第9部~ケンカが、始まりました。~
「フッ…………ユラ、チェンジ !」
「〔スティング・レイ〕 !」
ユラの三連撃剣技を受け、仮面の一人が倒れる。いきなり始まった《炎龍会》との争い。光の粒子となって消えて行く《炎龍会》メンバーの姿を見て、地面に座り込みながら、耳元のアダプタを使い、カムルと連絡を取る。時刻は、日本時間で18:32。約3時間ほど闘っていたことになる。その代償は大きく、零の膝は笑っていてロクに歩けるかどうか分からない。ユラも、地面に座り込んで肩で息をしている。
「カムル、こっち片付いた。そっちは ?」
『OKだ。周りにも敵影なしだそうだ。』
「了解。よし、ユラ、帰ろ。」
「あぁ。」
皆とは少し離れてしまっているので、歩いて戻ることにした零がなんとか立ち上がり、歩き出すと同時に、ユラがふらつき、倒れそうになる。
「おっとと !ユラ、大丈夫 ?」
「あ、あぁ…………問題ない、ただのめまいだ…………」
そう言っているユラだが、顔は青白く、少しだけ息が荒い。そして、目の下にクマができていた。
「…………ユラ、昨日寝てないでしょ。」
「そんなことは、無い…………うっ…………」
「ほら、まともに歩けてないよ ?いいよ、僕おぶっていくから。寝てって。」
「いや、私は…………」
ユラが言う間にも、零はユラの体をひょいとおぶり、ゆっくり歩いていく。
「…………すまん、言葉に甘えさせてもらう…………」
零の背中に頭を預け、体の力を抜く。暖かい温もりが、零の袴越しに伝わり、そこからフワッと香る花の優しい香りが眠気を誘う。
「フア、あ……………………スー…………スー…………」
「ふふっ、寝ちゃったか…………」
ゆっくり、振動をあまり出さないように歩く。そんな中、ユラの小さな言葉がスルスルと耳に入る。寝言のようだ。
「…………だ…………」
「 ???」
「…………好きだ…………」
(夢でも見てるのかな。けど、意外だなぁ。ユラに好きな人がいるって。)
恋愛には興味がなさそうな風貌と性格なので、ユラの意外な一面を見れた零は、口角を少しあげて歩いていった。
「ただいま。」
「おかえり~…………って !?ユラちゃんどうしたの !?」
「ユラ !?」
拠点のドアを開けると、疲れを顔に出した《アルカディア》のメンバーが、ソファーや床にぐでーっとしており、リリスとセレーネがお茶をそれぞれのメンバーに渡していた。そして、リリスが零の背中におぶわれたユラの姿を見て驚きの声をあげる。
「大丈夫、ユラは寝不足で寝てるだけ。心配ないよ。」
「あ、そうなんだ…………良かった~。」
「僕、今日夕飯いらないや。食欲失せちゃった。自分でサンドイッチ作るから、僕の分はいらないよ。」
「分かった、あ、でもそれなら私、今から作っちゃうよ ?」
「あ、じゃあお願い。ちょっとユラ寝かせてくるね。」
階段を上がっていく零の背中を見て、フラムがリリスを呼び止め、ソファーに座らせる。
「ねぇねぇ、リリちゃん、ちょっといい ?」
「何 ?フーさん。」
「零君とユラって、最近すごく仲良いよね。」
フラムの言葉に、リリスは頷く。確かに、最近ユラと零は二人で行動を共にすることが多くなっていた。稽古にしたって、最初は一人でやっていた零も、ユラを誘うようになった。
「そう…………だね。私、今日の朝二人見たら姉妹かと思っちゃったもん。」
「分かる !零君髪長いからね~。ユラがお姉ちゃんって感じでさー。あれで男の子でしょー。最初分からなかった !」
「零って、現実でも、あんな感じなんだよ。あ、髪は長くないよ ?でも、女顔っていうのかな ?髪さえ長くすれば女の子に見えるもん。」
「そうなんだね !あぁ、違う違う !聞きたいのはそっちじゃないや !あのさ、リリちゃん、零君に聞いて欲しいんだけど…………。」
「ん ?」
フラムはリリスの耳に唇を近づけ、誰にも聞こえないように小声で言う。
「零君、ユラの事好きなの ?って。」
「な、なななな !そ、そんなの聞けないよぉ !」
リリスは顔をワイバーンの火炎ブレスの如く赤くして両手をブンブンと振る。恋愛関係の話は《黒羽の騎士団》で一回もしたことがない。するのも恥ずかしいし、そんな経験をしたことがないのですぐに口ごもってしまうだろう。
「お願い !リリちゃんなら警戒されずに答えてくれるかなと思ったの !」
このとーりっ !と顔の前で両手を合わせるフラムを見ていると、断りきれなくなってしまい、リリスは困った顔で頷いた。
「わ…………かった。聞くだけ聞いてみるね。」
「ありがと~~ !!リリちゃん好きー !」
「わぁ、そ、そこまでしなくてもいいよぉ !」
ギューッと抱きついてくるフラムを見ながら、リリスはどうやって話そうか、内心悩んでいた。
「…………よっこい…………あー腰痛い…………」
