黒幕
様々な人の活躍により、街に被害はほとんど無かった。
しかし、街中を見渡した時、一か所だけまるで何か大きいものがあったかのような場所を見つけた
もしかして、あそこであの龍が生まれたのか?
俺はすぐさまそこに向かう、小さな裏通りが大きく広がっている
周りが大きく崩れている以外にこれといった被害は無かったが、一つ、丸く小さな物を見つけた
拾ってみると、
なんとそれは、俺が一度見たことのあるものだった
その丸い玉のようなものは、ドクンドクンと脈を打っていた、
間違いない、俺が見たのとは大分小さいが、これはシモンさんと戦った時に見た人を吸収する
ための物だ。それはまるで何かを使い切ったかのようにしぼんでいる
勇者が黒龍に変化するには人の命を代償とする・・・まさかな、
いや、そうだとしたら、あのシモンさんの事件も今回も、何者かが裏で動いていたことになる
もしかしたらシモンさんも生きているかもしれない
一体何者だ?
考えてみるが検討もつかないな
それを手持ちの袋に入れ懐にしまう、このことはラウスのおっさんに報告しないとな
もう起き上がってるといいんだけど、
あ、でも起き上がったら自分の国が伝説の龍に襲われてるとか知ったらまた失神するかも
俺は直ぐに飛翔し、ティアの元まで戻った。
「あ、タツヤ!」
俺が戻ってきたのに気付いたティアが駆け寄ってくる、
「本当に、私の国を救ってくださりありがとうございます!」
手を前でそろえてお辞儀をする、さらりと落ちる髪が実に綺麗だ
「一応この国の騎士団だしな、俺の仕事はいつも楽だし、こういう時に頑張らないとな」
アハハ、と笑ったティアは少し考えて
「でも、どうして伝説の龍がこんな所に?」
「ああ、これは俺とシスの推測だが」
俺はティアに黒龍の正体が俺も会った勇者であるだうことと、今回の事件には黒幕がいることを伝えた
「ということは、あの黒いドラゴンはやっぱり昔話に出てくるあの?」
うなずくと、ため息をはいて
「もうタツヤが何をしても驚かないようにしますね」
「まあ、今回は他のみんなの助けがなかったら勝てなかったかもしれないしな」
俺がそういうと、ティアはどこか悲しそうな表情をして
「私は何もできませんでした、・・この国の姫として失格ですね」
「どっかの伸びてる王様よりはましかもな」
まあ俺のせいなんだけどね
「フフ、そうですね」
ティアはそういって笑う
「とりあえずこれで一件落着か」
ゆっくりと仮面を外す
「もう仮面の騎士の役目も終わりだな」
「え?」
「仮面の騎士はティアを救うために出来たんだから、目的が無くなったら必要ないよ」
俺は手に持った仮面を炎で焼き尽くそうとした時、
「その!一応とっておきませんか?私との記念・・・なんちゃって」
ぷっと俺は噴き出して笑ってしまう、
「ティアって時々すごい恥ずかしいこと言うよな」
俺はそっと仮面を服の中に入れた。
*
それから三日後、
街で被害があったところも修復され、黒龍の噂を聞いた他の国から何人もの使者が来ていた
街はあんなことがあったのにもう平常運転、ほんとにすごい国だと思う
「お、また新しい人だ」
俺は今城の客室の窓から外を眺めている、この三日、一度第八部隊として活動した以外はほとんど外に
出ていない、一度服を買いに行った程度だ
そして今日、俺はティアと一緒にラウスに報告に行く予定だ
今回のことと、黒幕のこと、そして・・・
「結婚のこともだよな」
ラウスのおっさんにどんな反応をされるのか、かなり怖い。
流石に仮面の騎士が俺だってことには気づいているだろうし、なんて言われるか
「お待たせしました、タツヤ」
バタと扉があき、俺と初めて会った時と同じ姿のティアが入ってきた、
ティアはこの三日間、様々な貴族に結婚の話を持ち掛けられ、そのすべてを断っていた
表情もどこか疲れているようだ
「お疲れ、それじゃ行くか」
「はい」
長い廊下を歩き、大きな扉の前まで着く、ティアが、コンコンと扉を叩く
「入れ」
中から声が聞こえ俺達は部屋に入った
「なんだ、ティアとタツヤか」
ラウスの反応は俺が思っていたのとは大分違い、冷静なままだった
ティアの方を見ると、コクリと頷く
「ラウスさん、俺、ティアと結婚することになりました!どうか娘さんを下さい!」
そういって頭を下げる、
「頭をあげろ」
頭をあげると、ラウスは複雑な表情をしていた
「こうなるとは思っていた、いや、しかし実際にこんな状況になると、父親として複雑な気持ちになるな」
「え?思ってたの?」
「ああ、ティアがお前のことを意識していたことは見れば分かるからな」
隣のティアを見ると、かあっと顔を赤くしていた
「あの、反対とかしないんですか?」
俺がそういうと、ラウスは驚いたようにして
「俺が反対?ティアが望んだ相手だぞ?反対なぞするわけが無い、まあ、あの仮面の騎士とかいう訳の分からん奴だったら反対したかもしれんがな」
どうやらラウスはいまだに俺が仮面の騎士だということに気付いてないらしい
俺はティアと目を合わせて喜ぶ
「しかあい、そうなると一つ問題があるな」
「問題?」
「ああ、タツヤ、お前身分を証明できるものを持っているか?」
「あ」
王族と結婚するのに、相手が身分も分からない謎の男なんて誰が納得するだろうか、
仮面の騎士だと明かしたところで結果は変わらないし・・・
「そこでだ、お前、学校に行く気はないか?」
「「学校?」」
「ああ、この国の最高の教育機関だ、そこを卒業すれば、身分としても問題ない。
まあ普通に入ろうとすればかなりの実力と知識が必要だが、そこは何とかしよう」
「いいんですか?」
「言ったろ?俺もお前を気に入っているんだ、歳もお前と同じくらいの奴しかいないし、友達も出来るかもしれんぞ?」
ラウスにはいろいろと迷惑をかけてしまっているのに、本当に申し訳なくなるが・・・
「是非お願いします!」
こうして俺は異世界の学校に入学することが決まったのだ。