黒い情報屋
駅から出ると、突然ウォッシュが頭をかきむしり始めた。
「あー、イライラする……」
「ど、どしたの?」
「昨日からあの骨のことが気になって眠れないんです…… ルビー、ごめんなさいっ」
そういうと、駅に逆戻りしてそのまま改札の中に入ってしまった。
「禁断症状かしら…… あのアライグマほんと使えないわね……」
町中にやって来ると、まず電線に止まっているカラスに話しかけた。
ルビーには生まれつき動物と話ができる能力が備わっており、気味悪がられた反面、近所の猫なんかに知り合いがいる。
「9月3日の夕方にトラックを見たか? そんなん覚えてねぇし」
「このトッポギ市内の発掘現場よ? 仲間に目撃者がいないか聞いてくれない?」
「あのなぁ、こんな小っさい脳みそにそんな記憶力あると思うか? 昨日の晩飯だって覚えてねぇのに」
ルビーは苦笑するしかなかった。
確かに、自分だって通りすがりの車のことなんか覚えてはいない。
「一応聞いてやるけど、何でそのトラックを探してんだ?」
「発掘現場で見つけたレアな化石を積んでたんだけど、搬送中に行方不明になったのよ」
「もしかして例の…… か?」
カラスが小声で何かをつぶやいたが、肝心な所が聞き取れなかった。
「例の何?」
「……知らない方がいいぜ。 じゃあな」
カラスは慌てた様子でその場から立ち去った。
ルビーは他に目撃者がいないか、町中を散策していた。
しかし、辺りは暗く、すれ違うのは会社帰りのサラリーマンくらいだ。
「カラスをアテにしてたんだけどなぁ……」
グウ、とお腹も鳴り始めたため、捜索を打ち切って駅に戻ろうとした。
その帰り道、チラ、とこちらを伺う猫と目が合った。
「……あ、どうも」
「……珍しいやつもいるもんだ。 俺と話せるのか?」
ハスキーボイスの黒猫である。
人間だったら結構かっこいいかも、とルビーは思った。
「珍しいってか、多分私しかいないんじゃないかなぁ…… あ、ついで聞きたいことがあるんだけど」
ルビーはトラックの件と、カラスの隠し事について聞いてみた。
「トラックの件は分からない。 だが、カラスの隠し事ってのは雑技団のことじゃねーかな?」
雑技団とは、いわばサーカスのようなもので、この国の名物と言っても過言ではない。
「その雑技団がどうしたの?」
「とある雑技団に黒い噂が立ってんだ。 夜は盗賊団として暗躍してるってな」
「盗賊団ですって!?」
「カラスが渋ったのは、自分がそれを教えてお前が殺されるようなことがあるかもって思ったからじゃねーか?」
……優しいじゃない。
そんな風に思ったルビーであったが、ここはもう少し突っ込んで聞いてみることにした。
「その雑技団は何て名前?」
「……実は俺もその雑技団にようがあるんだよ。 兄貴を助けるのに協力してくれんなら、教えてやる」




