11部~悲しみは、繰り返しました。~
「ハァッ、ハァッハァッ…………」
ユラ達は、崖に挟まれた一本道を走っていた。逃げても、逃げても追いかけてくる。相手側はおそらくスタミナ効率アップのスキルを持っているだろう。それも、スキルランクA以上の。
「キャアっ !」
「カノン !クッ…………〔スティング・レイ〕 !!」
逃げている途中、カノンが石に転んでしまった。襲い来る仮面のプレイヤー達を、剣技で倒す。それと同時にカノンの手を引いて走り出す。
「ケイマ !弾はまだあるのか !!」
「もう数発しかありません !」
それはつまり、死へと一歩一歩近づいていっているということ。焦りが段々と大きくなっていく。もしかしたら、ここで死ぬのかもしれない。もう、零に会えないのかもしれない。
そう思った瞬間、フラムが急に立ち止まり、ユラに小声で伝える。
「ユラ、皆を連れて、先に行って。」
「バッ…………何を言っている !お前もタイガと………………」
「早くッッ !!!!!!!!」
叫びながら印を結んだフラムを見て、ユラは唇を噛みながら駆け出す。
「フラムさん !」
「先行ってて !なんとか追い付くから !…………〔重力捕縛〕 !!!!」
フラムの杖が地面を叩く。その瞬間、巨大な魔法陣が出現し、その魔法陣の中の空気が鉛のように重くなる。それは、高位魔法に位置する、魔法陣の中の重力を5倍にするという魔法。強力だが、PPの消費が激しい。
説明が遅くなってしまったが、[へーエルピス]には、PPという、技を打つためのコストゲージがある。技の一つ一つにコストがあり、それを発動する事に、その技のコスト分だけゲージが減っていく。レベルを上げれば、PPの数値も上がる。ちなみに、ユラが放った技〔スティング・レイ〕はコスト3。フラムが使用した〔重力捕縛〕はコスト30。現時点でレベル140のフラムのPPは153。恐らく、あと2秒で切れてしまうだろう。
「フラム……………… !!!!」
ユラの頭の中を、無数の仮面の集団に切り刻まれるフラムの姿が浮かんで、悲しみと、怒り、そして、自身の力不足を悔やんだ。フラムと同じく、タイガも同じくHPゲージを削りきられてしまっただろう。そんなことを考えていると、ケイマの焦りの声が意識を引き戻す。
「ヤバいです !前方から同じ反応が200 !!!!」
「えぇー !!!!」
「何故だ…………どこにそんな人数が………………。」
立ち止まったユラ達の周りを、仮面の集団がまた取り囲む。それは、最初に囲まれた時と同じようにも見えた。
「………………カノン、いざとなったら、魔法で《黒羽の騎士団》の拠点まで飛べ。ここは私が食い止める。」
「 !!ムリだよ !ユラ1人じゃ…………そんな事言ったら、零さん、悲しむよ !!」
「……………… !!!!!!!」
そうだ。すっかり忘れていた。ここで死んでしまえば、零には会えなくなってしまう。そうしたら、零はどんな顔をするだろうか。しかし、ここで食い止めなければ、一体誰が仲間を救うというのか。
「いいんだ…………私は…………」
覚悟を決めて、剣を抜いた瞬間。
『そんな事で死ぬなぁ !!ユラ !!!!!!!』
突然目の前に猛スピードで何かが落ちてきて、大量の砂煙をあげる。ユラ達が咳き込んでいると、急に体が浮いていく感覚があった。そして、しっかりした構造の籠らしきものにドサッと落ちた感覚。何が起きたと考えている間に、零の声が聞こえてくる。
「セレーネ !回収できた !?」
「OKよ !!全員籠に入れたから !」
「りょーかい !それじゃ、そこら辺飛び回ってて !!」
籠から急いで顔を出すと、零が両手を合わせている光景が見えた。
「投影…………“武器庫” !!!!!!!」
すると、零の背後から、光の小さな門が大量に現れ、零はそのうちの1つから片手剣を引き抜いて走り出し、5人を斬り捨てる。その直後、別の門からマシンガンを引き出し、乱れ打つ。
「喰らえ !!」
突然の乱入者に戸惑っていた仮面の集団は、零1人にターゲットを決め、一斉に襲いかかる。
「‘適応’、‘生物’、ムカデ !!!!!!!」
瞬間、腰からムカデの尾が飛び出し、仮面のプレイヤーを薙ぎ払う。
「はぁぁぁぁッッ !!!!!!!」
剣を抜いて斬り、銃を構え、撃つ。その度に、白い髪がなびき、一筋の白い線を作り出す。
それは、まるで絶望の闇を照らす、一筋の光のようだった。
「零…………」
「うおああああああああああッッ !!」
バズーカを2門引き出し、勢いに任せ撃ちまくる。その度に爆風が顔を打ち、目を細める。
後に張り付いてきたプレイヤーは、ムカデの尾で弾き飛ばす。そして、斧を引き出し、目の前の7人のプレイヤーをまとめて斬り倒す。
「零 !!!!!!!」
プレイヤーの一人が投げた投げナイフが零の右腕を貫く。零は痛みに顔をしかめたが、攻撃をやめず、ショットガンを両手に収め、二人の頭を吹き飛ばす。しかし、傷付いた右腕から血が吹き出す。どうやら衝撃が強すぎたらしい。
「痛ででででで !ショットガンはムリだったか……………なら !」
零が印を結ぶと、今まで背中にあった門が少し大きくなり、仮面の集団の周りを取り囲む。
