始まり
あと少し…あと少し…
楓たちは、竜胆と現実世界で会うことを約束する。
「次の午前10時に学校の校門で」
「分かった…」
そう言って、現実世界へ四人は帰っていく。
ゲーム画面から現実へ帰るコマンドを押すと、いつの間にか部屋に戻っている。
一瞬で部屋へと帰る感覚にいまだに慣れない…意識する頃にはすでに部屋についている。
「楓! 良かった…!」
お母さんは一目散に楓の元へ抱きつく。大袈裟だなぁと思うが、心配するのも分からなくはない。
「帰ってくるって言ったじゃん。」
「ありがとう…」
母さんは泣いて楓に抱きつく。その姿を見て、少しは必要とされてるのかなって楓は思った。
「母さん、俺は今からゲーム会社の方に行くよ。」
「そっか…わかった。母さんはもうなにも言わないから…帰ってきてくれればそれでいいから。」
母さんは覚悟を決めた顔だった。自分を信じてくれているのがわかる。その期待を裏切らないためにも早くこの事件を解決しようと決心する。
「拓磨くんと、弥生ちゃんの親にも連絡してあるから。すごく心配そうだったけど、二人とも信じているって。」
拓磨と弥生は、ありがとうございます。と、お礼を言い、頭を下げる。
「楓、お前は早く竜胆の親に会いに行ってこい。俺らは向こうでなにかないか探ってくる。」
向こうとは電脳世界のことで、不可解に思うことはいくつもある。これからは楓・竜胆ペアと、拓磨・弥生ペアで動こうという事だ。
「おう、任せた。ヤバそうだったらすぐに逃げろよ。」
「逃げられる場面だったらな。楓も気をつけろよ、竜胆だって、なにをしでかすか分からないからな。」
拓磨は竜胆のことを信用していない様子で話す。だが、楓は違った。
「あいつなら大丈夫だ。強いし頼りになる…こっちでは能力が使えないけどな」
笑いながらそう言い、楓は布団に寝っ転がる。時計は19時頃を指しており、明日の午前10時までには充分時間がある。
「じゃあ俺達は電脳世界へ行ってくる。」
「早くないか? 少し休んでいけよ。」
心底驚くが、拓磨は落ちこぼれたくないと言い、電脳世界へ行く事を決める。それに弥生がついて行くよう準備する。
「休んでるひま無いよ! 私達も頑張ってくるから!」
「そ、そっか…期待してる」
「それじゃあ楓、行ってくる」
「分かった…くれぐれも気をつけろよ」
拓磨達は装置を取り付けるとスイッチを起動する。倒れた姿の二人は眠ったように見える。
「じゃあ、母さん。少し早いけど俺寝るよ」
「うん、おやすみ…明日は気をつけるのよ」
部屋の電気を消すと、楓は死んだように眠る。
次の日、朝起きるとすでに日は昇っている。
「やべ! 今何時だ!?」
急いで時計を見ると、9時を指している。楓は急いで準備を終わらせ、学校へと向かう。
「行ってきます!」
思い切りドアを開け家から飛び出す。昨日と同じように日は当たり、夏の暑さを感じる。
自転車を10分ほど走らせ、学校に着く。もうすでに竜胆の姿が見えており、ずっと前から待っていた様子だ。
「お前…早いな」
「まぁな。じゃあ行くぞ、親父の所に」
※
一斉メールが来ると、大和と未来は顔を見合わせる。なんだろうと未来はそのメールを開く。その内容はすぐには理解出来なかったが、大和にはすぐに分かった。
書かれている内容が『従業員にカプセルを支給します。至急フロントの方に来てください。』と言うものだった。
「とりあえず行くぞ、中身はなんとなく察した。」
「どういうことだよ? カプセルってなんだ?」
カプセルとは、電脳世界で使われている物を持ち運ぶ用に作られたアイテムである。
大和はゲームを一度プレイしているが、未来はプレイしていないため、カプセルの意味が分からなかった。
フロントに向かうと、ほかの従業員もかなり集まっていた。ざっと500人はいるだろう、その人だかりはカプセルを受け取ることで少しずつ減っていく。
「カプセルの中身って何なんだよ?」
「開ければわかると思うよ? まぁ、開けなくても教えてもらえると思うけど」
カプセルの中身の話をしていると未来たちの番になる。カプセルは二種類渡されひとつは拳銃、もうひとつは短剣と説明される。
「これから不測の事態に陥った時、これを使ってくださいね」
受付の人にそう言われるが、不測の事態がどの状態を指すのか分からない。そして、その不測の事態で武器を使うことがあるのかと思うと、ただ事ではないと思った。
「それと、この事は絶対に誰にも言ったらダメですからね」
最後に念を押されて、二人はその場から離れた。
あと2話くらいでこの章も終わります!
…あと少し…