第13部~修行の旅に、出かけます。~
どうもこんばんは、栗餡でしっ。
これにて、『へーエルピス~黒羽の騎士団編~』は終了となります!読んでくれた方、ありがとうございました !!
予定としては、2週間後の、2月26日から、新しく『修行の旅編』を投稿していきます!
そこの所、よろしくお願いします !!
それでは、最後までお付き合いくださいませ !
「ふんんん~~っ…………なんだよもぉぉ…………まだ朝の10時じゃん…………」
頭の中に響く通話ウィンドウの呼出音に少しイラつきながら応答ボタンを押す。その瞬間、カムルの怒涛の如き大声が響いてくる。
『うおおおおおいお前今どこにいんだああああああああぁぁぁいッッ !!!!!!!』
「あの十字架の横…………おやすみ。」
そう言って、すぐに通話ウィンドウを閉じる。
『おいっ !おーい !!』
なんか聞こえたような気がしたが、気にせず寝袋に潜り、意識を沈めかける。
「あ、ユラは…………良かった、寝てた。」
寝袋の左隣には、黒髪をお団子にまとめたユラが、体に毛布を包ませてスヤスヤと寝ていた。
「ふぁ…………零…………」
「おはよぉ~。ユラぁ~。」
あくびと共に体をユルユルにしつつ、体を起こしたユラの膝に頭をのせると、アホ毛を引っ張られ、その次に頬をムニューッとされる。
「むぅぅ~。」
「フフフ。寝起きで緩みきってるな、零。」
「うるさいやい。」
「今は何時だ ?」
「朝の10時だよ。」
そうか、と言って、ユラは入り口のチャックを開けて外に出る。昨日空に浮かんでいた灰色雲は跡形もなく、その代わりに眩しいくらいの青空が広がっている。
「フゥ………………」
「キュ ?」
「ん ?なんだ、ケダマ。お前のご主人はテントの中だぞ。」
スラックスの裾をチョイチョイといじっていたケダマを引っ張りあげ、手のひらに乗せる。ケダマは、眼をパチクリさせて、二パーっと笑う。その様子はとてもかわいらしい。
「ケダマ、お前は何かに化けるという事は、できないのか ?例えば…………そうだな、私の弟にでも。人が無理でも、何か物に化けるという事はできないのか ???」
「キュ~~………………カプッ。」
ケダマは、頭を捻って考えた後、いきなりユラの指に噛み付く。いくら幼体とはいえ、犬歯は鋭く、噛まれたら血が出て、痛みを伴ってしまう。
「痛っ…………ケダマ ?」
ユラが、痛みに驚きケダマを手から落としてしまう。しかし、その瞬間驚くべき事が起きた。
「なんだ………… ?」
ケダマの体が空中で輝き始め、丸い体がスラリとした体へと変化していく。四肢も、マスコットじみたものから、少年へと変わっていく。
「どうしたの…………って、えええええ !?」
モソモソとテントから出てきた零は、変化していくケダマを見て驚きの声をあげる。
驚く二人の前で、ケダマは一糸まとわぬ裸体の少年へと姿を変えた。その顔には、閉じているが、大きくクリっとした眼が。肩にかかる長さの黒髪。その後、少年はペタンと座り込んで、周りを見ながら眼をパチクリさせている。
「…………凜雄 ?」
「…………姉ちゃん ?」
抱きついていた。H.Pが発動し、ユラの頭の中に、鋭い電子音が鳴り響くが、気にならなかった。
「凛雄、心配していたのだぞ…………愚か者め、無事なら連絡のひとつくらいよこせ…………とにかく、生きていて良かった………………良かった……………… !!」
「うん…………ゴメンね、ホントに……………………ホントに、ゴメンね…………姉ちゃん………… !!!!」
「凛雄…………え、凛雄 !?嘘でしょ !?じゃあ、ユラって………………現実だと、名前、来村 優良………… ?」
凛雄から一旦体を離し、驚きの声を上げる零が差し出した装備一式を渡したユラは、当然というように頷く。ステータス画面を見てみると、名前の所には、“リオ”と
「そうだが………………それがどうかしたのか ?」
「僕だよ !!覚えてない !?朝峰 雄希 !!これで思い出すでしょ、思い出さなかったら泣くからね !?」
「朝峰…………雄希……………… !!!!!!!雄希 !お前か !!」
「そうだよ !!」
「「ええええええええええええ !!!!!!!」」
ユラと零は、二人同時に叫んだ。従兄弟の関係のある者だと、気づかなかった。ユラにとっては、初恋の人がまさかの従兄弟であることに、軽く絶望した。
「最後に遊んだのはいつかなぁ。」
「十二年前だ。その時以来、年末年始でも顔を合わせた記憶が無いからな。」
「お待たせ~。あれ ?二人ともどうしたの ?」
開いた口が塞がらない二人に、初期装備を着たリオがチョンチョンと肩を叩く。
「リオ…………お前は、雄希だと分かっていたのか ?大して驚いていないように見えるが……。」
「ウン。だって、喋り方で分かったもん。あと、驚くとメガネを上げる癖 ?みたいなので分かった。」
「んな…………リオ、僕の癖見抜いたのか………………絶対、観察眼スキルA以上だよ。あと、魅了スキルも高そう。」
会話の中で、自然な疑問が浮かんだユラは、零に尋ねる。
「零、お前リオに会ったことあるのか ?私が中二の時に行方不明となったから…………今、リオは十二歳か。五歳年が離れていることは覚えている。」
「会ったことがあるも何も、僕の家にいるし。」
「………………は ?」
驚きの連続で、ユラの思考は軽く停止状態にあった。中二の時に行方不明になったリオが、今零の家にいる ?家に、いる ???
