白銀髪のロリエルフと巨乳エルフの前で俺は死ぬ
12月24日 午後12時3分 気温4度
パンツ一枚と通帳一冊という心もとない装備で街中に放りだされた小太りの中年に対する世間の目は冷たい。
不審者だの変態だの童貞だの、聞くに堪えない暴言だ。
心は折れ、体は凍えていた。
俺が一体何をしたっていうんだ。
お腹が空いたら床ドンして、ご飯が貧相なら床ドンして、議論で負けたら床ドンして、エロ画像見つけては床オナしてただけじゃないか。
「だいじょうぶ? おじさんはどこからきたの?」
女の声が聞こえた気がした。
前後左右のどこにも声の持ち主はいそうにない。
あるのはゴミを見る目だけだ。
気のせいか。かわいそうな妖精を救ってくれる美少女エルフだったらいいなぁと思ったのに。
「ねぇ。おじさんはどこからきたの?」
今度は見つけた。
艶やかな白銀髪の幼女が、スッと透き通った青い瞳で俺を見上げていた。
純真無垢
この言葉はきっとこんな子の為にあるのだろう。
この子はきっと俺のことを突然現れた妖精……そうだなサンタさんのようなモノだと思っているんだろうな。
そんな無邪気な幼女の夢を壊すなんて俺にはできない。
ならば、
「僕は妖精だよ。小っちゃい子が大好きなんだ」←(裏声)
連行された。
所持品:「白ぶりーふ」・「通帳一冊」
ステータス:「住所不定」・「職業フェアリー」
罪状:公然わいせつ罪及び未成年者誘拐未遂(現行犯)
狭苦しい部屋で俺は叫んだ。
「それでも僕はやってない!!」
事業聴取という名の激しい精神攻撃に耐え、
土下座と逆切れを繰り替えしたら上下真緑のジャージをくれた。
圧倒的不利な状況から無罪放免どころか戦利品まで受け取ってしまった。
まったく、自分の才能が怖いぜ。
戦利品を身に纏い、イルミネーションで彩られた町をとぼとぼと歩く。
これからどうすっかな。
全力で土下座をすれば家に入れてくれるかもしれない
そんな甘い気持ちを持ちつつ通帳を開くと
ヒラリ
一枚の紙が足元に落ちた。
『孝へ。私達とあなたは赤の他人です。
PS.以後家に足を踏み入れた時は不法侵入で訴えます』
いやいやいやいや。
まさかまさか。
きっと、俺を発奮させるためにやっているだけさ。愛が無ければ通帳なんて渡さず、放りだすはず。
母さんもまだまだ甘いな。こんなことくらいで挫け
残高2110円
号泣した。
追い打ちをかけるように雪が降ってきた。
世間はクリスマスだ。
リア充共が一年で最も蠢く日。
髭を生やした小太りのおっさんを有難がる奴の気がしれねぇよ。
髭を引っこ抜いて、服を緑にすれば俺じゃねぇか。
雪が強くなってきた。
夜にかけて大雪になりそうだ。
薄いジャージのままでは本当に凍死してしまうだろう。
「くそっ!」
意味もなく地面を蹴った。
いつからこうなったんだろう。
俺だって最初からクズ人間だったわけじゃない。
むしろ、誰よりも勉強して努力していた。
理想があった。
夢があった。
就きたい職業があった。
だから努力は苦ではなかった。
『努力をすればかなりの確率で夢は叶う』とはよくいったもので、
誰よりも努力を重ねた俺は、小さな頃から夢見ていた職業に就いた。
苦労はあれど楽しかった。日々、理想に近づいていると実感していたからだ。
努力をすればかなりの確率で夢は叶うが、叶わないことだってたくさんある。そんな当たり前のことすら俺は理解していなかった。
正義は必ず勝つと信じていた。
あの時までは。
……よそう。
今更言っても無駄なことだ。
あれこれ考えているうちに駅前の銀行に着いていた。
2110円
という愛情たっぷりすぎて胃もたれしそうなお金を消化するとしよう。
時刻は14時55分
閉店ぎりぎりのためか、客は指で数えるほどだ。
「ん?」
さっきの子だ。
西洋の童話から抜け出てきたような白銀髪の青眼の少女。
本当にかわいいな。なんかどことなくエルフっぽいし。
ふむ。
エルフは巨乳が一番と思っていたが、ロリエルフも悪くない。
重要なことに気づかせてくれたこの子には、せめてものお礼として白銀のロリエルフの名を進ぜよう。
ああ、大人の遊びを教えてあげ
ズキュン
「お前等全員動くな!!」
ひぃ! まだ何もやってません!!
