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ロッテとシャル  作者: 三沢ケイ
1 ロッテ
7/21

ロッテ 7話

 リーズロッテはその後も、折りを見計らっては何度か手紙をシャルに送った。一度、スバル地区に直接送ってもみたのだが宛先不明で戻ってきてしまったので、いつもヴィアンヌ様にお願いしてドルエン様への手紙を書くときに一緒に同封して貰っている。


 シャルから返事にはいつも、元気にやっていること、治水事業の進捗状況、そして他愛ない世間話が綴られていた。リーズロッテはそれらの手紙を読み返す度に、シャルが遠い地で頑張っているのだから自分も頑張ろうと励まされた。


 その日、リーズロッテはいつものようにシャルからの手紙をヴィアンヌ様から受け取った。手紙の中身を確認すると、いつもの世間話に加えて治水事業の一番の山場のポイントは施工が完了したと書かれていた。

 リーズロッテは読み終えたそれを大切に鞄に仕舞うとき、アリス様がもの言いたげに見つめていることに気づいた。


 「アリス、どうかしたの?」


 「ロッテ。こんなこと言いたくないんだけど、そろそろそんなことはやめるべきだと思うわ。」


 アリス様は真剣な顔をしてリーズロッテを見つめた。その視線を避けるように、リーズロッテは俯いた。リーズロッテとて、そんなことはわかっていた。

 リーズロッテは子爵令嬢であり、それ相応の釣り合いがとれた人と婚約すべきだ。アリス様は最近、親のすすめで幼馴染みの2つ年上の伯爵家次男の方と婚約された。アナベル様も、卒業後は数年前に奥方を亡くされた候爵家当主の後妻に収まることが決まっている。


 リーズロッテには今のところ奇妙なほどにそう言った話が全く来ない。自分でも驚くほどの人気のなさだが、リーズロッテはそれでいいと思っていた。しかし、デビュタントまではあと数ヶ月しかなかった。

 デビュタントでは、婚約者が居る場合は婚約者がエスコートをする。婚約者が居ないリーズロッテはお兄さまにエスコートをお願いすることになるが、その後の社交界での恋の駆け引きには否が応でも参加するとこになるだろう。

 シャルは貴族ではないからそこの場には居ない。始めからシャルと一緒になることは無理なのだ。


 「わかっているわ。これの返事で終わりにする。」


 「本当に?」


 真剣な眼差しで顔を覗き込んできたアリス様にリーズロッテは力無く頷いて、微笑んだ。



ーーーーーーー


親愛なるシャルへ


お変わりなく過ごしていますか?

怪我無く過ごしていてくれるといいのだけど。


早いもので私の女学校生活もあと1ヶ月でお終いです。今年の社交シーズンにはデビュタントがあるので、最近は王都にある騎士学校と合同でダンスレッスンをしたりもしました。


卒業後の予定はまだ未定ですが、今年の社交シーズンでよいご縁が無ければどこかに行儀見習いとしてお勤めする事になると思います。


この2年弱、シャルとのお手紙のやり取りは故郷のラダルウィル子爵領を離れて心細かった私の心の支えとなっていました。

本当に感謝しているわ。今までありがとう。


私達はこれから別々の道を進むわけだけど、これからもあなたのご健勝とご活躍を祈っています。


愛をこめて リーズロッテより


ーーーーー


 シャルからの返事は来なかった。いつもならヴィアンヌ様からドルエン様に出した手紙の返事に同封されているのに、今回は入っていなかった。

 リーズロッテはとても寂しく感じたけれど、どうせ叶わぬ恋ならばその方がよかったのだと思い直した。そしてその一月後、リーズロッテは無事に女学校の卒業した。


 卒業からデビュタントの日までの期間にリーズロッテは女学校のときの仲良しのお友達であるヴィアンヌ様、キャサリン様、アナベル様、アリス様とお茶会をする機会があった。

 治水事業の進捗が捗っているため、ヴィアンヌ様は婚約者であるドルエン様がデビュタントに合わせてスバル地区から王都に一時的に戻ってくることを教えてくれた。


 「まあ、ヴィアンヌ様。よかったですわね。」


 キャサリン様がそう言うと、ヴィアンヌ様は美しい顔に微笑みを浮かべて少しはにかんだ。


 「ええ。ドルエン様にお会い出来るのは約二年ぶりだわ。デビュタントのエスコートは従兄弟にお願いするつもりだったから、すごく嬉しいわ。」


 普段は凜としているヴィアンヌ様もやっぱりリーズロッテと同じ年の、普通の恋する少女なのだ。リーズロッテは照れて笑うヴィアンヌ様を見て、本当によかったと安心した。


 ドルエン様が一時帰省すると言うことは、もしかするとシャルも・・・


 そこまで考えて、リーズロッテは慌てて首を振った。今さら連絡をとっても、向こうが困るかもしれない。

 シャルは治水事業に参加するのは父親に認めて貰うためだと話していた。その後、シャルは父親とは上手くやっているだろうか。上手くやれているといいな、とリーズロッテは思った。


 その日、王都の自宅に戻ったリーズロッテは仕事の都合で王都に来ている父親に執務室に呼び出された。

 父親の執務室に改まって呼び出されることなど、今まで一度もなかった。リーズロッテは、自分にもとうとう話が来たのだと悟った。


 お父さまの執務室の前に立ち、深呼吸を一度してから背筋をスッと伸ばした。コンコンとノックをすると中から入室許可の返事があったので、そっと扉を開けて中に入ったリーズロッテは淑女の礼をした。


 「お呼びでしょうか?お父さま。」


 「ああ、ロッテ。そこにかけなさい。」


 執務室の机に向かっていたお父さまは、リーズロッテに接客用ソファーに座ることをすすめた。木製の枠に織物の布とクッションが張られたこのタウンハウスでは一番豪華なソファーだ。

 リーズロッテが言われたとおりにそこに座ると、お父さまはその正面に腰を落ち着かせた。


 「ロッテ。お前に婚約の申し込みが来た。」


 「はい。」


 お父さまの用件はリーズロッテの予想通りだった。リーズロッテは努めて冷静を装い、一番重要なことを尋ねた。


 「お相手はどなたですの?」


 「それがな、ご自分で改めて直接求婚するから名は伏せて置いて欲しいと言われているんだ。」


 リーズロッテは眉をひそめた。貴族の結婚など、家と家の繋がりであり、身元を伏せる意味がわからない。しかも、直接求婚するということは、どこかでお会いするときに初めて目の前の相手が自分の結婚相手だと知ることになるということだ。


 「つまりそれは、こちらからはお断り出来ないお相手と言うことですね?」


 「ああ、断るのは難しいだろう。」

 

 リーズロッテはそっと目を伏せた。婚約申し込みがあり、こちらからは断れない相手。それは相手の爵位が上であることを示している。

 事前に名を明かさ無いところを見ると、よっぽど女癖が悪く評判が悪いか、見た目が醜悪か、何人目かの後妻か、よぼよぼの老人か・・・

 何にしてもろくでもない相手なのだろう。しかし、そのどれであってもリーズロッテには断ることが出来ないのだ。

 

 「わかりました。お受けいたします。」

 

 リーズロッテは全ての感情を捨て去り、ただその一言だけを伝えた。


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