ユラを自分のベッドに寝かせ、ストレッチで腰を少し動かした後、零は毛布をユラにそっとかけ、パソコンの前に座る。
「フゥ…………」
パソコンを開き、指紋認証とパスコードで立ち上げると、小さくトントンとドアがノックされた。
「何 ?」
ロックを解除し、ドアを開けると、そこにはサンドイッチが乗った皿を持ったリリスが立っていた。
「サンドイッチ、できたよ。ハムなかったから、卵とサラダだけしかないけど…………」
「あぁ、大丈夫だよ。ありがと。」
そう言って、ドアを閉めようとする零の手首を軽く握り、勇気を出して言ってみる。
「ぜ、零は…………え~っと…………ユラちゃんの事…………どう思ってるの…………………… ?」
「別に、普通だよ ?好きでもないし、嫌いでもない。あえて言うなら、友達以上、親友以下、かな。」
「そ、そっか…………ゴメンね、こんなこと聞いちゃって…………。」
「ううん。というか、なんでそんな事聞くの ?」
「い、いや、ただ、最近ユラちゃんと仲良いなぁー。と思って !別に深い意味なんてないの !本当にゴメンね !」
慌てながら手を離したリリスの手首を、逆に零が軽く握る。
「リリス、お願いがあるんだけど。」
「ふぇ !?」
ユラではなく自分に告白するのかと勘違いし、あわあわとするリリスを部屋の中に入れ、ベッドで寝ているユラに視線を送る。
「ユラの装備、外すの忘れちゃってさ、外してくれないかな。男の僕がやっちゃうと、ゲームのH.Pに引っかかると思うから。」
「あ、あぁ !うん、分かった。」
なんとか最大速度で飛び回っている心を落ち着かせ、ユラの軽鎧の金具をそっと外す。
「んん…………ん~……………………」
(ゴメンね~、ユラちゃん…………)
胸と腹部を守る鎧以外防具は付けていないようで、すぐに取り外すことが出来た。
「終わったよ。」
「ありがと、リリス。」
そう言って、パソコンに向き合う零に、リリスはイタズラっぽく笑う。
「零~、ユラちゃんに変な事しないでね~~。」
「する訳ないじゃん。それやったらアカウントが抹消されちゃうよ。」
「そうだね。じゃ、また明日ね。」
「うん。」
ドアが閉まり、再び静かな空間が現れる。
「ハァ…………っん~~~っ。」
キーボードに指を踊らせ、掲示板という掲示板へ飛び回っているのだが、何故か今日は集中が途切れ途切れになってしまう。伸びをして、ユラの存在を忘れてベッドに潜り込む。
「ふぁ~あ…………フゥ…………」
メガネを枕元に置き、ユラの頭を優しくポンポンと撫でる。ちなみに、零は撫でているのがユラだと気づいていない。誰かが置いていった抱き枕だと勘違いしている。当のユラは、撫でられていることは知らない。
そのまま、深い眠りにゆっくりと落ちていく。
「アイツらはどうした。」
「分かりやせん…………ボス、やっぱり三下たちだけで向かわせるのは行けなかったんじゃあねぇスか ?」
「そうっスよ、最後の報告だと、アイツらの他に何人か他のプレイヤーがいたらしいですし。」
(ワヌイ)のにある、廃ビルが集まっている地帯。(ワヌイ)の人々は、そこを“無法地帯”と呼ぶ。実際、そこにはPKを好んで行うプレイヤー達の溜まり場でもあるし、《炎龍会》のような、ヤクザギルドがよく拠点を置く場所だからである。
その無法地帯の1角に、周りの瓦礫の山に反して、しっかりしたつくりに、屋根の部分にきらびやかな飾りをつけた建物が。その入口の扉の前にはサングラスに黒スーツのガタイのいい男二人が槍を持って、武蔵坊弁慶のように立っている。入口をくぐると、そこはまるでホテルかと思う程の豪華な空間で溢れかえっていた。その建物にはエレベーターもついており、客室も完備されている。応接室には、幻獣の描かれた絵が掛けられ、高級ソファーが並び、掃除が隅々にまで行き渡っている。
エレベーターに乗り、3階に着くと、重々しい程の金色に染められた扉が目の前に広がる。
その部屋の中には、高級家具がズラリと並び、薄いドレスを来た美女達が、ある黒の皮コートを着て、サングラスをかけた男の周りを取り囲んでいる。机の向かい側には、下っ端と思われる男二人が報告を入れていた。
「ったく…………使えねぇ野郎たちだなぁおい…………こっちはこれ以上人数割けねぇってのに…………」
「どうします ?」
「どうするも何も、分かってんだろうがよ…………潰すまでだ、その、アイツらと一緒にいた他のプレイヤーって奴らもな。」
「じゃあ、そこらのPK好きのキチガイ野郎どもにも声掛けますか ?それなりの報酬を要求されると思いますけど。」
「分かってんじゃねぇか。そうだ、金なら腐るほどあるからな。領地にいるPK野郎ども全員集めろ。」
こうして、零達が知らない間に、悲劇のシナリオは書き上げられ、開演の手はずは整えられていく。




