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第2話~拠点に帰ってみました。~

夜が開けて、零達は広い場所に出ていた。周りは人気ひとけのない森の中、特に大きい木の中をくり抜いて作ったオリジナルツリーハウス。

「ついたー。いやー、変わってないね~。」

「ホントそれな。拠点作るときこの木の中くり抜くって聞いて、ビックリしちまった。」

「それで、零一人でやっちゃったんだもんね。」

「あれは楽しかったなー。」

ワイワイ話しながら木の幹に設置されたドアを開ける。

「電気通ってるよね ?」

「大丈夫だろ。つけてみようぜ。」

パチッという音と共に、リビングの部屋が明るく照らし出される。温もりのある床には、机とソファーが置かれ、壁には本棚がズラリと並ぶ。隅にはパソコンが置かれた机がちょこんと置かれている。

「さて、最近のログを見てみようかな。」

そう言って、椅子に腰掛けてパソコンを開いた零の目が曇った。それに気付いたリリスが肩越しに覗き込む。[へーエルピス]では、プレイヤーの一人一人に違うIDが設定されており、IDを入力するとメインコンピュータにアクセスして、ログイン日時、戦績などを一目で確認できるようになっている。

「どうしたの ?」

「いや、なんかね…………“ログが全部消えてる”んだよね…………昨日のログイン日数はちゃんと記されてるのに、それ以外全部消えてる。」

「マジで !?」「嘘ぉ !」

驚いて画面をのぞきこんだセレーネとカムルは、顔を真っ青にしてソファーに倒れる。

「どれ、他の人にも聞いてみるかね。多分…………やっぱり、他の人もログ全部消えてるみたいだよ。」

「なんで !?私達の装備とか、武器ってほとんどクエストクリア報酬じゃない !なんでそれは消えないのよ !」

「何でだろうね。そこも不思議なんだよなぁ…………フゥ~ム…………あ、朝ご飯お願い。作れるものでいいよ。出来ればうどんがいい。かき揚げ付きでね。」

「ぜいたく言わない !それなら零作ってよ !」

叱責するセレーネに、リリスが優しく声をかける。

「じゃあ、私作るね、セレーネ。零、冷たい ?暖かい ?」

「暖かい。けど、あまり熱いのもやだから、よろしくお願いします。」

「分かったー。」

「もう…………分かったわよ、カムルもそれでいい ?」

「オケオケ。あ、でも俺、かき揚げじゃなくて油揚げがいい。」

こうして、《黒羽の騎士団》の皆は遅めの朝食を取ることとなった。時刻は日本時間8:32。

「んん~~~。おいひ~~。うどんつゆは目立たないけどかき揚げの玉ねぎの甘さと一緒に確かに味を主張して、かき揚げは衣がサクサクなだけじゃなく、少しフヤフヤした所もまたたまらない !それに、麺はコシがあって歯で噛み切る事に舌の上でツルツルと滑り、喉をスルリと通ってく…………うん !美味しい !」

((食レポかよwwwwww))

(よ、良かったぁ~、零、喜んでくれた……)

うどんが食べたくなるような事を言いながらうどんを啜る零を、リリスは嬉しそうに見ている。それに向き合う形で、セレーネとカムルは吹き出しそうになるのを必死に堪えていた。

「うん、セレーネ、リリス。うどんうめぇよ。毎朝これでもいいわ。マジで。油揚げよく味染み込ませてるわー。」

「流石にそれだと私飽きるかなぁ。」

「確かにね。ちなみに、明日の朝食はトーストとサラダね。」

「ウイッス。」

全員が食べ終わると、零が皆のどんぶりをそそくさと回収する。

「あ、零、やるわよ ?」

「大丈夫、料理はあまり出来ないけど、食器洗いならバイトでやって鍛えたから。速いよ。」

「そう、ならおまかせするわ。リリスー。部屋行ってみましょー。」

はーい。とセレーネについていくリリスを見ながら、零はスポンジに水を染み込ませる。

「なぁ、零。」

「ん ?何、カムル。」

「これ終わったら、クエスト行かねぇか ?ほら、時間も時間だし、ここに来てから、1回もクエスト行ってねぇから。どれくらい体が動くか、確かめてぇだろ ?」

「あー…………今日は木曜日、だから木の宝玉かぁ…………セレーネの武器の強化に必要だったから、行こうか。」

「お前、俺達の装備とか、武器の強化素材全部覚えてるのか………… ??」

少し驚き顔で尋ねるカムルに、ドヤ顔で頷く。

「ヤベぇだろ…………やっぱガチ勢だな、お前は。」

「知ってるくせに。」

「はッ…………すみませんでしたね、“白鷲しろわし”さん。」

カムルの言葉に、ニィィと笑った零は食器を片付け終わり、端末をいじり始める。

(ハァ…………どの装備で行こーかなー。)


