第8部~稽古を、はじめました。~
「零、少し頼みがあるのだが、いいか ?」
ギルド、《アルカディア》が《黒羽の騎士団》の拠点に居候を始めて五日後、メンバーメインカラー白の片手剣使い、ユラが、ソファーでケダマと遊んでいる零に声をかける。零が顔を上げると、白の布地に、紫の文様が走った長袖に腕を通し、白銀の輝きを放つアーマーを着込み、同じく白の布地に紫の文様が走るスラックスを着たユラが腕を組みながら立っている。
「ん ?別にいいけど…………なんで ?」
零が聞くと、ユラは白のハチマキを額に巻き、余った部分で黒髪を縛りながら答える。
「決闘の時、完膚なきまでに完敗したからな。今以上に腕を上げておかないと、他のプレイヤーと当たった時に、奴らが守れない。仲間を守れない私など、私ではない。」
「なるほど ?分かった、じゃあ、外で待ってて。僕もすぐ行く。」
「キュ~…………」
少し残念そうな顔のケダマの頭を撫でて、リリスに面倒を見るように頼むと、外に出て、フィールドを展開する。場所は、何も無い平野。
「これなら、正々堂々勝負ができるね。遮蔽物が何も無いから。」
「言っておくが、投影魔術で岩などを投影するのは反則だからな ?そこを理解して、このステージにしたのだろう ?」
(ギクッ…………バレてたか、ホントは始まった瞬間に投影しまくろうと思ったのに…………仕方ない。)
「その顔、投影魔術を使おうとしていたな ?フッ…………顔に出る奴だな、零は。」
「うるさいな…………やろうか。」
零の両手に、両手持ちの棍棒が握られる。その棍棒の両端には鉄が巻き付けられ、戦闘には向いていないように見受けられた。
「でやァ !!」
「フッ…………ぬアッ !」
ステップを踏み、一気に加速。零の目の前まで迫る。しかし、零は飛び退き、長いリーチを生かして棍棒をユラの腹に向かって突き出す。
「クッ !まだまだ !」
直後に剣を戻し、軌道を逸らしたが、脇腹に掠った感覚。数歩退いて、息を整え、再び肉薄する。
「ハッ !でやァ !!ハァァッ !」
「モーションが遅い !もっと速く !そう !その調子 !そこは右払い !」
いつの間にか、零が戦い方を指導しており、途中から観戦を始めた《アルカディア》と《黒羽の騎士団》のメンバーは複雑な気分になっていたが、集中しているユラはそんなことを気にせずひたすら打ち込んだ。
「〔レイモンドストライク〕 !!」
「〔ゴーストエスケープ〕 !〔三連空弾突き〕 !!」
圧縮空気が直撃したかのような衝撃が走り、思わず片膝をついてしまう。その機を逃さず、零は棍棒をユラの目の前に突きつける。
「はい。僕の勝ち。」
「クッ…………零、なぜそんなに強い…………その強さ、どこで手に入れた…………その強さを、誰かを守る為に使うのか ?そうじゃないなら、なぜその強さを手にした…………」
「……………………」
「答えろ !」
黙っている零に向かってつい声を張り上げる。自分の悪い癖だと分かっていながらも、待たされるのが嫌いな自分だからやってしまうのだと、理解していた。その癖で、何回友人とトラブルが起きただろう。それにより、何回友人と呼べる人を失っただろう。いつからだろう、1人でいることが好きになったのは。そう考えながら、ユラは自分の事を振り返ってみた。
ユラこと、来村 優良は、女子バスケ部でキャプテンを務め、勉強面では80点以下の点数を知らない。いわゆる、文武両道の女子高生だ。生徒会の役員も務め、教諭達からの信頼も厚い。優良の通う高校に入学して来た女子高生達の憧れの的でもあった。
しかし、優良には1つ困った癖があった。極端に待たされることが嫌いなのだ。待っていると、無駄な時間を過ごしているようでイライラしてきてしまう。それと、答えを出そうと考えている人を見ていると、ついイライラして先に答えて、つい声を張り上げてしまう。
そのせいで、親しかった友人達とトラブルが起き、優良は一人になった。嫌がらせは受けなかったものの、誰一人として優良と話そうとする者はいなかった。
そんな時、ゲーム好きの父親から進められたのが、MMORPG[へーエルピス]だった。
[へーエルピス]に出会ってから、優良は変わった。乾いていた視界が、一気に潤った気がした。学校とは違う世界で、クラスメイトと違う仲間たちと出会い、 日常生活とは違う世界を冒険する。それが優良の心を変えた。いつしか、この世界で永遠に暮らしたい。とまで考えるようになった。
なので、この世界に引き込まれて、優良はありがたいという気持ちになった。乾いた学校には、もう行きたくない。それなら、ずっとこ世界で生きたい。そう、思った。そう思って、今まで《アルカディア》のメンバーと冒険をしてきたのだ。
「…………ユラ、今日の夜11時、僕の部屋に来て、話を聞かせてあげる。」
棍棒をユラから離し、零はフィールドを閉じる。
