潜入、事務所ビル
「いいわ、あなたのお兄さんを助けるのに協力してあげる 」
「交渉成立だな。 ついてこい」
黒猫に連れられ、町中にやってくると、雑居ビルの前で足を止めた。
「このボロいビルの4階だ。 月光雑技団の事務所があるのは」
月光雑技団。
それが今回化石を奪ったと思われる集団の名であった。
「……あなたのお兄さんもこの事務所に?」
「いや、兄貴はこいつらの借りてるガレージにいる。 シャッターキーと南京錠を壊すための道具が必要だ」
「南京錠を壊す道具なら、工具を取り扱ってる店にあると思うけど、問題はシャッターキーの方ね」
ルビーは事務所ビルの中にしまってある確率が高いと踏んだ。
「俺が様子を見てくる」
非常階段のゲートを潜り、階段を登っていく。
しばらくして、黒猫が戻ってきた。
「扉に阻まれて進めなかったが、人の気配はなかった」
猫の感覚がどれ程信用できるかは分からなかったが、試しに4階に上がってみることにした。
エレベーターを呼び、4階のボタンを押す。
「まあ、事務所を空けるときは鍵をかけるのが常識だけどね」
到着すると、ダメ元でドアノブをひねる。
すると、扉が開いた。
「開いちゃった……」
事務所内は予想通り、誰もいない。
「早いとこ、シャッターキーを見つけましょうか」
部屋はさほど広くない。
ルビーがテーブルを見やると、レシートを発見した。
「何買ったんだろ。 って、肉肉肉…… 全部肉だわ」
「兄貴のエサだろ。 ライオンだからな」
「えっ! あなたのお兄さんって、ライオンなの!?」
その時、エレベーターホールから音が聞こえた。
「や、やばっ」
ルビーは慌ててロッカーの中に身を隠した。
「やばいやばい、鍵を閉め忘れたよ…… あれ? 明かりまで消し忘れてら」
戻ってきたのは、少年である。
ルビーからはその姿を確認することは出来なかったが……
「……いや、絶対消したはずだ。 まさか、泥棒?」
その少年が部屋内を散策し始めた。
「……」
ルビーは息を潜めていたが、少年がとうとうロッカーに手をかけた。
その時。
「ニャーン」
「うおっ! 黒猫!? どうやって入ったんだよ!」
間一髪の所で少年の注意をそらし、その場は逃れた。
「助かったわ…… 今思いついたんだけど、あんな危険な思いしなくても、ガレージの前で待ち伏せしたら良かったんじゃない?」
「……だな」
結局後日、ライオンの昼食を与えるためにやってくると踏んで、ガレージの前に待ち伏せすることにした。
ルビーは終電を逃したため、仕方なく24時間やっているファミレスで時間を潰した。




