよう
職人蜥蜴人の二人が船に乗せて持ち込んできた、しなる木の棒や布を組み合わせて何やら頑張っている。多分、自分たちが眠るための場所を作っているのだろう。
『さて、と。どうしようかな。まずはご飯の準備かな』
その時だった。
東の森の方から大きな声が上がった。何かを威嚇するような、何処か気合いを入れているような、そんな声だ。
『この声、戦士の二人だよね』
どうやら、戦士の二人が小動物と出会ったようだ。
『心配だよね』
『うむ。あれらには経験が足りないのじゃ』
とりあえず銀のイフリーダと一緒に様子を見に向かう。
「戦士の出番なのです!」
「倒すのです!」
東の森の中、そこでは沢山の小動物に囲まれた二人の戦士さんが居た。二人は持ってきた弓に矢を番え、放ち、一生懸命戦っている。
矢の一撃では小動物を倒せないようだが、そこは数で補い、何本も矢を当てることで小動物を倒している。しかし、小動物の数は多く、倒した側から、次の小動物が現れている。相変わらずキリがない。
本当に、この小動物はどうなっているのだろうか。倒しても、倒してもキリがない。どうやってこれだけの数が隠れているのだろうか? どれだけ繁殖しているのだろうか? 無限に存在するはずがないので、倒していけばいつかは絶滅出来るとは思う。思うのだが、それまでどれくらいの日数がかかるか分からない。
そんなことを考えている間も二人は頑張って戦っている。
戦士さんが矢筒に手を伸ばす。しかし、その手が空を掴む。
矢が尽きたようだ。弓は相手と離れたところから一方的に攻撃できるのが長所だが、どうしても攻撃に使う矢の数には限りがあるという問題を抱えている。
って、ゆっくりと見ている場合じゃない。
『助けないと』
鞘紐を外し、鉄の剣を引き抜く。そして、そのまま小動物の元へと駆ける。
『早く槍が欲しいね』
『うむ。ソラがもっと大きくなれば、なぎ払えるような、もっと重い槍も良いと思うのじゃ』
慌てて駆け出した自分の横を銀のイフリーダがのんびりとした様子で歩いている。歩いているのに、走っている自分の速度と同じだ。これは歩いているように見える何かなのかもしれない。
走りながら剣を下向きに構え、そのまま振り上げる。
――神技エアースラッシュ。
生まれた風の刃が小動物を切断する。
『このまま、突っ込む』
小動物の群れに突っ込み、鉄の剣で切り刻む。
『ソラ、右じゃ』
銀のイフリーダの言葉に反応する。
『針!』
小動物が尻尾を膨らませ、針を飛ばす。とっさに鉄の剣を縦に構え、その刃で受け止める。カカカカッっと、ちょっとした衝撃だ。
受け止め、そのまま鉄の剣の切れ味を確かめるように振り回す。
小動物が振り回された鉄の剣によって切断され、吹き飛ぶ。
何匹か小動物を倒すが、その倒した数を埋めるように、高く伸びた木の上から、茂った草の間から、次々と新しい小動物が姿を見せる。
『ほんと、数だけは多いね』
『ソラが弱いと思われているのじゃ』
ホント、キリがない。
あまり強くないが、この数だけは厄介だ。
「ガル」
と、そこへスコルが駆けてきた。
そして、そのまま周囲を威圧するように大きな声で吼える。その咆哮を浴びた小動物たちは怯えるように逃げ去っていった。
逃げ足は本当に速い。姿が消えるのは、あっという間だ。
危機は去った。
「スコル、ありがとう」
「ガル」
スコルは任せろという感じで小さく頷いている。
「助かったのです」
「凄いのです」
戦士の二人がほっとしたように胸をなで下ろしている。彼ら二人でも、少ない数なら小動物は倒せそうだ。だが、倒しても倒しても現れる数の多さが問題だ。
今回のようにスコルが居れば何とかなるが、これから森を切り拓いていくなら、いつまでもその力を頼りにする訳にはいかないはずだ。
『どうすれば良いのだろうね』
と、それはそれとして。
「その肉は食べることが出来るので持って帰りましょう」
「おお、それは素晴らしいのです」
戦士の二人が倒した小動物を集めていく。
「おお、肉なのです」
刺さった矢を引き抜き、抱えるように小動物を集める。
『おお、ちゃんと魔石も取るのじゃ』
そんな戦士さんたちの横では、銀のイフリーダが何処か二人をおちょくるようにふりふりと猫尻尾を動かしていた。
「肉が手に入るとは、戦った甲斐があるのです」
「戦士の王が倒した分も集めるのです」
どうやら、二人には銀のイフリーダの姿は見えないようだ。
戦士の二人、スコルとともに拠点へと戻る。
すると、そこには何故か青く煌めく閃光さんが待っていた。
「森の方で何があったのです。戦いの音が聞こえたのです」
青く煌めく閃光さんは東の森で大きな声が上がったことを心配していたようだ。
「危険な魔獣に襲われたのです」
「スコルさんに助けて貰ったのです」
戦士の二人が青く煌めく閃光さんに起こったことを説明している。
「肉が手に入ったのです」
「肉なのです」
そして、最後に、二人が運んでいる小動物の死骸を高らかに掲げていた。
「素晴らしいのです!」
その様子には青く煌めく閃光さんも大喜びだ。
蜥蜴人さんたちは本当に肉が大好きなようだ。
「肉も手に入ったので、とりあえず食事にしませんか?」
それなら食事にすべきだ。自分もお腹が空いたしね。
「おお、それが良いのです」
「賛成なのです」
「素晴らしいのです」
三人も大喜びで賛成のようだ。
木の枝を集め、焚き火を作る。まずは火を起こさないとね。
それから肉の処理だ。
石の短剣で小動物を捌いていると職人の二人がやって来た。
「肉なのです」
「戦士の王は器用なのです」
二人は興味深そうにこちらを見ている。
「やってみますか?」
二人に聞いてみると、二人は少しだけ考えるような様子を見せた。しかし、すぐに首を横に振る。
「申し訳ないが、それは他のものに任せるのです」
蜥蜴人さんたちは物を作るのは職人、戦うのは戦士、と、ある程度、しっかり役割を決めて分担しているようだ。では、食事の加工は、どの人たちの分担になるのだろうか。
そんなことを考えていると語る黒さんがやって来た。
「私も手伝うのです。これも院の仕事の一つなのです」
どうやら食事の準備は院の仕事のようだ。
……。
あれ?
学ぶ赤さんは、どうだったかな?
確かに、学ぶ赤さんは、里では料理をしたこともあるって言っていた。でも、それが仕事だという感じではなかったような……。
院の女王は特別なのだろうか。それとも学ぶ赤さんが特別だったのだろうか。学ぶ赤さんだと、それもありそうで……よく分からない。
小動物の肉だけではなく、湖に沈めていた蛇肉も引き上げ、焼くことにする。
早く食べてしまわないと腐ってしまうからね。
蜥蜴人さんたち十人とスコルで焚き火を囲み、ご飯にする。
「に、肉なのです」
「これが全部、肉なのです」
恐ろしい勢いで肉が消えていく。肉が焼けたそばから消えていく、そんな勢いだ。本当に彼らは肉が大好きなようだ。
「美味しいのです」
「これだけでも、ここに来て良かったのです」
一人の時は大蛇の肉を食べきるのは難しいと思っていたけれど、このペースだとすぐになくなってしまうかもしれない。
沢山の肉が必要になる。
そう考えると、際限なく襲ってくる小動物は逆にありがたいのかもしれない。