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ソライフ  作者: 無為無策の雪ノ葉
氷雪凍土
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106 新しい一歩

 スコルは混乱している蜥蜴人の様子を見て首を傾げている。何こいつら、という感じなのかもしれない。

「この地に引っ越してきた人たちだよ。スコルも同じような感じだから、スコルが先輩で、彼らが後輩だね」

「ガル」

 スコルが分かったというように頷く。もっと、勝手に決めたのか、みたいな反応をする可能性も考えていたけれど、当のスコルはあっさりとしたものである。やっぱり、どうでも良いと思っているのかもしれない。


 と、混乱状態になっている蜥蜴人さんたちにも説明しないと駄目だよね。


「ソラの友人なのです。この地を守ってくれるのです」

 そう思っていたら、学ぶ赤さんが説明を行ってくれていた。

「院の女王がそう言うなら……そう思うのです」

 学ぶ赤さんの説明で混乱は収まりつつあった。


 そして、混乱が小さくなったところで動いた人がいた。


 青く煌めく閃光さんだ。


 彼が……彼だよね? 彼は、震える足を押さえながら、船から下り、スコルの前に立つ。

「私は青く煌めく閃光なのです。よろしくなのです」

 そして、挨拶をしていた。


 それに対するスコルの反応は……。

「ガル」

 小さく吼えて頷き、青く煌めく閃光さんの頭の上に前足をのせる。その、スコルの軽く前足をのせたようにしか見えない一撃によって、青く煌めく閃光さんが倒れ、地面と口づけを交わしていた。スコルは、あれ? という感じでこちらへと振り返る。

「スコル、出来るだけ仲良く頼むよ」

 スコルは軽い挨拶のつもりだったのかもしれない。もしかすると、自分が先輩と後輩という言葉を使ったので、先輩として、自分の立場が上だと分からせるつもりの一撃だったのかもしれない。

「ガルゥ」

 スコルはしょんぼりとした顔で頷いていた。


「た、大変なのです!」

 それを見ていた語る黒さんが慌てた様子で、船を下り、青く煌めく閃光さんの元へと駆け寄る。

「水流と門の神ゲーディア、水門を開き……」

 そして、すぐに呪文を唱え始めた。しかし、その呪文を、大地に口づけをした青く煌めく閃光さんが、そのままの姿で手を上げて止めさせる。

「だ、大丈夫なの……です」

 青く煌めく閃光さんが、ゆっくりと立ち上がり、そして、弱々しく微笑んだ。蜥蜴人さんに髪はないのだが、そんな彼の姿に、何故か、ふぁさっと髪を掻き上げている幻影が見えた。


