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ソライフ  作者: 無為無策の雪ノ葉
竜の聖域
101/365

100 邪なる竜の王

 肩から下げていた弓を降ろす。すぐに矢筒から鉄の矢を引き抜き、番え、放つ。


 鉄の矢が空気を切り裂く勢いで飛び、そして竜の王の堅い鱗に弾かれた。


 通用しないっ!


 柔らかい部分なら、そう目とか……。


 竜の王の目を狙い撃とうとして気付く。


 今、竜の王はブレスを吐き出すために首を持ち上げた状態だ。それを見上げている今の位置では、竜の王の目を狙うことが出来ない。


 他に、何か……。


 と、その時だった。


 竜の王の上から矢が降り注ぐ。


 誰?


「喰らうのです」

 生け贄の祭壇に弓を構えた蜥蜴人が居る。


 それは闘技場で出会った鉄の弓を持った偉そうな蜥蜴人だった。どうやら、自分たちを追ってきたようだ。

「真の戦士の王の技を見るのです」

 次々と矢が放たれる。その全てが跳ね返されてしまっているが、竜の王の注意は引けたようだ。竜の王がブレスを中断し、そちらへと顔を向ける。


「止めるのです!」

「無駄なのです!」

 堅い拳さんと学ぶ赤さんが叫ぶ。


 それを聞いた偉そうな蜥蜴人は笑った。偉そうに、傲慢に、笑った。


「新しい戦士の王に、戦士の王という存在がどれだけ偉大かを教えるのです。これが戦士の王なのです」

 次々と矢を放つ。


 その全てが跳ね返されている。


 ただ、無駄撃ちしているだけだ。


 ただ、注意を引いているだけだ。


 竜の王には効いていない。


「さあ、新しい戦士の王、繋いだのです。隙を作ったのです。真の戦士の王の力に感謝して、竜の神を倒すのです!」

 偉そうな蜥蜴人が傲慢な笑みを張り付かせたまま叫ぶ。そして弓を降ろした。


 そちらを向いていた竜の王からブレスが放たれる。


 戦士の王の顔は笑ったままだった。


 生け贄の祭壇が炎に包まれた。


 ……。


 頭上高くにある祭壇が燃えている。そこにあるのは炎だけだった。


 ブレスを吐き終えた竜の王が口の周りを黒く焦し、荒い息のまま動きを止めている。


 確かに繋がった。


 チャンスは作られた。


『イフリーダッ!』

『任せるのじゃ』

 銀のイフリーダがこちらの首へと手を回し、そのまま背中におぶさる。


 そして、体が動く。


 先ほどまでのこちらへ向けたブレスと違い、顔を上に向けてブレスを吐き出したため、長い首を持った竜の王の顔が高い位置に来てしまっている。このままでは竜の王の顔に届かない。


 それでも、問題――無いッ!


 堅い拳さんに手渡していた鉄の槍を奪うように受け取り、そのまま駆ける。


 鉄の剣を口にくわえ、鉄の槍を投げ放つためのように、両手で持ち、構える。


 そして、鉄の槍を地面へと突き刺す。鉄の槍が大きくしなる。その勢いのまま空へと飛び上がる。


 高く、高く、飛び上がる。


 その一撃で鉄の槍が折れる。元々脆かった木製の柄だ、これは仕方ない。


 問題無いッ!


 自分の体はすでに空へと飛び上がっている。


 竜の肩が見える。


 そのまま竜の上体に着地する。手に持っていた折れた鉄の槍を投げ捨て、口にくわえた鉄の剣を両手で持ち、その体を、竜の首を駆け上がる。


『ソラよ』

『分かっている!』


 竜の眉間へと駆け上がり、鉄の剣を振り上げる。


 そして強力な一撃をたたき込む。


 鉄の剣が跳ね返される。

『それがどうしたっ!』

 すぐに体勢を立て直し、両手で持った鉄の剣を振り上げる。


 もう一撃ッ!


 たたき込む。


 竜の王が暴れ、激しく頭を振り動かす。


 銀のイフリーダの助けを借り、振り落とされないよう器用にバランスを取りながら、もう一度、鉄の剣を振り上げる。

『波乗りなら我に任せるのじゃ』

 波乗りなんて言葉を知っている銀のイフリーダを可笑しいと思いながら、もう一度、鉄の剣を振り下ろす。


 何度でもだっ!


 うっすらとしていた小さな傷が徐々に広がっていく。


 何度も、何度も、鉄の剣をたたき込む。


 竜の眉間が切り裂かれ、中の白い骨が見えてくる。


『イフリーダ』

『うむ。とどめの一撃なのじゃ』


 鉄の剣を持ち上げ、その開かれた眉間へと突き刺した。


 竜の王が大きな悲鳴を上げ、さらに強く暴れる。

『耳が壊れそうだ』


 強く鉄の剣を握りしめ離さない。


『この剣は、繋いで貰った一撃だ。絶対に離さないっ!』

 竜の王に振り回されながらも握った鉄の剣を捻り込んでいく。


 竜の王は、強大な生命力を誇示するように暴れ続ける。


 そして、手のひらの感覚がなくなり、半ば意識を失いかけたところで、竜の王は、その動きを止めた。


 竜の王の首が力なく崩れ落ちる。


 その長い首が、大きな音を立てて地面へと叩きつけられる前に、体が動き、その場から飛び降りる。


『ありがとう、イフリーダ。助かったよ』

『うむ。補助は任せるのじゃ』


 竜の王は死んだ。


 自分たちは竜の王を倒したんだ!


 竜の王の体内から次々と透明な柱が生まれ結晶と化していく。


 大きな結晶が生まれる。


 強大なマナの結晶。


『イフリーダ、倒したよ』

『うむ。いただくのじゃ』

 銀のイフリーダが嬉しそうに猫耳をピクピクと動かしながら強大なマナの結晶に齧り付く。


 これで二つ目。残り二つ。


 半分まで来た。


 やっと半分だ。


「もう、限界……」

 どうやっているのか、大きなマナ結晶が銀のイフリーダの小さな体の中へと消えていく。それを見ながら、自分の意識は闇に飲まれようとしていた。


 後のことは、学ぶ赤さんと堅い拳さんがやってくれるはず。


 戦いは終わったんだ。


 もう意識を手放しても大丈夫だよね?


 闇に……、


 夢に落ちていく。


 ……。


 ……。


 闇に包まれ、そして、竜との最後の夢を見た。


 力を――因子を取り込み、人が乗れるほどのサイズに成長した赤竜がこちらを見ている。


 竜の瞳は行かないでと叫んでいる。


 親の敵だというのに、これも刷り込みなのだろうか。


 それでも自分は最期の地へと向かった。


 夢。


 竜は、自分の後を追うために力を蓄えるだろう。


「ファア、俺の後を追う必要なんてないんだ。お前が俺を追えば、俺はお前を討つしかなくなる。だから、お前は、そこで怠惰に暮らせ」


 これは赤竜の夢。


 赤竜は自分の主と再会出来たのだろうか。


 全ては闇の中に。

怠惰に暮らせるように食べ物を養殖していたら反乱されたでござる。


これにて第二章終わりです。

二十四日の更新は人物紹介、本編は二十五日からの予定になります。

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