「…………分かった。ありがとう、私のワガママに付き合わせてしまってな。」
「大丈夫。僕もいい運動になったし。」
「皆ー、お昼ご飯できたよ~。」
「お昼ご飯食べよー !」
リリスと、フラムの声が皆を引き付け、ロビーへと戻ると、机の上には、グラタンが湯気をモクモクと出して、クリームの香りを運び、チーズの焦げた匂いもそれにしがみついてくる。
「美味しそうだな。フラムとリリスさんが作ってくれたのか ?」
「そうだよ~ !」
「けっこうな人数だから用意する材料の量が多くて、足りるかどうか分かんなかったけど、ちょうどで良かった。あ、あとさん付けなくてもいいよ。」
「へぇー、グラタンかー。久しぶりに食べるなぁ。」
「美味そー !いっただきまーす !」
「あ !タイガ、早いよ !」
「いいよいいよ、じゃ、いただきます…………うん !美味しい !」
「美味しいネ。そう思うネ ?ケイマ。」
「うん、うん。セレーネさん、料理上手なんですね。」
「ちょっと~、私も作ったんだけど~ ?」
「も、もちろんリーダーも、料理上手ですね !」
ワイワイと楽しく昼食をとったあと、《アルカディア》のメンバー達は、用件を話すために真面目な顔つきで話し始めた。
「私達は、《炎龍会》というギルド……ギルドというより、ヤクザだけど。そこに狙われています。」
「《炎龍会》…………確か、(ワヌイ)に拠点を置いてるギルドだったね。」
(ワヌイ)は、(メルトルト)の隣に位置する、良質な水の産地として有名な街である。
フラムの話によると、《炎龍会》はその水を売りながら資金を稼ぎ、その資金を換金し、武器や麻薬などを買い、現実世界で売りさばいているらしい。メンバー達は、ゲームアバターに目印として全員右腕に龍のタトゥーを入れているらしい。
麻薬などの売買は日本ではもちろん禁止されているし、そもそもゲーム内のコインを換金することも[へーエルピス]の制作会社、べーヘルム社によって禁止されている。もし、その行為が世に出れば[へーエルピス]側からアカウント抹消処置を取らされるだろう。
「それを知っていながら、なんで言ってないの ?そもそも、なんでそんなこと知ってるの ?」
「皆でかくれんぼしてたら偶然聞いちゃったんだよね………………。」
「あ、それは確かにアウトだね。」
(かくれんぼしてて巻き込まれるとか、最悪すぎるでしょ…………。)
「それで奴ら、私らを消そうと血眼になって探してる。多分あまり時間ないかも…………。」
分からなくもない。自身の身が危なくなるような証拠を掴んでいる人は、一秒でも早く排除しなければ。という衝動にかられるだろう。
「確か、メンバーの構成人数は60人だっけ ?」
「そうそう…………てか、なんで知ってるの !?」
「あー、フラムさん。コイツゲームの中の情報すげぇから。だから、色々知ってるぜ。」
「ほ、ほぇ~…………」
「まぁ、僕達で保護はやれるだけやるよ。見つかったら…………まぁなんとかなるでしよ !」
零の言葉に、椅子に座っていた皆がだああ~っ。とひっくり返る。重要な部分がそこでどうする。
「けど、ちょうど今はクリスマスイベントやってるし、そこまでの人数割かないと思うんだ。多分来るとしても10人くらい ?10人なら、皆の実力で跳ね返せると思うよ。特にユラとか強いしさ。」
「ありがたく受けとっておこう。」
「良かったねー !」
明るい空気の中、何故かシンがソワソワし始めた。ケイマがそれに気付き、尋ねる。
「どうしたの、シンさん。」
「来てるネ…………奴らが…………」
シンの言葉に、零以外の全員が固まる。ケダマは、いそいそと階段の下の隠れ家に隠れる。
「大丈夫、僕も索敵スキルで感知したから…………数は、20人だね。」
「そうネ。あれ、零さんも索敵スキル持ち ?」
「そ、スキルランクA+(プラス)。」
「勝った、オラはSネ。」
「ふざけてねぇで、武器構えとけー。死ぬぞー。」
「零、殺っていいのか ?」
「OK…………全員、心してかかれ。《炎龍会》のメンバーを、何人たりとも生きて返すな !…………なーんてね。僕もスイッチ入ったからさ、本気で行くよ。」
「お、零久々にスイッチ入ったか !」
「皆、行くよ !」
ドアを蹴り開けると同時に、一斉に遠距離魔法が襲う。数は20。
「危ない !」
フラムの言葉を気にすることなく、零は余裕そうに右手を開き、詠唱を開始する。
「罪なき者を守る盾よ…………今、開眼せよ !投影 !〔ガーディアンズ・オブ・アテナ〕 !!」
すると、零の右手から青色に輝く盾が出現し、魔法をすべて弾く。それは、魔法を全て無効化するという限定武装だった。
「投影魔術をもう使いこなせているのか…………たいした奴だ。」
「へへーん。」
暗闇から、人影達がガサガサと顔を出す。全員マスクを被っていて、顔は見えない。
「さて…………静かなケンカの、始まりかな ?」




