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ソライフ  作者: 無為無策の雪ノ葉
氷雪凍土
105/365

103 宴

 学ぶ赤さんの案内で建物の外に出る。


 建物の周囲には水しかない。この治療施設も水に沈んだ建物の一つを利用しているようだ。


 久しぶりの太陽がまぶしい。


 今日も良い天気だ。


「水……学ぶ赤さんの力を借りないと移動できないですね」

「秘匿されるべき施設は全てこちらにあるのです」

 そう言えば、鍛冶施設も、院も、この治療施設も、全て水に沈んだ建物が使われていた。これらの施設は船がないと攻め込むことが出来ない。なるほど、よく考えられている。


 さらに学ぶ赤が教えてくれたことによると、この里の表向きの入り口は、竜の王の討伐に向かった闘技場の裏口に――他の種族を迎え入れる時はそちらになるそうだ。

 あの牢獄があった洞窟側は、蜥蜴人たちの普段の生活空間らしく、いざという時の脱出口でもある湖側から自分を連れて洞窟に入ったため、それが院内で問題にされたらしい。

 自分が戦士の王となり、竜の王を倒したことで不問とされたが、学ぶ赤さんの院内での立場が悪くなる可能性もあったようだ。

 何というか、行動派というか、湖を越えて自分の拠点まで来たこともそうだが、色々と突飛な人である。


『行動力は凄いよね』

 それが院の頂点なんだから、周りは大変そうだ。反感を買うことも多いのでは、と心配になってしまう。

『それでも何とかしてしまうのが、学ぶ赤さんなんだろうけどね』


 そして、その夜、宴が催された。


 宴は、自分が前の戦士の王と技量を競った闘技場で行われた。何処に隠れていたんだろうというくらい、大勢の蜥蜴人が参加している。舞台だけではなく、観客席側も埋まっている。もしかすると、この里に住んでいる全ての蜥蜴人が参加しているのかもしれない。


 宴にはキノコ料理だけではなく、肉料理も揃っている。焼いた肉にいつものキノコソースをかけた簡単なものだが、彼らの中では、普段食べられない贅沢なのだろう。

『うん、美味しい。このキノコソースは是非、持ち帰りたいよね。あー、でも、日持ちしない可能性があるのかな』


「居たのです」

 色々な種類のキノコを使った料理を食べながら宴を楽しんでいると、堅い拳さんがやって来た。

「皆、楽しそうですね」

 他種族の自分という、異物が混じっているのに、蜥蜴人さんたちは気にせず騒いでいる。やっと生け贄の運命から解放されたのだ、この喜びも当然なのかもしれない。

「ソラも楽しんでくれているなら嬉しいのです」

「もちろん、楽しんでいます」

 焼いた肉しか食べてこなかった自分からすると、色々な種類のキノコ料理があるだけでも嬉しい。


「それで、どうしたんですか?」

「ああ、ソラに改めてお礼を言いに来たのです。最初は、何故、ヒトシュの幼体を、と思っていたのです。色々と……」

 そこで堅い拳さんが頭を振る。何か、小言を言いかけたのかもしれない。

「いや、今更なのです。ありがとうなのです」

 堅い拳さんが頭を下げる。

「いえ、竜の王を倒せたのは自分だけの力じゃありません。堅い拳さんの力にも助けられました」

『もちろん我にも、なのじゃな』

 隣に立っている銀のイフリーダが笑う。

『そうだね。いつも助けられてばかりだよ』

 イフリーダの力が無ければ、拠点で目が覚めた後、何も出来ずに死んでいただろう。いつだって助けられている。


「ところで、なのです」

「どうしたんですか?」

「その手に持っている飲み物なのです」

 堅い拳さんは、自分が手にしているコップに入った飲み物を気にしているようだ。甘い匂いがしている飲み物だ。匂いや見た目に危険な感じはしない。

「途中で学ぶ赤さんから貰ったキノコを使った飲み物と聞いています。まだ飲んでいないんですけど、どうしたんです?」

 堅い拳さんの表情が変わった。何かを諦めたような、あー、というため息でもこぼしそうな、そんな感じの表情だ。

「幼体に飲ませるようなものではないのです。いや、戦士ならば……」

 何か堅い拳さんがぶつぶつと呟いている。


 これは何か不味い飲み物なのだろうか。

「これって何なのでしょうか?」

 堅い拳さんが、小さくため息を吐いた。

「キノコを発酵させて作った飲み物なのです」


 そこで気付いた。


 確かに周囲の蜥蜴人さんたちの中には、肩を組んでよく分からないことを叫んだり、踊ったり、妙に楽しそうになっている人たちがいる。てっきり、それだけ生け贄から解放されたことが嬉しかったのだと思ったのだが、もしかして、これが原因か。


 これ、多分、お酒だ。


「すいません。これは遠慮しておきます」

 キノコを発酵させた飲み物を堅い拳さんに渡す。

「分かったのです」

 堅い拳さんが、その飲み物を受け取り、そして、そのまま一気に飲み干した。


「一気飲みですか。大丈夫なんですか?」

 一気に飲み干した堅い拳さんが、ぷはーっと荒い息を吐き出す。

「大丈夫……なのです」


「あー、それは、こんな時でもないと飲めない貴重なものなのです」

 と、そこへ、この飲み物を自分に渡した学ぶ赤さんがやって来た。貴重だと、そう言われてしまうと、少し惜しかったかなと思ってしまう。

 堅い拳さんが、やって来た学ぶ赤さんの方へと振り返る。

「だからと言って、ソラに……」

 そして、何かを言おうとして、そのまま倒れた。


 きれいにバタンと倒れた。


 そして、堅い拳さんは眠ってしまった。


 やっぱり、飲まなくて正解だったようだ。

「戦士の長が倒れて、誰が他の酔っ払いを押さえるのです」

 学ぶ赤さんは楽しそうだ。


 そんな感じで宴は行われ、そして、夜が明けた。


 翌日、昼過ぎに、自分は学ぶ赤さんを呼んだ。


 話すことがあるからだ。


「少し、頭が痛いのです」

 やって来た学ぶ赤さんは、痛そうに頭を押さえていた。多分、お酒の飲み過ぎだと思います。うん、蜥蜴人でも二日酔いになるんだね。


「それで、ソラ、どうしたのです」

 と、そうだった。


「すいません。そろそろ、拠点に戻ろうと思います」

 この地でやるべき事は終わった。


 拠点にはスコルを待たせている。いつまでも、この地に残っている訳にはいかない。

「分かったのです。ソラが戻るための準備を行うのです。ただ、そのことで、少し相談があるのです」


 そこで出された学ぶ赤さんの提案は、とても意外なものだった。

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