ミラの過去1
これは、私が14歳くらいの時の、つまらない出来事だ
「どうするのよ、あなた!今月も払えななかったら貴族の立場についていられるのかも分からないわよ!?」
「仕方ないだろ!先月に交易の相手の不正がばれて私達にとって状況が悪すぎる」
「それはあなたがあんな危ない人たちと交易なんてするからでしょう!」
「そうでもしないと、俺達みたいな底辺貴族が貴族のままでいられるはずが無いだろう」
真夜中、大きな屋敷の暗い廊下で、大声を出して喧嘩をする両親を覗いている、
すぐ隣では、妹達が怯えて震えている
「大丈夫、お父さんたちもすぐに仲直りするよ」
頑張って作った笑顔で、
ゆっくりと頭を撫でてあげる、少し安心したようだが、まだ不安そうな表情は消えない
「ほら、私はお父さんたちと少しお話してくるから、早く部屋に行って寝るんだよ」
そう言うと、妹達はうなずき自分の部屋に歩いていく
さてと・・・
まだ喧嘩をしている両親のがいる部屋の扉を力強く開ける
すると、一瞬驚いた両親がこちらの方を向いた
「お父さん、お母さん、いつも言っている、妹達がいるときに夫婦喧嘩はやめて。」
すると、お父さんはすごい形相でこっちに向かってきて、腕を振り上げるが、
冷静になったのか震える手を下におろした
「・・・悪かった」
「うん」
お母さんは、そんな状況を見てとても嫌そうにしていた、
「そうだ、ミラ、お前は頭がいいから、何か思いつかないか?」
「何を?」
「何をって、大金を稼ぐ方法だよ、このままじゃこの屋敷から出て行かなくちゃならないんだぞ?」
流石に呆れてしまう・・・この状況でまだ貴族でいることを諦めていないのだろうか、
既に大きな収入源を失い、いつ昔の不正がばれるかも分からないと言うのに
「・・・お父さん、貴族をやめるべきだよ、この屋敷を売って、そのお金で小さな家を買おうよ、そしてみんなで頑張ろう、私も頑張るか「ふざけないで!!」
私の言葉をさえぎったお母さんの大声が部屋に響く
「貴族じゃないその人なんて、私には何の価値も無いわ、悪いけど、今日で離婚しましょ」
「え??」
「離婚よ離婚、元々お金にしか興味なかったしね、ああでも、ミラだけならついてきていいわよ、
貴方は優秀で顔もいいから、いろいろと使えそうだわ」
その時のお母さんの目は私をただの使い勝手のいい物としか見ていなかった
「私は残るよ」
「・・・あっそ、それじゃあさよならね」
そして、その日のうちにお母さんは居なくなってしまった
ずいぶんとあっさりしたものだ、自分の実の母親と別れると言うのはこんなにも簡単なことなのだろうか、自然と私は涙も出なかった、私が特別なだけなのかな?
妹達はどうするの?私達を愛していないの?など、聞きたいことは山ほどあったけど、
それを言葉にすることは出来なかった、
お父さんに話しかけようとしても、「今は話したくない」と言われ、相談も何もできない状況が続いた
ある日、
私が始めた配達の仕事から帰った時、部屋の奥から「きゃあああ!!」と、悲鳴が聞こえた
妹達の部屋だ
部屋に入ると、なんとお父さんが妹を叩いている姿が目に入った
「この!何がお母さんはどこなの?だ!知ってるんだろ?お前達も俺が悪いと思っているんだろう何の役にも立たない父親だって、そう思っているんだろ!!」
妹達は泣き叫んでいる、またお父さんが妹達に手を挙げようとして、ミラはその手を掴んだ
「っお前もそうなんだろ!?」
掴んだ手を振りほどき、距離をとったお父さんは、壁に賭けられた剣を手に取り、さやを抜くとそれを私に向けた
「ふははあはあああ、殺してやる、そうだ、俺は何を迷ってたんだ、昔みたいに俺の邪魔をする奴は殺せばいいんだ、ああ、なんでこんな簡単なことに気付かなかったんだろう」
お父さんのその眼にはすでに正気を失っているとしか思えないほどに赤く、そして暗かった
「死ねえええ!!」
容赦なくふるうお父さんの剣を、横にかけてあった、もう私達には不釣り合いなドレスの金具を利用して、地面に押さえつける、
ミラの父、クルードは、冒険者としての実力と実績を認められ、貴族へと昇格した人物だ、
そのため、実力もそれなり、いや、かなりあると言っていいだろう。
しかし、
幼いころから、世界のことを学習していたミラは、こうなることを望まないながらも、予期していた。
つまり、自分を鍛えていたのだ
そして、ミラには恐るべき才能があった、それは14歳の少女が長年の冒険者にも勝る力も持ってしまうほどの才能だ。
ミラはドレスが切り裂かれると同時に懐に入り込んでいた、
「ごめんねお父さん、・・・さよなら」
ミラの攻撃は、一撃で冒険者の父親を気絶させていた
泣き叫ぶ妹達に近づくと、安心したのか、私に抱きついてくる
「大丈夫、これから三人で暮らそう」
そして、私たちは屋敷から出て行った
それから数日
どうやって生きていこう・・・
様々な方法を考えるが、どれも私のような子供がさせてもらえるとは思えない、モンスターを狩りに行こうとしても、私はいい意味でも悪い意味でもこの辺りには顔が知られている
三人で手をつなぎながら、街を歩いているそんな時だった
「おい、お前がクルードの娘だな」
振り向くと、そこには何人かの男たちがいた
「何か用?」
「ああ、先日お前の父親がな、俺らから金を借りたままどっかに消えやがったんだ、その代わりとして、
お前に返してもらおうと思ってな、ほら、これにお前の名前が書いてあるだろ」
男が出す紙を見ると、確かにそこには私の名前をお父さんの名前が記載されていた
「・・・お金を返すことは出来ない」
「あああ!!??そんなのが通じるとでも思ってんのか!」
周りを見渡すと、男たちは私を取り囲んでいる
・・・私だけなら全員を相手に出来るけど、妹達を守りながらとなると・・・
「仕事が無い、私達にはお金を稼ぐ手段がないんだ」
「あー、それなら問題ない、仕事は俺達が用意してやるからよ、そうだな、お前は体はお子様だが顔がかなりいいし、娼婦にでもなるか?っはは、まあそれが嫌なら戦闘の仕事もあるがどうする?」
「・・・戦闘」
「っはっははは!!お前みたいなガキがか!?まあいい、どーせ直ぐに無理だと分かる、ま、死んだ場合はそこの妹達に働いてもらうけどな」
「妹達には手を出すな」
ミラが発したすさまじい殺気に、向けられた男たちは一瞬ひるむ
「・・・は、はは、まあお前次第だな、アジトに連れていく、ついて来い」