無意識のうちに幼女の後を追っていたら女子トイレの前にいただけです!
まだ半歩しか入ってないからギリギリセーフなはずですよ。
おそるおそる振り返ると、おっさんが5人ほどいた。いかにもな格好をして銃を持っているし銀行強盗かなにかだろう。
「よかったぁ」
思わず安堵の溜息がこぼれると、5人の中で唯一銃を持たない男と目が合い、すぐさま我に返った。
何もよくないぞ!?
男がニヤッと口をゆがませると、
右手の甲からは紋章が浮き上がり、
「シギル・フレイム」
頭上に幾多の火の矢が具現した。
今日はとことんついてない。
いつもなら、レスバトルに勝利し、栄光のオナニータイムに移行しているころなのに。
ついさっき発掘したエルフ系のロリを先発に置いて、巨乳サキュバスが繋いで、ロリエルフと巨乳サキュバスのハーレムが抑える完投リレー。ふむ、素晴らしい。
現実は、銃を持ったおっさん4人とシギル持ちのおっさん。窓口には客の老婆と行員の老婆。窓口奥にはおっさんが3人。
おっさん時々老婆とかいうとんでもハーレムだ。
おっさんの一人が鞄を投げつけると、窓口の老婆は黙って頷き奥に入っていった。
どうやら今日の俺は賢者になれないらしいので、おとなしくしているとしよう。
どうせ金が目当てなんだ、逆らわなければ被害はない。
「おばあちゃん。あの人達なに?」
「動くなガキ!!」
火の矢が一斉に向きを変える。
トイレを終えた白銀のロリエルフがとてとてと俺の前を歩いていた。
「動いちゃだめよ、セリカ。大丈夫だから、おとなしくしててね?」
優しく微笑むおばあちゃんを見て、少女はピタっと動きを止める。
無邪気は可愛いが、自由すぎて怖いのも子供だ。
はやく金を渡して、お引き取り願おう。
そう思った矢先に
「シギル・グラビティ」
よく通る女性の声が響く。
声の主は美しい白銀髪の女子高生だった。巨乳エルフ。やっぱり、エルフは巨乳が一番。
なんて思っていると、
2人の男が、何かに押さえつけられるように地面に突っ伏した。
「なんだてめぇ!!」
「シギル対策課よ」
睨みを利かすシギル持ちの男に、一切の恐れもなくあっけらかんと答え、手帳をみせつける。
「ちっ。チート連合かよ」
「その呼び方は好きじゃないわ」
そう呟く彼女の凛としたその立ち振る舞いは、きっと同性をも惚れさせてしまうだろう。そう思わずにはいられない美しさだった。
あれほど威勢のよかった男たちは、気圧されるようにジリジリと距離を開け左右から挟み込む。
「死に晒せ!」
乱射された銃弾は何かに遮られるように推進力を失い、弾切れと同時に男たちは床にめりこんだ。
「俺はこいつ等のようにはいかないぜ」
不敵な笑みを浮かべ、火の矢が巨乳エルフに狙いを定める。
「避けれるもんなら避けてみろ!」
無限に具現する火の矢を白銀の髪を靡かせながら無駄のない動きで避け続ける。
誰の目からも実力差は一目瞭然だった。
努力の量が違う。
やがて男は息をきらし、攻撃の手が止まった。
勝負は決した。
はずだった。
「おねえちゃんかっこいい」
「せりか!? 来ちゃダメ!」
子供は無邪気だから可愛いが、だからこそ怖い。
「くそぉぉぉぉ! 捕まるぐらいならぁぁぁぁぁ!」
男の手の平から生まれた火の矢は一直線に向かっていく。
あまりに予想外な出来事に誰一人動くことができなかった。
俺以外は。
自分でも気づかぬ間に飛び出していた。
自分の不甲斐なさから目を逸らし、画面の中に逃げ込んだ俺が、
誰かのために飛び出していた。
「まにあえええぇぇぇ!!!」
決死の思い出少女の前に飛びこんだ。
火の矢は俺の脳天を焼き、
33回目の誕生日に俺は死んだ。
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