第7部~決着がつきました。~
「うっぐっ…………ハァ、ハァッ…………でやぁぁぁぁーっ !!」
「〔燕返し・参の剣〕」
体を捻り、突き出された{レイン・スワッシュ}をかわし、胴のくびれあたり、両腕をほぼ同時に斬る。
「あグあっ…………がハッ、ぐふっ…………。」
一体、何回斬られた ?何回カウンターを喰らった ?何回死んだ ?何回生きた ?何回かわされた ?てか、生きた ?生きられた ?生かされた ?頭が回らない。斬られ、斬って斬られて斬られまくった。
ようやく頭が回り、気が付けば、ユラの体中には傷が走り、白いはずの軽鎧を赤く染め上げている。そして、片膝をつくユラの前には、涼しい顔で剣を構える、零の姿があった。
「くっ、あうっ…………」
「フン…………これっぽっちの力で、よく剣を握れるね。それこそ、剣が泣くよ。」
「クッ…………」
フラフラになりながらも立ち上がり、剣を構えるユラに、零は容赦なく攻撃を加える。
「ッ…………〔レイモンドストライク〕。」
「カハッ…………うぁっ…………あぁ…………」
(負けた…………初めて………………)
10回の衝撃が体中を駆け巡り、競技場跡の壁に思い切り叩きつけられる。空気が押し出され、ユラの意識は暗闇へと急降下していった。
「し、勝負あり !勝者、《黒羽の騎士団》の、零 !」
全員、言葉が出なかった。闘技場にあるのは、ただの静寂のみ。
まさか、倒すとは。それも、圧倒的実力差で。挑戦者が無傷で、受けて立つ者がボロボロ。今までの試合が、嘘に思えるほど、完膚なきまでの、零の完全勝利。
「ユラァ~ !大丈夫~ !?」
フィールドの結界が解かれ、仲間たちが駆け寄り、回復薬やら、回復魔法を付与する。
「グ…………あぁ、私は、大丈夫だ…………すまない、こんな、惨めな姿を、晒してしまって…………私はもう、《アルカディア》のメンバー……失格だな…………グッ !がハッ…………」
「そんな事ないよ !ユラは頑張った !ただ相手が強すぎちゃっただけ !」
「おめェは悪くねェ !カッコよかったぜ、ユラ !」
「…………お疲れ、ユラ……………………アイツ、ヤバいネ。まだオラ達を警戒してるネ。」
黄緑の少年の言葉に、《アルカディア》のメンバーが視線を持っていくと、その先には、{ダーインスレイヴ}を収めず、警戒態勢をとっている零の姿があった。そして、不思議な現象が起きていた。零の背中の空気が黒く歪んでいるのだ。まるで、黒い煙が出ているかのように。
「ね、ねぇ、カムル…………零、もしかして…………」
少し遠く離れたところで見ていたリリスが、ブツブツ言いながらもついてきたカムルの腕をつつく。カムルは、焦りの色を隠しきれないまま頷く。
「あぁ、アイツ…………殺る気マンマンだ…………ヤベぇかなぁ、止めに行った方がよさげな気がするんだけんなぁ…………《アルカディア》の人達、どうか相手しませんように~。」
カムルは両手を合わせて必死に願ったが、叶うことは無かった。メンバーがそれぞれの武器を構えると、全員で零に突っ込む。
「ハハっ、そうそう…………そう来なくっちゃあねぇ !」
黄緑の短剣使いを蹴り飛ばし、赤の日本刀使いのみぞおちに柄を突き上げる。
「カッ…………あうぅ…………」
「てめぇぇぇ !!!!!!」
青の大剣使いの初撃を難なくかわして、7連撃剣技、〔ブレイドダンス〕を叩き込む。
「ぐああっ…………」
「こんなもん ?まだイケるでしょ?」
(この人、強い………………)
残り人数、3人。そのうち、戦力となり得るのは、緑のライフル使い。オレンジローブの少女と、藍色のコートの少女は、完全回復役なので、戦いの経験はほぼ皆無である。
「ね、ねぇ、カムル…………零って、ステータスどんな感じになっているの ?」
少し怯え気味のセレーネの問いに、カムルは真剣な眼差しのままで答える。
「アイツのステータスは、攻撃力、8万7千。防御力、5万3千。そして、スピード…………それは……………………」
リリスとセレーネが息を飲んで続きを待つ中、零は回復役を気絶させ、ライフル使いのライフルを真っ二つに斬ったところだった。ライフル使いは、両手をあげ、抵抗の意思がないことを伝える。それを見た零はようやく{ダーインスレイヴ}を収める。
(速い…………速すぎる………………そんじょそこらのプレイヤーじゃない…………。)
「…………スピードは、10万9千。」
「「じゅっ……………… !!?!!?」」
10万とは、とんでもない数字だ。[へーエルピス]では、攻撃力、防御力、スピード、対魔法力などの基礎ステータスをあげることが出来るポーションが存在する。それに制限はなく、やろうと思えばいくらでもあげられるが、それを使ってあげることが出来る数値は1000が限界。しかもそのポーションはボスモンスタードロップ限定アイテムで、手に入れようと思うなら、ボスモンスターに挑まなければならない。それに、現時点のLv上限のLv180にいった一般プレイヤーでも、スピードは約4万くらいだ。つまり、零はとんでもなく果てしない回数ボスモンスターに挑んで、勝ってきたことになる。
