八十七、兄弟喧嘩
「お婆々様!」
龍の上からしるこ神社が吹き飛んだのが見えた。
しるこババアが禅在と共に死んだのは明らかだ。僕は拳を握って自分がすべきことだけを考え、しるこヶ丘の頂上を睨んだ。
すると地面を走っている黒い塊が見えた。しるこレンジャーゾンビ達だ。彼らはしるこ御殿の近くにいる。先回りをするつもりのようだ。このままでは爆弾設置場所で彼らと戦うことになってしまう。それは避けなければならない。
「ワインレッドさん、錆色さん、臙脂色さん、赤褐色さん、みんな揃って全身真っ黒な姿では、誰が何色か区別が出来ないですよ!」
僕はその苛立ちという負の感情をエネルギーにして、持っているしるこを全て投げ付けた。
轟音を立ててゾンビ共々しるこ御殿一帯が吹き飛ぶ。
これでほぼ難関はクリアだ。そう思った時、僕の乗っている龍が崩れ始めた。しるこババアの込めた力が切れたようだ。
僕は爆弾の入った鞄を二つ抱えて龍から飛び降りた。
爆弾設置場所に着地する。急いでしるこババアがあらかじめ決めておいた設置箇所に爆弾を置き、時限装置を繋ぐ。
爆破までの時間はどうする。
分刻みで時間は設定出来る。迷い、崖の下を見ると、遠くに神に殴り倒されているジョニーの姿が見えた。
時間は一分で決まりだ。
時限装置をセットし、僕は崖の淵に立って深呼吸をした。ここから下まで二百メートル強。落ちたら下手をすれば死ぬかも知れない。しかし行くしかない。
僕は、シルコロシアムめがけて跳んだ。
凄まじい速さで落ちていく。
駄目だ。これ、死ぬ。
その恐怖という負の感情はエネルギーになり、着地の衝撃を防いだ。
僕は無事、シルコロシアムの中心に降り立った。先程ここを発ってからまだ十数分しか経っていないが、その時間はとても長く感じたられた。
僕はウエスタンハットを整え、口を開いた。
「待たせたなあ」
仰向けになって倒れていたジョニーが顔をこっちに向け、わざとらしく言う。
「あ、あなた様は、偽ジョニー」
その素振りを見て彼が元気であることは十分わかった。間に会って良かった。
気を引き締め、しるこの神に意識を向ける。
神はこちらを冷ややかな目で見ていた。突然空から僕が降ってきたので、とりあえず様子を見ているといったところか。
僕はジョニーに近付き、ウエスタンハットを被せながら小声で伝えた。
「あと五十秒ほどで崖は崩れる。バトンタッチだ。ジョニーは逃げてくれ」
ジョニーは大変渋ったが、僕が、「兄弟喧嘩の邪魔をするな」と言うと、納得してくれた。
しるこの神と一対一で対峙する。
「しるこの神さん。結局、一対一の対決になりましたねえ」
頭で時間を計りながら、どうでも良い話を振る。
戦って数十秒間を過ごすのは得策ではない。出来るだけ会話をして、爆破を確認してから岩が落下するまでの間に逃げるべきだろう。
「ハハハ、だれがあいてでも、ボク、まけないよ」
予定通り、神は話に乗ってきた。
次はどう話し掛けよう。そう思った時、神が先に口を開いた。
「兄さん。ボクばかりが、母さんに、かわいがられていたから、ボクのこと、きらいだったでしょ? だから、ころすなんて…………ひどいね」
そして、一分が経過した。




