転生してもニートだった
可愛い女の子を守って死ぬ。たぶん理想的な死に方だったと思う。
この10年間、俺は何もしてこなかった。
画面の向こう側の人をディスり、オナるだけの人生。
そんな俺がこんな格好よく死ねたんだ。美女エルフ姉妹の頭の中で生き続けられるなら、こんなクソみたいな人生でも悪くなかった気がしてきた。
何だか眩しい。騒がしい
お迎えの時間のようだ。
願わくば次は異世界に転生してチート能力でハーレムを作りたいな。
「くそぉぉぉぉ! 捕まるぐらいならぁぁぁぁぁ!」
不快な男の声で目が覚める。
何が起きたかよく分からないが異世界ではないこと、白銀髪のロリエルフがピンチなことは分かる。
ここが転生先なのか夢なのか、さっきが夢だったのかなんてわからない。
でも、俺は、この子の命を助けたい。
さっきのが夢だというならば、それは正夢であってほしい。
火の矢は俺の脳天を焼く。
この形容しがたい痛みは間違いなく現実だった。
「くそぉぉぉぉ! 捕まるぐらいならぁぁぁぁぁ!」
「くそぉぉおおおぉぉ!!」
意味わかんねぇ!
それでも闇雲に走った。
何度死んだって、この子を救いたい気持ちに嘘はない。異世界転生したい気持ちにも一寸の嘘はない。
接近する火の矢は間違いなく、また俺の脳天をぶち抜くだろう。
怖い。
文字通り死ぬほど痛い。熱い。
でも、
「ま、に、あ、ええぇぇぇええ!」
俺は飛び込む。何度だって。
「よくやった。お前が作った2回の5秒が小さな命を救ったんじゃ」
赤いチョーカーを首に巻いた黒猫が拳で火の矢を消し飛ばした。
「もう2・3発いっとくとするかのぅ」
腫れるような顔面の痛みで目を覚ますと猫が振りかぶっていた。
「やめてぇ」←(寝起きで裏返った声)
バチン←(猫パンチの音)
ボタッ←(鼻から血が滴る音)
ガバッ←(猫が振りかぶる音)
「起きます、起きてます!」
ガバッ(体を起こす音)
ボキッ(猫パンチ)
ダラダラ(滝のような血)
「何で?」
「すまん、あまりにも気持ち悪かったんじゃ、……顔が」
世界一無礼な猫だと思った。
「って、そんなことより何がどうなってんだよ」
「馬鹿もんが。まだ立てるほど体力回復しておらん……言わんこっちゃない」
あれ? 足に力が入らない。
「お前は2回も死んだのだぞ? あまり無茶してくれるな」
夢じゃないのか。
寝起きのせいか頭が混乱していて何も考えられない。
大きく深呼吸をし目を閉じる。
こういう時は冷静になることが大事だよね。
バチン
顔面の痛みで眠気と共に冷静さが吹き飛んだ。
「なにすんだよクソ猫!!」
「寝そうだったから起こしてやったんじゃ。感謝しろ馬鹿者が」
「寝てねぇよ! 冷静に考えようと……」
手に温もりを感じる。
そっと後ろを振り返ると、膝をついた巨乳エルフが俺の手を握っていた。
「あ、あの」
ウルッとした青い目とほんのり紅色に染まった頬に
「あの、ありがとうございました」
艶めかしい唇から絞り出される甘美な声。
「と、とととうぜんのことをしたまでで」
くそ、だせぇ。『当然のことをしたまでさ。それより君に怪我はないかい?』というつもりだったのに、なんだこれは。
「セリカもお礼を言いなさい」
「はぁい」
遠くから無邪気な声が聞こえた。どうやらあの子は無事だったらしい。
よかった。ホントによかった。
「ようせいのおじさん。さっきはありがとう」
よくなかった。
「妖精?」
「うん。このおじさんね、きゅうにセリカの前にでてきたんだよ」
「ふぅ~ん?」
巨乳エルフの手が離れる。名残惜しいがこの手で後でオナニーするとして今は逃げ
「小っちゃい子がだいすきなんだって」
肩が潰れるように痛い。
「違う誤解なんだ。信じて肩から手を離そう巨乳エルフちゃん!!」
「巨乳エルフ?」
「ち、ちがうちがう。ほらえっと」
「ほんとにすごいんだよ。おぱんつ一枚でね」
「ロリエルフちゃんやめて。それ以上言ったら肩が潰れたように痛いぃぃぃ」
「ロリエルフ?」
肩が痛すぎて肩の痛みを感じないんだけど!? これやばいんじゃね?
(お主は相変わらず馬鹿じゃなぁ)
猫がそっと耳打ちしてきた。
(うるせぇよ。そんなこと言っている暇あったら助けてくれ)
(はぁ。エリナを褒めてやれ)
(エリナ?)
(お前の肩を潰してる娘の名じゃ。この娘は男の免疫がないからの)
(褒めれば惚れると)
なるほど、女の子は褒められることが好きと聞くし、ここで上手くいけば……
妄想中 ← 自己規制
(いや、惚れはせんと思うんじゃが……聞いておるか?)
よし、俺は今日妖精を卒業する。
肩に乗った手を払いのけ言い放つ。
「確かに俺はロリが好きだ。エルフが好きだ。でも、巨乳エルフが一番……」
「シギル・グラビティ」
全身が床にめり込んだところまでは覚えている。
ファーストキスは土の味がした。