「えっ、嘘でしょ…………10万9千って……約11万じゃん…………それ、多分世界最速だと思うんだけど…………。」
「そうだ。本気を出したアイツを止められるのは、誰もいねぇよ。速さの話でもな。多分分身してるように見えるだろうよ。」
二人が息を呑む中で、《アルカディア》のメンバーを全滅させた零がひょこひょこと戻ってくる。ケダマは丁度決闘が始まった時に、リリスの和服の懐でお昼寝をしていたようで、ニョイと顔を出し、眠そうに目をこすっている。
「ただいま。ケダマ、おはよ。」
「ニュ~…………クァァァ…………ンニュンニュ…………」
「ふふっ…………じゃ、帰ろっか。」
「あれ、“術の秘伝書”は ?」
零が右手に握ってヒラヒラさせているのは、古びた巻物。
「ちゃんと回収してきたよ。やっぱり、中身は投影魔術だった。やったネ !」
投影魔術は、武器、道具などの、“ハリボテ”を自身の手に出現させることが出来る魔術。あくまでハリボテのため、本物より強度が大きく落ちるが、奇襲対策などにピッタリの魔術である。ただし、自分が持っていない武器に関しては目視してから投影を行わなければならない。
「投影魔術か~…………羨ましいなぁ。」
「へー。」
「これは、能力っぽいけど、能力じゃないからね。これで戦い方の多様化が期待できそうだ !」
ウキウキ気分で白い髪を揺らす零に、何か恐ろしいものを感じて、ケダマ以外帰り道では黙っていた。
「…………物質転移、完了。色彩再現、完了………………投影 !」
拠点の前の広場で、1人零は投影の練習に励んでいた。両手を合わせ、手と手の間を広げていく。間が広がっていくたびに、火花が走り、同時に鋭い痛みが両腕全体に走る。まるで、ナイフに刺されているかのような、そんな痛み。
「グッ !…………ハァァッ !」
バチンッ !
剣の形がうっすら見えてきたところで、火花がちぎれて信じ難いほどの力で吹き飛ばされ、地面に立っている木の一本に激突する。
「カハッ…………痛っててて…………」
(もうちょっとだったんだけどなぁー。)
「キュ~。」
痛む背中をさすっていると、トテテテー。とケダマが走ってくる。どうやら夕飯の準備が出来たらしい。ケダマは、ヨジヨジと袴を掴みながら登り、零の頭にチョコンと乗っかる。
「よっこしょ。今日のご飯はなんだろうね、ケダマ。」
「キュウ。キュキュ~ !」
「はいはい。クッキーちゃんとあげるからね。」
スタスタと歩いて行く零の背後で、何かがサッと動いた。その影は素早い動きで零の背中に迫る。
「ぬアッ !」
「うわっ、待った、待った !敵じゃないネ !頼み事があるネ !」
回し蹴りをかますと、その影はギリギリでかわし、明かりへと飛び込む。
それは、《アルカディア》の、あの黄緑の短剣使いだった。
「あれ、キミって《アルカディア》の…………」
「サ・シンというネ。さん付けで呼ぶなら、シンさんネ。」
シン、という男は、深呼吸を3回して、目をキッと引き締めると、丁寧に手足を折り畳み、地べたに額を合わせた。
つまり、土下座した。大きいスーツケースにすっぽり収まりそうなほど、キレイに。
「お願いします、オラ達を、ある組織から守って欲しいネ !」
「フ~ン………………今日は話だけ聞いてあげる。中に入って。」
そう言われたシンの顔がパパパッと輝き、口笛を吹く。そうすると、ヒョコヒョコヒョコッ。と《アルカディア》のメンバーが茂みから顔を出す。その中には、ユラも含まれていた。
「うぇい……………ま、まぁ、7人ならリビングしか入るところないけど、それでもいい ?」
「「「「「「「はい !」」」」」」」
(マジかーい。)
とりあえず、カムル達に説明し、説得したあと、《アルカディア》のメンバーを受け入れる。
「まぁ、よろしくね。僕は、この《黒羽の騎士団》の団長。零。それで、隣は副団長のカムル。それで、リリスと、セレーネ。それで、そちらは…………」
オレンジローブの少女が、ぺこりと頭を下げて紹介を始める。
「私は、《アルカディア》のリーダー、フラムって言います !メインカラーはオレンジ !それで、隣の子がカノン、メインカラーは藍色。それと、メインカラーは赤の、バベル !それで、私達のヒーローの、ユラ !!」
「私はヒーローじゃないよ。ただの遊撃隊長だ。」
「またまた~ !控えめなんだからー。もっと自分に自身持ちなよ !」
「仲いいんだね。」
ワイワイ賑やかに話す《アルカディア》のメンバー達に、零はホッコリ来るものがあった。
「うん !あ、紹介に戻るね !後ろの男子組だよね、メインカラー黄緑、サ・シン、メインカラー青の、タイガ !メインカラー緑の、ケイマ !よろしくお願いします !」
「キュ !」
フラムが頭を下げた時、トテトテトテ。とケダマが歩いてきて、一緒に頭を下げる。
「あ、その子はケダマって言うの。」
「かわいい~。触っていい !?」
「怖がらせないように、手だけ出してみて、ギュッってしてくるから。」
フラムが手を出すと、ケダマは零の顔を見たあと、ギュッ。とフラムの手にしがみつく。
「やぁ~ !かわいい~ !!」
そんな感じでワイワイガヤガヤしていたら、朝になってしまって、話が進まなかった。