「さて !行こうか。」

「いきなり過ぎるからビックリしたわよ…………んで ?どの難易度 ?私としては、いきなりハードは厳しいと思うのよ。」

「そうだね…………じゃあ、ノーマルでいいかな ?」

零達《黒羽の騎士団》は、クエスト受付場所で曜日クエスト、{曜日クエスト:木の宝玉}を受けに来ている。難易度はイージーから始まり、ノーマル、ハードの3つ。

「難易度は ?」

「ノーマルで。」

「了解です。少しお待ちください。」

受付が終わると、零達はトレーニングルームへと向かう。自身の武器の使い心地を試す為だ。

「皆いつも通り ?」

「おう !」

「うん。零もでしょ ?」

「そうだよ。」

「早くしましょ ?多分もう少しで始まっちゃうから。」

セレーネの言葉に、零達は一斉に武器を展開させる。

手の中から、光の粒子が現れたかと思うと、それらが一つの形を作っていく。

零は、2本の銃に変形可能な片手剣{デュアルバレット}に。

リリスは、一本の片手槍{カシウス}に。

カムルは、両手槍{聖槍 ロンゴミニアド}に。

セレーネは、両手剣{聖剣 エクスカリバー}に。

「そぉい !」

「お !軽いな、これ !」

「よいしょ !それ !」

「ハァー…………うん、いける !」

それぞれの武器は、重さはあまり無く、剣や槍は例えるならば鉄パイプを持っているような感覚。

しかし、銃にもなる零の武器は、ちゃんと武器としての重さがあった。1発撃ってみると、反動が物凄い。

『クエストを開始します。準備はよろしいですか ?』

「OKです。」

『それでは、ステージへ移動します。』

訓練所の床が淡く輝き、零達はそれに優しく飲み込まれていく。そして、目を開くと、辺りは広い荒野。特に体を隠すことができるような障害物はなし。たまに起こる旋風が、視界を一定時間奪う。

『それでは、スタート。』

電子音のブザーと共に、岩でできた棍棒やら、砂地に生息するであろうトカゲを乗りこなすゴブリン達、空には大きな翼をはばたかせるワイバーンが大量に出現する。

「前方、ゴブリン50。零に殲滅を任せる。」

「あいよ、カムル達は後ろから来るワイバーンの相手して。ワイバーンの数、およそ120。」

「りょーかい。それじゃあ、行くぞ !」

カムルの一声で、全員が走り出す。《黒羽の騎士団》では、戦闘時の指揮は全てカムルが担っている。零は、主に偵察や奇襲、敵の数を正確に伝える索敵係。セレーネとリリスは傷付いた仲間の回復や、敵に状態異常魔法付与係。

「〔スクランブルバレット〕 !!」

零の{デュアルバレット}から放たれたエネルギー弾が小さく別れて、ゴブリン達に襲いかかる。〔スクランブルバレット〕とは、威力を抑える代わりにエネルギー弾を分散させ、大勢の敵を倒す。というトリック

これで残ったゴブリンは、12。{デュアルバレット}をソードモードに変形させる。

「変形。」

今まで銃口の下にあった刃の部分がスライドし、銃口を覆い隠す。ハンマーをロックし、上にスナップをかければソードモードへの変形は完了する。

「ギュワワワワワ !!」

「フッ !!」

硬く乾いた地面を踏みしめ、加速。1体を袈裟懸け(けさがけ)で斬り捨て、後ろに回った2体の首筋をまとめて斬り払う。その後、剣の刃を見せながら威嚇する。ゴブリン達は襲いかかってこない。

「ブブッ !ブワワッ !ブワ !」

流石に勝てないと思ったのか、リーダーらしきゴブリンが声を荒らげ、地面に潜り込む。それに付いていくように、一斉に他のゴブリン達も地面に潜り、姿を消した。

(あーぁ、帰っちゃった…………ん ?)

少しガッカリしていると、耳につけたイヤホン型アダプタからカムルの声が聞こえてくる。

『終わったかー ?』

「…………皆逃げちゃった。何体かは仕留めたけどね。カムル、応援行こうか ?」

『大丈夫だ。思ったより余裕だった。全ワイバーンの殲滅を確認した。周りに敵影は ?』

「周りに敵影なし。けど…………クエストクリアって、ならない…………ね………… ?」

『そう………………だな。いつもならパンパカパーンってなるはずだもんな。』

カムルの声を聞き終わらない時、瞬間的に横に飛んだ。その直後、今まで自分がいた所に大きな穴が開き、そこから巨大なミミズのようなモンスターがウネウネと現れる。アダプタを耳に押し当て、できるだけハッキリと早口に喋る。

「カムル、巨大ミミズ発見、多分このクエストのボス。弱点は見当たらない。HPは80万。」

『了解、零は攻撃を開始、俺達は援護に向かう。』

「OK。」

ミミズに斬撃を与えてみると、一応ダメージは通る。しかし、思ったよりも体が柔らかいため、刃物ではロクなダメージを狙えそうにない。

「カムル、相手は物理攻撃半減のスキル持ちかも。遠距離魔法で頭ぶっ飛ばしてみてくんない ?」

『OK。少し離れてろよー。』

少し下がると、少し遠くから一本の光の筋がミミズの頭を文字通り吹き飛ばす。

(さて……………………あれれ ?)

ミミズは粉塵を上げて倒れ、その後Quest clear !!の文字がファンファーレと共に表示される。

『あっ…………スマン、距離あるから威力落ちるだろうなぁ…………と思って少し火力上げちゃったんです申し訳ございませんでした !!』

「カムルに…………カムルに最後持ってかれた…………むぅぅぅぅ~~~ッッ !!」

クエスト後、拗ねてしまった零は“拠点”に戻っるが早いかふて寝してしまった。カムルが必死で土下座した結果、かき揚げうどんを奢ることで許してもらえることになった。

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