黒幕
アメシス(35)は、生物学者として早くから注目を浴びている若き天才であった。
「……まんまと出し抜かれたが、アライグマを一匹殺した所で罪にはなるまい」
「何ですって……」
事実、アメシスを起訴するにしても、窃盗及び器物破損の罪が適用できる程度であり、殺人の罪には問えない。
ルビーが裁判を起こして、ウォッシュが家族であったと主張すれば話は変わるが……
「裁判はやめておけ。 面倒を起こせば吾輩の主が殺し屋を差し向けるぞ」
「主? もしかして学部長?」
「……」
図星を言い当てたようだが、アメシスは顔色を変えずにこう言った。
「……とにかく、騒ぎは起こすな。 死にたくなければな」
しかし、親友を殺されて大人しく引き下がるわけにはいかない。
「あなたの陰謀は私が潰す」
「そういう発言は慎め。 これはもう必要ないので返しておく」
アメシスは竜の化石をテーブルに置いて、部屋から出て行った。
「学部長の狙いって、まさか……」
ルビーは直感で分かった。
アメシスは生物学者であり、クローンなどの研究に精通している。
竜の化石から細胞を一部だけでも採取すれば、竜のクローンを生み出すことが可能であり、黒幕が野心家の学部長とくれば、狙いはひとつしかない。
竜を復元し、それを学会で発表して名声を手に入れるのが目的に違いなかった。
ルビーは竜の復元を行っている研究所がどこかにあると踏んだが、手がかりが掴めないため、まずは竜の骨を富豪の元に持って行くことにした。
2016年、9月25日早朝。
富豪の家の地下で、最後のパーツをはめた。
「これで完成ね!」
「素晴らしい!」
トルマと一緒に完成した竜の骨格を眺めていると、ルビーの脳内に声が響き渡った。
(すっげえのど渇くわぁ…… って、ここどこやねん!)
「え?」
一瞬トルマの頭がおかしくなったのかと隣を振り向いたが、別段変化はない。
そして、また声がした。
(ワシ、なんでこんな骨になっとんねん。 しかも、大っ嫌いな人間目の前におるし)
「と、トルマさん! 竜が話かけてきてます!」
「何!? しかし、私には何も聞こえないが……」
どうやら、動物と会話ができるルビーにしか聞こえないようであった。
吾輩=ス〇イプ先生