夜の争乱
「タツヤ様、作戦開始位置に到着しました。」
「りょーかい、様子を見ながら待機してくれ」
「はい」
この世界に時計のような便利なものは無く、時間を計るのは朝、昼、夜の一回ずつにならされる鐘だけだが、すでに夜の鐘は鳴っており、あえて言うなら現在の時刻は3時くらいだろうか。
空には無数に光る星が見える中、ふと、俺が知っている星座を探してみるが、そんなものはあるはずが無かった。俺は連絡を聞くと、アベル達のもとに、タツヤとして戻る。
今俺が話していたのは、エリスだ、もちろんこの場にいるわけでは無く、通信用の連絡魔法を使用して連絡を取っている。コールという魔法なのだが、ゲームの時は誰でも使えたから、魔法って認識じゃなかったが、問題なく発動出来た。
「おい、タツヤ、もうすぐ作戦が始まるってのにのんきにしてるなよ」
アベルは、やれやれと言うようにため息をはく。
こいつ、この前は尊敬してるとか言っていたくせに、一度正体をばらしてやろうか。
「悪い悪い、緊張しててな」
「ハハ、タツヤらしくないね、俺は特に緊張はしてないかな」
俺も緊張なんかしてないよ、友達のためだ、それにこの街のためでもある、緊張なんてしてられない。
なんていいつつ、アベルはどうせ緊張しているんだろ?と思って様子を見るが、それどころか、鋭い目つきで作戦の開始を待っていた。
「タツヤ様、作戦位置に到着したぜ、何時でもいける」
ハルカからの連絡が届いて、後は俺が作戦開始の合図を送るだけになる
「・・・アベル、ルーシュ、これからの戦いは本当に危険だ、死ぬかもしれない、それでも戦えるか?」
作戦を始める前に聞いておく必要があった、もし、アベルやルーシュが命をかけて戦えないのなら、今すぐ家に帰ってもらった方が、作戦に影響を与えずに済む、作戦の途中に逃げ出されたら、たまらないからな。
そう言って、俺はアベルとルーシュの顔を見て、思わず笑ってしまった
彼らの顔はすでに友達のため、街のために戦う戦士の顔になっていた
(どうやら、愚問だったようですね)
(そうみたいだな、今回もよろしく頼むぜ、相棒)
(イエス、マスター)
「それじゃあ、俺も持ち場に行ってくる、ここは頼んだぜ」
二人はこくりと頷くだけで、後ろは振り返らない
見えない位置で、仮面を付け、全員に聞こえる連絡魔法を発動させる
「準備はいいな?夜が明けるころには、この街に賊は誰一人いない・・・覚悟を決めたものだけでいい、
作戦開始だ」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
私は、黒いマントと、顔がばれないように、顔を隠せる襟の長い服を着て、暗い街を歩いている。
今日は、また組織の命令で、街の外にある対立組織の重要人物を暗殺しなければならない。
何度もやってきたことなのに、まだ手が震える。
私は大抵のことは、一度やったらすぐに慣れてしまうが、これだけはそうはいかない。
深呼吸をして、妹達から貰った綺麗な石ころを胸に抱く、こうすると、ほんの少しだが落ち着くことが出来るのだ。
さあ、行こう
いつ終わるかも分からない、この地獄から抜け出すには、これを続けるしかないのだから。
私が街の外に出るための門に歩いていこうとしたその時
ドオオオオオオン!!
ドオオオオオオン!!
「え?」
思わず声が出てしまった、街のあらゆる方向から、まるで魔法が衝突しているかのような音が響いてくるのだ、それは一度だけではなく、本当にあらゆるところで戦闘が行われている音だった。
「どういうこと?あいつらと騎士団がぶつかっているの?」
いやそんなはずはない、それが出来ないから、この組織はまだこの街に入り浸っていられるのだ。
私は謎の戦闘音のあらゆる可能性を辿ってみるが、到底答えにたどり着けそうにない、
もう私の頭はパニックだ
「じゃあ、一体・・・」
私がつぶやいたその時、
「あれー?タツヤ様に、ここにいたら私が戦う人に会えるって聞いたのになー」
こんな時間帯に、道路のど真ん中で、キョロキョロしながら何かを待っているかのようにしている緑色に輝く髪を持つ少女がいた。
一体誰?なぜこんな時間に一人で・・・
ブルル
私が、組織から、作戦を行う際に預けられる連絡用の魔石が震えた
そこから、声が聞こえてくる
「ミラ!!!俺達の組織全体が攻撃を受けている!!直ぐに戻ってきて、戦闘に加われ!作戦は後でいい!!」
切羽詰まったような幹部の声に、驚きつつも、後ろから聞こえてくる戦闘音はしっかり聞こえた。
どうやら、組織が襲われているのは本当らしい、それもかなりの規模で、もしかしたら、この街全体ほどの規模なのかもしれない
「一体、どこの誰が・・?」
「そんなの知るか!!さっさと来ねえと妹どもをぶち殺すぞ!!!」
どこの誰だろう・・・
ミラは妹達が殺されてしまう恐怖と、もしかしたらこの組織が無くなるかもと言う嬉しい、複雑な気分になりながらも、組織の手助けをせざるを得ないため、足早に街に戻ろうとした、その時、
「みーっけ!」
先ほどまで後ろにいたはずの少女が、いつの間にか目の前にいた、
近くで見ると、月明かりで顔が見える。
美しく、それなのにどこか幼い表情をした少女は、耳が少しとがっており、知識として知っていた、エルフだと直ぐに分かった
「私はラプハ、仮面の騎士様の命令で、あなたを街に行かせるわけにはいかないんだー、あなたも、戻らない訳にはいかないんだし、私と戦うしかないよね?」
仮面の騎士!?、もう何が何だか分からない、まさかこの騒動の原因は・・・
私は思考を振り払って、現在やらなければいけないことに目を向けた。
もしこの少女が言っていることが本当なら、確かに、私はこの少女と戦わねばいけない、もし、組織の命令に逆らえば、妹達が殺される・・・
そう考えた途端、頭の中は実にすっきりした
私はこの少女を殺す
ミラの中で、スイッチが入る、いつも暗殺するときのスイッチだ
「お、いい目になった、それじゃあ、やろうか、実は私も楽しみなんだ、あなたと戦うの、タツ・・仮面の騎士様が強いって言ってたしね」