第1部~ゲームでの生活、始めました。~
どうも皆さん、こんにちは、こんばんは、おはようございます。
栗餡です !
この作品は、毎週月曜日に投稿していくつもりです。(間に合わなかった場合は、申し訳ございませんという事で。)
僕の作品に、最後までお付き合いいただけると嬉しいです。よろしくお願いします。
「ありがとうございました~。」
ゆるゆる声の女性店員の言葉を背に受けて、黒のウインドブレーカーを着た少年が電気屋を出る。外は冷たい風がふぶき、目の前をマフラーをした女子高生二人がスマホを見て、笑いながら通り過ぎて行った。
「さて…………買えた買えた。良かったァ~。」
少年の右手にぶら下がっている赤のマイバッグに入っているのは、大人気ゲーム、[へーエルピス]のダウンロードコンテンツ。今回は少し今までより高かったが、今回から新ステージ、«宇宙»の追加、アバターの新種族、半獣人が追加されるということで、少し期待度が高い。
「さて…………帰ろっと。」
自転車の鍵を取り出し、街灯が瞬く夜の道を少し急ぎ目に走る。10分くらいすると、普通の一軒家に辿り着く。しかし、家には一つの灯りもなく、閑としている。
「父さんと母さん、また仕事かぁ…………この調子だと、年末まで帰ってこないな。ご飯なに作ろう…………。」
適当に、みそ汁とご飯、ポテトサラダに目玉焼きを作り、5分でたいらげる。その他諸々の家事をひと通り済ませ、風呂から上がると、パソコンを起動させる。それと同時に、充電器に繋がれていたスマホがヴーッ、ヴーッ、と誰かからの着信を知らせる。耳を当てると、親友達からだった。
[もうダウンロードコンテンツインストールしてる ?]
「よっこいせ……これからやる。皆は ?」
[もうやってるよー。]
[早くしろー。皆同時にログインするって、決めたのお前だろー ?]
「ゴメンゴメン。さっきまで家事してたんだよ。僕が家事全般しなきゃいけないっての、分かってるでしょ ?」
ダウンロードコンテンツをパソコンに読み込ませながらスマホ越しに楽しく話す。
「そう言えば、新しく種族追加されるけど、皆変える ?」
[私はヤダかなー。なんか気に入らない。]
[私もー。]
[俺ステータス見てから決める。]
「お前ってさ、ちゃんとそういうの見てから決めるよね。悪いとは言わないけど。」
[悪いかよー。このゲーム、何気ステータス大事だかんねー ?]
「だから、悪いとは言ってないじゃん。」
そう言っているうちにダウンロード完了の文字がパソコンに表示される。
「できた !僕はOKだよ。」
[私達もOKだよー !]
[よっしゃ !]
「さぁ、ログインッ !」
[[[オー !!]]]
Enterキーを押す。その瞬間、誰もいない部屋に、一筋の風が。その風は氷のごとく冷たく、剣のごとく鋭い。
その部屋に、マイク付きヘッドフォンが硬い床に落ちた。部屋に灯るのは、パソコンの光だけ。
日本時間、午後19:00。全世界で[へーエルピス]にログインした人達全員が、姿を消した。
「んっ…………あれ、ここは………… ?」
目が覚めると、暗闇に星が瞬く夜空の下、草原の丘に倒れていた。少しだけ視線を下に持っていくと。
「…………あれ ?僕、こんな格好だったっけ ?」
自分の両手には、肌にピッタリとフィットする黒のフィンガーレスグローブ。そして全身を包むのは、オレンジの帯が巻かれた紺の袴。足首より少し高い所を紐で縛り、そこから下は黒のブーツである。
そして、地面に広がるほどの髪。その色は雪の如く真っ白で、頭のてっぺん辺りには、ピョンとはねたアホ毛が風にそよいでいる。
「あぁ……これ、“僕のアバター”か。」
その格好は、いつも[へーエルピス]をプレイする時に使用するアバター、ユーザーネーム、零、Lv.180、種族:人間の格好そのままであった。
「んんっ…………」
「うあっ…………ん………………」
「んにャんにャ…………」
少し遠くから、親友達の呻き声が聞こえてくる。重い体を起こし、駆け寄ると、親友達もそれぞれのアバターの格好で草が風になびく草原にあるこ高い丘で伸びていた。
「皆、大丈夫 ?」
「んんっ ?…………」
「あ、あぁ…………大丈夫だ………………」
声をかけると、皆は体を起こす。特にケガとかはないようだ。それが分かると、零は胸を撫で下ろした。
「ねぇ、ここ…………どこ ?」
零が恐る恐る尋ねると、一人の少女が狐につままれたような顔をして答える。
「どこって、ここ…………“ゲームの中”でしょ………… ??」