「この方がその気なら私の命はなかったのです。ただの挨拶なのです。そうなのです。でも、出来れば手加減して欲しかったのです」

「ガル」

 スコルが小さく吼え、申し訳なさそうに頷いている。そして、スコルは、もう一度、こちらへと振り向いた。その顔は、彼らが弱すぎて心配しているような、そんな表情だった。


「そんな感じだから、スコルも守ってあげて」

「ガル」

 スコルが、分かった、と頷く。その表情には先輩として守らねば、という決意が秘められていた……多分。


「炎の手なのです」

「走る手……なのです」


 他の方々も怖々という様子だが、距離を取り、船の上から、スコルに挨拶をしていく。


 スコルは青く煌めく閃光さんの時のようなことはせず、頷きを返すだけだ。


「語る黒……ぬぁのです」

 最後に語る黒さんがスコルに挨拶をしていた。ちょっぴり恨みがましい目で睨んでいる。

「ガァル?」

 スコルは、その視線に少しだけうろたえていた。え? 何? という感じである。

「もう少し、お手柔らかにして欲しいのです」

 そんな様子を見て、学ぶ赤さんは楽しそうに笑っている。すっごい他人事だ。


 と、そんな感じで一緒に住むことになるスコルと彼らの顔合わせは終わった。


「えーっと、それでは、ここが学ぶ赤さんの言っていた地です。魔獣が、この場所に入ってきたことは……」

 と、そこで自分はスコルの方を見る。入ってきたのはスコルくらいだ。

「殆どありません。今はスコルもいるのでかなり安全な場所だと思います。改めてよろしくお願いします」

 自分からも改めて皆に挨拶を行う。


 蜥蜴人の方々が真剣な表情で頷く。


 そして、彼らは船から下り、新しい地への一歩を踏み出した。まぁ、青く煌めく閃光さんと語る黒さんはすでに船から下りていたけれど。


「どうですか?」

 拠点の様子を確認していた職人の炎の手さんに話しかける。

「思っていたよりも色々と揃っていて良い場所なのです」

 自分が拠点として作り上げたからね。寝る場所も、窯も、雨よけも、全部手作りだ。

「それでも必要なものは多いのです」

 ただ、それらは、全て自分一人のためのものだ。十人がこれから生活するのだ、確かに必要なものは多くなる。

「何より、まずは寝床なのです」

 炎の手さんは、そう言って笑った。


 確かに、ここにあるのはシェルターと雨よけだけだ。引っ越してきた初日で、いきなり地面の上で寝るのはキツいだろう。


「まーずぅはぁ、壺なのです!」

 こちらのやりとりを聞いていたのか、船の上の学ぶ赤さんが何か叫んでいた。


「眠る場所ですか。大丈夫ですか?」

 とりあえず、学ぶ赤さんを無視して炎の手さんに話しかける。

「大丈夫なのです。道具は持ってきたのです。今日一日で仮設の寝床を作るくらいはやってみせるのです」

 炎の手さんが力強く頷く。

「手伝うことはありますか?」

「大丈夫なのです。そのために見習いを連れてきているのです」

 仮設の寝床の作成は二人で充分なようだった。


「分かりました。困ったことがあったら言ってください」

 炎の手さんが頷く。

「まぁーずぅー、こちらーのー」

 学ぶ赤さんは、まだ船の上で叫んでいる。誰も壺を運ぶ手伝いをしてくれないのだろうか。


「こちらは大丈夫なのです。戦士の王は、院の女王の手伝いをしてあげて欲しいのです」

 炎の手さんは、何処かため息でも吐きたそうな様子で、そんなことを言っていた。


 学ぶ赤さんの方を見る。

「誰かお願いするのです!」

 院の女王になるくらい魔法の才能があって、人望もある……あるよね? はずなのに、なんで、こんな残念な感じなのだろうか。

 学ぶ赤さんの叫びは、忙しそうに色々な作業を開始している皆に無視されていた。


 戦士の二人は、この場所の安全確認と付近の森の様子を調べている。職人の二人は寝床作り、残る人々は運んできた道具類を船から降ろしている。


 皆、忙しそうだ。


『はぁ、仕方ないか』

 自分は、一つ小さなため息を吐き、雨よけの下や釜の近くに放置されていた壺を手に取り、船へと運ぶ。

「ソラだけなのです。ソラが一番頼りになるのです」

 船で待っていた学ぶ赤さんは、そんな調子の良いことを言っていた。


 そして、学ぶ赤さんが作った壺は、全て運び終わった。

「助かったのです。これで里に戻ることが出来るのです」

「学ぶ赤さんは帰るんですね」

「仕方ないのです。私は院の女王なのです。リュウシュの地では、その力を求められているのです」

「あ、いや、そうじゃなくて、今日の夜には、皆のために肉を焼こうかと思っていたんです」

 その瞬間、学ぶ赤さんの表情が変わった。

「肉、肉なのです!」

 しかし、すぐに頭を横に振る。

「それでも戻るのです。今は時間が大切なのです」

 さすがに自由奔放な学ぶ赤さんでも夜までは待てないようだ。


「それに、この地には、里が落ち着いた後ならば、いつでも来ることが出来るのです。その時にはお願いするのです」

 そう言って学ぶ赤さんは笑う。

「そうですね。その時はごちそうします」

「期待しているのです」


 それだけ言って学ぶ赤さんは、里へと帰った。


 帰った。

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