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ソライフ  作者: 無為無策の雪ノ葉
氷雪凍土
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104 残った問題

「この里に住んでいる何人かをソラの拠点に住まわせて欲しいのです」

「え? どういうことですか?」

 意外な提案だった。


 何故、そんな話が出てくるのか、よく分からない。


「言葉通りなのです」

 学ぶ赤さんは、いつになく真剣な表情でこちらを見る。

「それは自分が住んでいた場所に、ということですよね」

 言葉通り……それは自分の拠点に移住したいってこと?


 やっぱり分からない。


「昨日の宴を見て貰ったら分かると思うのです。この地は狭すぎるのです」

 学ぶ赤さんのその言葉を聞いて、ああ、と思ってしまった。


 確かに闘技場に溢れるほどの蜥蜴人の姿が見えた。この洞窟や水の上の建物だけでは足りないのだろう。

「でも、地上には、平原があるじゃないですか」

 闘技場を抜けた先には平原が広がっている。さらに湿地帯もある。住む場所はいくらでもあるはずだ。

「もちろんそうなのです。ファア・アズナバール様の脅威が無くなった今、そちらも、もちろん住めるように開発していくのです」

 そこで、学ぶ赤さんは首を横に振り、言葉を続ける。

「でも、なのです。自分も住んでみて思ったのです。強者に奪われるだけの、この地で、あれだけ安全な、守られている場所は……無いのです。平原にまで住む場所を広げるのは長い時が、それこそ数え切れないほどの昼と夜が過ぎる、それだけの時の流れが必要になると思うのです」

 平原には少しだけ厄介な犬もどきの魔獣がいる。他にも厄介な魔獣が生息しているかもしれない。湿地帯には危険な蟹もどきや生け贄反対派だった賊の皆さんがすでに住んでいる。


 少し考える。


 この地は――今、蜥蜴人さんたちが住んでいる、この場所は、水によって守られている。彼らが住むには良い場所なのだろう。それに対して平原は何も無い。住むにしても魔獣から身を守るための防壁などが必要になってくるだろう。


「断ったらどうなりますか?」

 学ぶ赤さんは小さく肩を竦める。

「どうにもならないのです。ただ、この話がなかったことになるだけなのです」

「どうして、自分に許可を求めるんですか?」

 学ぶ赤さんが行ったように、勝手にやって来て住む場所を作ることも出来るはずだ。なのに学ぶ赤さんは自分に許可を求めてくる。


「あの地を治めているソラに無断で行わないのです。私はソラの信頼を失いたくはないのです」

 学ぶ赤さんはこちらを見て、そう言った。


 学ぶ赤さんの信頼……か。


 まだ出会って、そんなに時間が経っている訳ではないけれど、それでも一緒に戦った仲間だ。


 壺が好きだったり、妙に行動派だったり――いつの間にか、とても仲良くなっていた気がする。


 少し重くもあり――でも、嬉しくもある。


「もちろん、ソラにも受け入れる利点はあるのです。移住希望者の中には鍛冶の職人もいるのです。それに森の木々を伐採したり、住む場所を快適にするための労働力にもなると思うのです。拓くことが出来るのです」


 つまり、開拓のお手伝いということだ。


 でも、でも、だ。


 そもそも自分はあの場所を開拓するつもりだったのだろうか。


 住むために、生きていくために、ただただ快適になるように、その努力だけを行ってきた。


 でも、それが……。


 学ぶ赤さんは強い瞳でこちらを見る。それだけ必死の願いだということだろうか。

「これは、あの地を治めているのが、ソラだからこそ、お願いしているのです」

 自分だからこそのお願い、か。


『イフリーダ、どう思う?』

 いつものようにいつの間にか現れ、自分の横で暇そうに欠伸をしていた銀のイフリーダに聞いてみる。


『ソラの好きにすれば良いと思うのじゃ。我としては悪くない提案だと思うのじゃ』

 銀のイフリーダは賛成よりの中立ってところのようだ。後、意見を聞けるのはスコルくらいだが、スコルこそ、どうでも良いって思ってそうだ。


 悪くない。


 うん、悪くないよね。


「分かりました。受け入れます」

「おお、助かるのです」

 蜥蜴人の移住、か。


「ところで何人くらいの予定なんですか?」

 湖の近く、森に囲まれた拠点。広さはそれなりにある。それでも人数が多くなるなら、すぐにでも森を切り開いていく必要が出てくるだろう。


 学ぶ赤さんが指を折り、人数を数えている。

「まずは二十……いや、十人でお願いしたいのです」

「まずは、ですか」

 学ぶ赤さんが頷く。

「住む場所が広がれば、それだけ人を増やしたいのです」

 学ぶ赤さんが、不味いだろうか、という表情でこちらを見る。

「ソラが良ければ、鉄などの持ち込み、キノコの栽培、色々出来るのです。それはきっとソラの助けになるのです」

 学ぶ赤さんが少しだけ必死な様子で付け加える。それを見て、少しだけ可笑しくなった。


「大丈夫です。その時は遠慮せずに言ってください」

「さすがはソラなのです。助かるのです」


 蜥蜴人の中から十人ほどが移住して来ただけで、住む場所の拡大を求める彼らの問題が解決するとは思えない。


 と言っても、まずは、の十人だからね。上手くいけば、学ぶ赤さんの言葉通り、移住者はどんどん増えていくだろう。そうすれば、問題は解決へと進んでいくはずだ。


 もちろん、蜥蜴人さんたちが住むには向かないと思った時は逆に減っていくだろう。


 これから、どうなるかは分からない。


 でも……、うん。


「こちらこそ、よろしくお願いします」


 こうして蜥蜴人さんたちの移住が決まった。

リザードマンたちがソラの配下に入ります。

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