「「「「……………………ええええええええええええーーーーーーーーーッッ !!!!!!」」」」
飛行機の離着陸時の音と同じくらいの4人の声が、夜空に響き渡った。
「さて……どうなったもんかねぇ…………」
落ち着いたところで、今の状況を整理して行こうと、零は考えた。
「というか、なんでここに来ちゃったんだろう…………私達、ゲームにログインしただけだよね ?」
そう言うのは、桃色の髪を後ろで束ね、黒の生地に桜の模様が入った和服姿の少女、ユーザーネーム、リリス、Lv.162、種族:妖精。その後ろで、薄手の黒のコート、スラックスという、黒一色の装備の少年、ユーザーネーム、カムル、Lv.170、種族:妖精が腕を組む。
「何でなんだろうな。もしかして、ゲームクリアしないと現実世界戻れません的な何かか ?」
「違うでしょそんなアニメによくある流れ。もはやそれ鉄板じゃないかな ?」
「まぁ、そうですけれども。」
「二人とも、真面目に考えて !」
二人を叱責するのは、薄紫色の軽鎧を纏い、ブロンドの髪をうなじが隠れるほどに短く揃えた、ユーザーネーム、セレーネ、Lv.169、種族:人間。である。
「メンゴメンゴ。どーする、零。一回町にでも降りてみっか ?まぁ、大パニック中だと思うけんな。」
「そう……だね。そうしようか。お腹もすいてるし。幸い…………コインも沢山ある。僕町でサンドイッチか、唐揚げ食べるね。」
「ゲームのキャラの格好だけど、食い意地はそのままなのね…………なんか呆れるわ、まったく……。」
一行は小高い丘のある草原から、ふもとの町、(メルナルト)に向かった。
「ど、どうなってやがる !?」
「おい !責任者出てこい !」
「どうなってんだよコレはァ !!」
町に降りてみると、零達が思っていた通りに、大パニックに陥っていた。あちらこちらで暴動が起こり、遂には喧嘩まで始まる始末である。
「あーぁ…………」
「やっぱ、そうなるよなぁ…………」
「ほふだえ~。(そうだね~。)ん~~~おいひ~~。」
「「口に物入れたまま喋らない !!」」
零が買ってきた唐揚げを、一つずつ食べながらベンチに腰を下ろす。
「零、もう1個、食べていい ?」
「別にいいよ、たーんとお食べ、リリス。」
((お前何歳だよ !!!!!!))
心の中でツッコミつつ、セレーネとカムルはグラスの水を飲む。冷たい水が心地よく体に染み渡っていく。そんな中、セレーネは零の顔を見てあることに気付いた。
「んー ??………………」
「…………な、何 ?セレーネ………… ???唐揚げの油でも付いてる………… ?」
「いや、別にそんな気にするとこじゃないんだけど…………零、“アバターにメガネかけさせてたっけ ?”」
見ると、確かに零には青いメガネが乗っかっている。零の記憶だと、かけさせた記憶はないらしい。
「そう言えば、カムルは髪の色違うよね。紫色だったじゃん。それで、リリスはアバターにメガネかけさせてたけど、今はかけてないし、セレーネだって、ゲームキャラなら腰くらい…………僕と同じくらいかな ?それくらいあったのに、短くなっちゃってんじゃん。」
「た、確かに…………言われてみれば、そうだよね…………」
「なんでだろうな、もしかして、ゲームキャラという“器”に、俺達の“魂”が入り込んだんじゃねぇか ?」
「どうやって ?パソコンと向き合ってるだけで魂吸われちゃうの ?」
「そ、そりゃあ………………すみませんでした。」
「いや、謝る必要ないんだけどさ…………まぁ、全否定はできないよね。このゲーム始まってから、世界中のあらゆる所で謎の行方不明者続出事件起こってるし。その類なのかな ?」
零の発言に、皆が頷く。3人とも、正直言って世界中で行方不明者続出という事が起こっていたことは知らなかった。
「仮にそうだとしたら、今回のは大掛かりというかなんというか……………。」
「え、まさか私達、このまま帰れないの !?」
涙目のリリスに、零は冷たく釘を刺す。
「うん。可能性としては否定出来ないからさ、覚悟決めといた方がいいかもね。」
「……………………うん。分かった。」
覚悟を決めたのか、目に涙を貯めながら頷くリリスの頭を零が撫でる。
「なぁ !拠点行ってみねぇか !?」
「そうだね。行こっか。どうなってるか見たいし。」
「行くよ !リリス !」
「うん !」
そう言って、4人は駆け出す。それと同時に、朝日が顔を出し、辺りをパステルオレンジに染め上げた。




