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ロッテとシャル  作者: 三沢ケイ
3 ロッテとシャル
14/21

ロッテとシャル 1話

 屋敷とは比べものにならない豪華絢爛な大広間には豪華なシャンデリアがキラキラと煌めく。用意されている豪華な食事は全てお洒落に盛りつけられており、食欲をそそる。そしてそんな中、煌びやかな衣装を纏った男女達が微笑み合って言葉を交わしている。


 ウェースタ伯爵家のご令嬢であるアリスはそんな夢のような空間を、ふわふわとした気分で歩いていた。

 エスコートしてくれているのは幼なじみであり婚約者でもあるスタンウェイ伯爵家の次男、グリート様だ。グリート様はアリスより2つ上で、元々はアリスの兄の友人であった。兄を通して何度か顔を合わせているうちに親しくなり、つい1年ほど前にグリート様側から婚約の申し込みを受けた。


 グリート様は黒髪にダークグリーンの瞳で男らしい眉目をしており、背も高く逞しい。伯爵家の次男で伯爵位は継げないが、今は有能な王宮騎士として活躍を始めたところであり、将来は実家で持っている子爵位を継ぐ予定である。そんなグリート様の婚約者になれてアリスはとても幸せだった。


 グリート様にエスコートされながら会場にいる人々に挨拶をして回っていると、会場入り口近くで響めきのようなものがおきたことに気付き、アリスはそちらに顔を向けた。

 その響めきの中心にいたデビュタントの証である白いドレスを見に纏ったご令嬢は遠目に見ても目を瞠る程美しかった。顔が整っているのは勿論なのだが、ドレスや装飾品も群を抜いて洗練されており、一目でかなりの高級店が彼女の為に手掛けたのだとわかる仕上がりだった。


 「ロッテ?」


 「ロッテってアリスの友達のラダルウィル子爵令嬢のリーズロッテ嬢かい?確か君が凄く心配してた・・・」


 アリスの小さな呟きに気付いたグリート様も会場入り口に目を向けた。洗練されたドレスに身を包んだご令嬢の横には背が高く優しい雰囲気の、しかしどことなく彼女に似た顔立ちの若い男が立っていた。


 「エスコートしているのはラダルウィル子爵の子息のウィングライ殿かな?たしか、彼女には婚約者がいるのでは無かったのか?」


 訝しげに眉を寄せたグリート様の言葉に、アリスはぎゅっと拳を握った。最近になってリーズロッテに婚約申し込みがあり、リーズロッテもそれを了承したことは本人から聞いて知っていた。それをグリート様にも話していたのだ。


 通常、デビュタントのエスコートは遠方の仕事や病気など、よっぽどの理由が無い限りは婚約者が行う。デビュタントは一生に一度きりの貴族女性のデビューの会だ。

 それなのに、婚約者であるリーズロッテをほったらかしにするなんて・・・


 「こんなの酷すぎるわ!ロッテはまだお相手が誰かも知らないのよ。デビュタントのエスコートすらしないなんて!!」


 「確かに名前も明かさず、エスコートもしないなんて普通じゃ無いよな。」


 アリスの憤りにグリート様も同意したように頷いた。沸々と腹の底から怒りが湧き起こってきた。大事な友人に酷い仕打ちをするなんて許せない。


 「今からでもラダルウィル子爵を説得してこんな婚約は破棄するべきだわ!」


 「でも、断れない相手はなんだろ?」


 「ええ。でも、ロッテはきっとお相手は金だけあるヨボヨボの爺さんだって言っていたわ。きっと、ロッテを金で買って人生最後の慰み者にしようとしてるのよ!許せないわよ!!」


 「ラダルウィル子爵は金で娘を売るような人に見えないがなぁ。」


 「なあに、グリート様の薄情者!私の友人がどうなったって良いのね!こんな情の薄い男だったなんて・・・」


 「ちょっと待てよ、アリス。俺は君のことを誰よりも大切に想ってる。」


 慌ててアリスの手を握ったグリート様の目は真剣だった。その濃い緑の双眸に射られるように見つめられて、アリスはじわじわと頬に熱が集まってくるのを感じた。


 「若いもんは良いのぅ。」


 グリート様と暫く手を握ったまま見つめ合っていると、横から初老の紳士が和やかに視線を向けているのに気付き、アリスはハッと意識を取り戻した。火照る頬を隠しつつ慌てて会場内を見渡してもリーズロッテの姿が見当たらない。見失ったのだ。 