「喰らえ…………〔全方位一斉射撃〕 !!!!!!!」
すると、門という門から一斉に武器が射出され、仮面のプレイヤー達を殲滅していく。
残り人数、5人。それを確認して走り出した零は、両手に〈デュアル・バレット〉を出現させ、3人の頭を飛ばす。
「これで、退場だぁぁぁぁぁ !!!!!!!」
頭を飛ばした勢いを殺さず、二人の後ろに回り込み、銃に変形させ、引き金を引く。
辺りには、静寂が訪れた。遠くから、鳥が二、三羽飛んで来て、近くの枝に止まり、まるで試合終了の鐘の音のように、鈴のような声で鳴いた。
「カムル、周りに敵影は ?」
「待ってろー…………ない、な……OKだ。敵は殲滅。周りに敵影なし。」
「りょーかい。じゃあ、帰ろうか。」
‘生物’のハクトウワシを体現させた零は、籠の近くの高さまで飛んでくる。ユラ達が上を見ると、白い鱗に覆われたドラゴンが翼をはばたかせており、そのドラゴンが持つ籠の中に入っているようだった。
「フラム………………すまない………………」
「タイガさん…………。」
《黒羽の騎士団》のメンバーと、周りに警戒しながら彼らの拠点に向かっている中で、籠の中は重苦しい空気に包まれていた。その籠に蓋でもあったなら、絶望鍋が出来上がっているだろう。
「で、でも…………神殿で蘇生して、また会えるかも………… !!」
カノンの言葉に、一瞬希望が差したかのように見えた。しかし、その希望は、零の言葉によって砕かれてしまった。希望だけでなく、ユラ達の心までも。
「皆には言いたくなかったんだけど…………もう、“このゲームに蘇生はない”んだ。だから、体力ゲージが0になるという事は、現実世界では、“死”を意味する…………だから、フラムさんや、タイガさんも…………」
「……………………っ、ぐすっ…………分かり、まじだ…………零ざん”ん”…………」
涙で顔をクシャクシャにし、バベルに抱きつくカノンを見て、零の心が痛んだ。ユラは、静かにうずくまる。ケイマとバベルは、目に涙を溜めたまま、何も言わなかった。
(絶対許さないからな………………。)
飛びながら、怒りの炎が燃え上がるのを感じながら、零はカムル達と共に、拠点に戻った。
「何ィ !?500人全滅ゥ !?」
電話に張り付いた《炎龍会》のボスの声が煌びやかな部屋の中で反射する。受話器からは、手下の報告の声が忙しく聞こえてくる。
『はい…………な、なんか白い髪を後ろで縛った、女プレイヤーらしくて…………で、ですが、《アルカディア》の奴は、二人仕留めたそうです !』
「~~~~ッッ !!!!!!!…………そうか、ならいい。500人行ったのに、誰も仕留められませんでした。なんて言ったらテメェらをブッ殺すとこだった。分かった、下がれ。」
『ウィッス。』
受話器を置いて、椅子に倒れ込むように座る。
「ったく…………誰だァ ?邪魔するのはよぉ…………。」
それにしても、500人のPKプレイヤー達を全滅させるとは、中々の実力だろう。それも、女プレイヤーとは。
「イイじゃねぇか…………俺は好きだぜェ、テメェみてぇな、強くて、いい女が…………」
煌びやかな部屋で1人、ボスは舌なめずりをし、部屋を出ていった。
「零、どうすんだ…………」
「うーん…………さっき、全員に聞いたんだけど、ケイマと、ユラは《黒羽の騎士団》に入りたいって。んで、カノンさんと、バベルさんは、ミトさんの店に入るってさ。それで、カノンさんは、さっき泣きすぎて過呼吸になっちゃったから、セレーネが面倒見てる。」
「おぅ…………ケイマと、ユラは…………その、なんだ…………復讐で、入りたがってんのか………… ?」
明かりを一つもつけずに、真っ暗な状態のリビングで、カムルと零は話していた。リリスは、ケイマとユラの体力回復に務め、セレーネはカノンとバベルの面倒を見ている。
カムルの重々しい声に、零は首を振る。
「ケイマは、僕の元で、狙撃とかを習いたいんだって。それに、あの時助けてもらった恩を返したいんだってさ。ユラは………………」
「 ???」
珍しく口ごもる零に、カムルは首を傾げる。少し経って、顔を上げた零は、真剣な表情でカムルに問う。
「カムル、この事、誰にも言わないって、約束できる ?」
「…………任せろ。………………てかお前なぁ、俺をちったァ信用しろよ。このゲームで、俺らいつから肩並べて闘ってきたんだよ。これでも、俺はお前を全面的に信頼してんだぜ ?例えお前に裏切られるとしても、俺はお前をぜってー殺さねぇ。敵になっても、俺がスタコラサッサと逃げるわ。だから、お前も俺を信頼しろよ ?ここまで言ってんだからよ。」
「カムル………………ゴメン、疑った僕が悪かったね。うん…………あのね、ユラ、僕のこと好きみたいなんだ。だから、一緒にいたいって言ってて…………それと、力をもっとつけたいって言ってたよ。」
零が言った直後、カムルはコーヒーを一口飲んで、頷いた。
「なるほどな…………お前に恋したか……………………羨ましいなぁぁぁぁぁぁ零さんよぉぉぉぉぉぉ !!!!!!!」
「ちょっ !?カムル !暴れないでぇぇぇ !!」
約2時間、カムルは思い切り暴れ続け、零に放り出された。




