完成された超魔術
始めてアジトに行き、初めての依頼をされ、初めて人を殺した。
あの時からそんなに時間は経っていないはずなのに、濃すぎるこの出来事は、時間をとても長く感じさせる。
始めて人を殺した時は、本当にひどかった。眠れることなんて無かった、罪悪感に押しつぶされそうで自分の手がどんどん赤くなっていくように感じた、相手が悪人だったことが唯一の救いだったかもしれない、
妹達に心配されて、何とか寝たふりをするだけで精いっぱいだったなあ。
それから私は、密かに学校に通うことにした、理由は騎士団に入って自分自身が正当な方法でお金を稼ぐようになるためだ、でも、それもばれてしまった、もうこれ以上学校に行くことは出来ない。
こんな私の、ほんの少しの時間だけど、人生の中で最も楽しかった時間だったかもしれない
ハル、リン、アベルにルーシュあと・・・タツヤそれに他のAクラスの生徒、こんな素性も分からない私によくしてくれて、いつもご飯にも誘ってくれる、ああ、そういえば一度も一緒にご飯食べれなかった・・・
・・・いつか、いつになるか分からないけど、私が借金を返して普通道理の生活がもし出来るのなら、
また会いたいな
私はぐっとこぶしに力を込めた
先ほど組織の男から貰った紙を確認して、移動を開始する
新しいターゲットを伝えられた私は、メイン目標の敵対組織の幹部の他に、
気になった「仮面の騎士」と言う存在の情報を聞くために、アジトまで足を運んでいた。
「私です」
大きな扉の前でそう言うと、窓枠のようなところからひょこっと男が顔を見せ、私の顔を確認すると、
ゆっくりと扉が開き、中に入る
アジトの中は相変わらずぎすぎすしていて、拳だけの喧嘩ならまだいい方だ
私がアジトに入って、ボスのいる部屋に向かうと、酔っぱらった男が私にぶつかった
「ごめんなさい」
「あ?そんなんでゆるすか~って、ん?」
酔っぱらった男は私の顔を見ると、まるでバケモノを見たかのような顔になりひえー!といってどこかに行ってしまった、
あれ以来ずっとこんな感じだ、私はどうやらここの人にかなり怖がられているらしい。
まあ、別にいいけどね、気にしない気にしない
ボスを部屋の前まで行き、ドアを叩く
「ボス、ミラです」
「入れ」
中から低い声が聞こえる、私が中に入ると、白い髪をぼさぼさにはやした男、人も殺せそうな眼をしたボスが椅子に座っている、
ボスはこの国の裏組織のボスの中でも三番目の実力を持っているらしく、それほどの人物がなぜこんな小さな組織にいるのかは謎らしい。
「要件はなんだ?」
「渡されたターゲットの資料が少なすぎるので、もう少し情報をもらおうかと」
ターゲットの紙の「仮面の騎士」を渡すと、「ああ、これか」と言う
「仮面の騎士に関しては全員のターゲットとしているが、指令としてだしているのはお前と幹部たちだけだ、それほどにこいつはやばい。」
「そんなにですか?」
もう一度写真を見てみても、よく分からない、最近は表情や体を見れば相手がどのくらいの実力なのかを
判別できるようになったのだけど、顔は隠されているし、特別ごついからだをしているわけでもない。
「ティア姫の大会にはみたか?」
「いえ」
「俺が気まぐれで見に行った時、そこでは奴と貴族のフリル・ヘイトの試合が行われていた、そこで見た奴が使う魔法、あれは正に、『完成された超魔術』だった。」
「『完成された超魔術』?」
「あれ達、闇組織のすべてをまとめている人に一度だけ見せてもらったことがある、一瞬の高速詠唱に加え、とんでもない威力だった、現在使われている魔法が子供の遊びに見えるほどだ、しかし、それでもその方はまだ完成じゃないとおっしゃられていた。」
「そんな威力の魔法をたった一瞬で?」
正直信じられない、私はあまり魔法が得意な方ではないが、高威力の魔法がかなりの詠唱時間が必要なことは、常識ではなく、当たり前の必然のように知っている。
「もしかして、「仮面の騎士」はそれ以上の威力の魔法を一瞬で発動させたのですか?」
ボスはにやりと笑うと、うなずく
「感動を抑えられないとともに、恐怖を感じた、この俺がだ。それほどのものだあれはな、人間が発動したのか本当に信じがたい」
ボスは続ける
「仮面の騎士が『完成された超魔法』を発動したことが広まらないように、魔法科学者に圧力をかけていたが、抑えきれなくなって他の闇組織にも伝わってしまったってわけだ、それで真っ先に引き込めないか交渉しろと命令が来たが、その次の日仮面の騎士の試合を見たボスたちが、顔を真っ青にして「今すぐ殺せ!!」と焦っている姿は今でも笑えるぜ」
なんて人物なんだ、仮面の騎士。
そもそも闇組織のボスが何人も集まること自体珍しいどころじゃないと聞くが、・・・
完成された超魔術、そんな力があれば、妹達を守りながら逃げることも出来るのかな?
「分かりました、出来るだけやってみます」
「まあ、期待はしてねえよ、いくらお前でもあの人間型の化け物を殺せるとは思っちゃいねえ、
そうだな、お前が仮面の騎士をやれたら、借金もチャラにしてやるよ」
「失礼します」
部屋から出てため息をはく、
やっともらえたチャンス、でもそんなバケモノみたいな人を殺せるの?
それでも私はやるしかない、妹達のためにも、私のためにも。