「姉ちゃん、ちゃんと説明するよ。だからさ、どこか行かないで ?おーい !戻ってきて姉ちゃん !!」
「………………はッッ !あ、あぁ…………話を聞かせてもらおう。」
テントに潜り込んだ三人は、リオを真ん中にして座る。
「あの時、姉ちゃんなら僕が家を飛び出したのは覚えてるよね ?」
リオの言葉に、ユラは頷く。あの日、確か母とリオが大喧嘩をし、リオは少ない荷物を持って、家を飛び出したのだ。母は、すぐに戻ってくるだろうと思ったのか、すぐに仕事へ向かってしまった。
しかし、1ヶ月経っても、半年経っても、リオは帰ってこなかった。
母はリオの写真を握りながら泣きじゃくった。ユラは、あんなに怒っておいて、なんでそんなに泣きじゃくるのか理解ができなかった。(自分の自業自得ではないか。)
そう考えているうちに、三年が経っていたのであった。
「あの後、行く場所もなくて、フラフラと歩いてたら、大っきい門がある所で倒れちゃったらしいんだよね。」
「そこが僕の家だった、というわけ。」
「そうだったのか………………」
「けど、リオってスマホから[へーエルピス]ログインしてなかったっけ ?」
「そうだよ。大型アプデの後、ログインしたら意識飛んじゃって、目が覚めたら、なんか暗い所にいるし、まぁ、卵の中だったんだけど、そこから出たら人いっぱいいるし…………けど、その中に兄ちゃんがいたから、安心したの。」
リオの言葉に、零は頭をひねる。[へーエルピス]にログインしたのなら、そのプレイヤーの体に、自分の意識が入り込むはずだ。しかし、リオの場合、プレイヤーではなく、ガーゴイルの幼体に意識が入り込んでいたことになる。となると、考えられる可能性は二つ。
一つは、リオの体に、ガーゴイルの意識が入ったか。
それともう一つは、リオが、この世界において転生のようなことを起こした。その二つ。
その考えを確認するため、零はリオに鋭く質問をする。
「リオ、ステータス画面見てみて。」
「うん…………あれあれ、能力、‘悪魔の血’だって、何だろコレ………………。」
決まりだ。ガーゴイルの中には、血液を操作できる個体(“チュパカブラ”と呼ばれている。)が稀に生まれることがある。確率としては約0.001%らしいが、強力な個体であり、倒すと、レアアイテム“呪いの血液”が手に入る。リリース時からプレイしている零も、ソロプレイ時代に1回しか遭遇したことがなく、その後一回も見ていない。ケダマに会うまでは。
「分かった。リオはチュパカブラの幼体から生まれたんだ。んー、生まれたっていうか…………転生 ?かな。うん。転生したんだと思う。」
「へぇ~。」
「あの超低確率のレアなガーゴイルの事か。良かったな、リオ。」
「それ、褒めてるのか皮肉なのか分からないよ。」
「皮肉と書いて、褒め言葉と捉えれば良い。」
「なるほど。」
「それ強引じゃない ?まぁ、リオ、外に出て、能力見せてよ。やり方分かる ?」
フルフルと首を横に振るリオの手を引いて、テントの外に出たら、零はやり方を説明する。
「こう、両手を合わせて、“解” !、能力名を言うだけ。僕がやってみるね。」
リオとユラから少し距離を置いた零は、リオに説明したとおりの動作を素早く行う。
「“解” !、‘適応’、体現、‘生物’、ムカデ。」
すると、腰の辺りから、バキバキという音を立てて、ムカデの尾が出現する。リオは、目を見開いてその様子を見守っていた。
「分かった ?まぁ、僕の場合、別の能力を取り込んで、取り込んだ能力をまた出さなきゃいけないから、少し詠唱長いんだけどね。」
「へぇー。兄ちゃん、今どれ位能力持ってるの ?」
「一応、《黒羽の騎士団》のメンバー全員の能力は持ってるよ。その他には、今出してる、地球上全ての生物の体の一部、及び能力を使える能力、‘生物’だったり。触れた物の質感とか、形状を変化させたりできる能力、‘変化’だったり。他にも二つ三つくらいあるよ。さ、リオやって見て。」
恐る恐る零のいた位置に行き、深呼吸をしてから両手を合わせ、叫ぶ。