 「居ないわ・・・」


 「すぐ戻るだろ。それより、君をみんなに紹介したいんだ。可愛いアリスが俺のものだと知らしめておかないと。」


 そう言われてグリート様に腰を強く引き寄せられると、アリスは何も言うことが出来ずにすごすごとグリート様に従ったのだった。


***


 「ロッテ!」


 リーズロッテがデビュタント会場で食事を選んでいると、聞き慣れた友人の呼び声がして彼女は振り返った。目の前に立つアリスは白い衣装に婚約者の瞳の色である緑色のエメラルドを身につけ、とても素敵だった。


 「まあ、アリス!とっても素敵だわ!!」


 にこやかに出迎えたリーズロッテに対し、アリスは明らかに不機嫌そうな表情をしており、婚約者のグリート様はその横で困り顔だ。


 「ロッテ!こんな婚約は解消すべきだわ!!」


 「え?」


 「デビュタントのエスコートもしない糞野郎にロッテは勿体ないわ!」


 「ちょっと、突然どうしたのよアリス??」


 「どっかの金持ちの爺さん貴族なんでしょ?今からでもラダルウィル子爵にお願いして破棄すべきよ。」


 「ちょっと、アリス!お願い黙って!!」


 目に見えて狼狽え始めたリーズロッテの肩に、凛々しい青年がスッと手を置いて背後に寄り添った。見知らぬ男性の突然の登場にアリスは訝しげに眉を寄せた。


 「アリスと言うことは君がウェースタ伯爵令嬢だね。ロッテを心配してくれてありがとう。でも、婚約破棄は出来ないな。」


 「あなたは誰?」


 「私がリーズロッテに愛を請うた者だよ。流石にこの歳でヨボヨボの爺さん呼ばれはショックだな。糞野郎もなかなかだけど。」


 アリスはその発言と態度から、目の前の青年がリーズロッテの求婚相手だと瞬時に悟った。かなり酷いことを言ったのにも関わらず、目の前の青年は愉快そうに笑っている。

 金糸のような髪を後ろで括り、目は海のように深い碧。全てのパーツがバランス良く整い、滅多に見かけないレベルの美男子である。

 だがしかし、それとこれとは別問題だ。


 「あなたねぇ!私は見知らぬ方に名前を呼び捨てにされる覚えはありません。それに、ロッテに愛を請うたならちゃんとエスコートぐらいしなさいよ。途中から現れるなんて、失礼にも程かあるわ。私の大事な友人をそのようにぞんざいに扱うことは許さないわ。」


 何やら途中からリーズロッテとグリート様が焦ったようにアリスを必死に止めに入ったが、アリスは怒り心頭に発してその制止を無視して口が止まらない。目を丸くしてアリスを見ていた目の前の青年は、アリスが全て捲し立て終えるとニコッと笑った。


 「ロッテは良い友人が居て幸せ者だね。大事にするといいよ。」


 「はい!ありがとうございます。」


 リーズロッテは頬を染めて青年に礼をすると、2人はしばし見つめ合ってその場に甘い空気が流れた。そして、少し頬を紅潮させたリーズロッテはアリスの方に振り返った。


 「アリス。こちらが私の婚約者のシアルヴァン・ラ・トル・ガーディン殿下よ。」


 「シアルヴァン・ラ・トル・ガーディン??」


 リーズロッテの言った名前を復唱して、アリスは盛大に眉間に皺を寄せた。ガーディンの名を冠せるのはこの国には王族しかいないはずだ。

 改めて目の前のにこにこ笑顔の青年を見た。明らかに上質なフロックコートの金ボタンにはよくよく見ると鷹が彫られている。鷹は王族の証である。


 「え?え?ええー!!」


 「ちょっと落ち着いて、アリス。実はね、殿下がシャルだったの。ずっと文通してたの知ってるでしょ?それで、婚約を申し込まれたの。夢みたいだわ。」


 激しく取り乱したアリスにリーズロッテは頬を染めて嬉しそうに説明し始めた。時々、お互いにアイコンタクトをとって相思相愛の様子が手に取るようにわかった。


 「ロッテ!シャルさんは貴族じゃ無いって言ってたじゃ無い?!」


 「貴族じゃなくて王族だったみたい。私も今日知ったわ。」


 詰め寄るアリスにリーズロッテはペロッと舌を出して見せた。


 「その通り。私は今はまだ王族だ。グリート殿、元気な婚約者殿で賑やかな家庭になりそうだな。」


 「はい。ありがとうございます。」


 ぼう然とするアリスを余所に、リーズロッテとグリート様とシアルヴァン殿下は楽しそうに会話を続ける。そして、リーズロッテはアリスと目が合うともう一度にっこりと微笑んだ。


 「ロッテ!もおぉぉー!!」


 「アリス?牛みたいになっているわよ?」


 「ロッテのせいでしょー!!!」


 その日、アリスの叫び声がデビュタント会場の王宮広間に響き渡ったのだった。

 


 


 

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