「“解”!‘悪魔の血’ !!」
すると、リオの右眼に、血のように赤い筋が浮かび、その後、“何も起こらなかった”
「…………あ、あれ ?兄ちゃぁぁぁぁぁん何も起こらないよぉぉぉぉぉ。」
「おかしいね…………あ、多分、血が必要なんじゃないかな ?‘悪魔の血’だし。」
試しに、自分の指を少し切って、血を出してみる。
すると、その血がまるで生き物のように動き、1本のアーミーナイフに形を変える。
「できた…………やった !兄ちゃん、出来たよ !」
「やっぱり。けど、リオだけの血だと、そのナイフくらいが限界なんじゃない ?それ以上やっちゃうと、たぶんリオが煮干しになるよ。」
そんなこんなで話をしていると、カムル達が迎えにやって来て、一旦拠点にてリオの自己紹介が行われた。
「リオです。よろしくお願いします。ちなみに、ユラさんとは姉弟です。僕が弟で、ユラさんが姉ちゃんって感じです。」
「よろしくー。俺はカムル。《黒羽の騎士団》の副団長って扱い受けてんだ。」
「リリスです。台所係をまかされてます。隣にいる、セレーネも同じです。」
「よろしくね、リオ君。」
「はい !」
「はい、自己紹介も終わったところで、早速だけど、皆には、修行の旅に出てもらいたいと思ってます。」
固まった。いきなり何を言い出すのかと思えば、修行の旅に出てもらうと言う。それには、さすがのユラも驚いた。
「ちょ、ちょっと待て、零。いきなり過ぎないか ?リオなんて、今日入ったばかりなのだぞ ?」
「一人で旅に出ろとは言ってないよ ?誰とでも好きに組んで良し。けど、三人までね。あと、三人の場合は、必ず女子を一人入れる事。はい、分かれてみて。」
いきなり過ぎて戸惑ったが、結果、
ユラと零。
リリスとリオ。
セレーネとカムル、ケイマ。
という分かれ方をした。
「意外だね、リオがリリスと組むなんて。」
「まぁ、兄ちゃんでも良かったけど、他の人とも組んだ方が、お互いのためになるかなって。よろしくお願いしますね、リリスさん。」
「よろしくね、リオ君。あ、敬語はずしていいよ。仲良くしようね。」
「はい…………じゃなかった、うん。じゃあ、リリスさんの事、リリさんって呼んでもいい ?」
「OK。じゃあ私もリオ君。って呼ぶから。」
「すぐに仲良くなったから、そこはOKだね…………ユラ、僕と組んでもいいけど、そうしたら僕、スナイパーライフルで援護にまわるからね。前線はユラに任せっきりになるよ ?それでもOK ?」
「それを望んでいるのだ、愚か者めが。」
「りょーかい。カムルとセレーネ、ケイマか…………一番バランス取れてそうだね。ケイマ、射撃より格闘得意だし。日本刀持ってるからね。そうすると、完全に武士だね。申し訳程度に弓使うし、日本刀も使うし。装備だって、《アルカディア》から《黒羽の騎士団》移ってから、変えたんでしょ ?」
「はい。何気に素材が足らなくて、苦労しました。けど、その鎧、軽いのに何気に防御高いんですよ。」
「なるほどね。それで、セレーネの魔法で回復や、バフをかけつつ、カムルの遠距離魔法でカバーすると………………。うん。フッツーに強いんじゃないかな。死ななければ。」
「それ酷くね ?」
「事実じゃない。酷くもなんともないわよ。」
「まぁまぁ、お互い、頑張りましょうよ。」
「さて !修行の旅の期間は明日から三年間。三年後に、またここに集合 !それでいいね !」
零の言葉に、全員が揃って頷く。不安もあるが、期待も胸に秘めて、全員軽く荷物をまとめ、拠点のドアの前で円陣を組む。
「行くぞー !!修行の旅ーー !!!!」
「「「「「「オーーー !!!!!!!」」」」」」
「解散 !またね !また、この場所で !」
「じゃあな !」「またね~ !」「バイバ~イ。」「それでは !」
メンバー達がそれぞれの道を歩いた後、扉に貼り付けられていた貼り紙。
それには、こう記してあった。
『修行の旅にて、休業いたします。《黒羽の騎士団》一同』
《黒羽の騎士団》編、完結。




