八十 、独白長台詞
「分かったわ。その条件で対決することにしましょう……
それにしても、良くここまで来たわね。あ、これは労いの言葉ではないのよ。
あなたは記憶を取り戻しているのでしょう? それにも関わらず、良く顔を見せることが出来たなって言っているの。図太い神経をしているのね。
そういうとこは、お婆ちゃんやあなたのお父さんにそっくり。どうせあなたも自分は辛い思いをしたとか思っているのでしょ?
ねえ、お父さんが行方をくらます直前に何て言ったか知ってる?
耐えられないって言ったの。そして自分のボケた母親を押し付けて、勝手に死んだの。
耐えられないのはこっちでしょ。
あなたは小さかったから小次郎を発見した時のことを詳しく知らないでしょうけど、それは、地獄よ。
家から運んだ鍋を屋台で火にかけ、しばらくしてからおたまで掻き回して見つけたのよ。
真っ赤にただれたしるこまみれの赤ん坊を。
周りの人達が馬鹿みたいに悲鳴をあげて、その中心で、倒れそうになったけど、救急車を呼んだの。
分かる? その時の気持ち。
その後ずっと、死んでしまいたいと思った。でも、悪いのはあなただし、目を離したお婆ちゃんでしょ? だから踏み止まったの。
でも偶然、精神科の先生の所で毒薬を見つけた時、盗んだわ。自殺するのかあなた達を殺すのか、そんなことは決めていなかった。ただ盗んだの。
そうしたら、気持ちが落ち着いた。これを使えばいつでも死ねるって思ったら冷静になれたの。
幼いあなたが弟に嫉妬するのは仕方のないことだったし、死ぬという意味も理解出来る歳でもなかったって考えて、周りを責めたことを悔やんだわ。
そして何年も寝込んで迷惑掛けたことを反省したの。
だから、お母さんは人一倍家族を愛したし、明るく振舞った。
でも、お父さんが見つかった時にはさすがに落ち込んだ。
その時、あなたは突然しるこを浴びせてきたの。あなたは根っからの悪魔だと思ったわ。間違いで生まれた異物だって。
だから殺して自分も死のうと思った。それもあの子と同じくしるこで。
ところが、死なずにお母さんは満月のような鍋の口を通ってここに迷い込んだ。
最初に来た時、成長した小次郎が一人でしるこの中に溺れていたの。だから助けるためにしるこから世界を創ることにしたわ。
それには強い精神力が必要だったけれど、あなたに負わされたこの左腕の火傷を見ると自然と黒い力が沸いて、難なく町を創れた。
そして、小次郎を神に見立てた。
でも、いつの間にかにあなたとお婆ちゃんもこの世界にいたの。それどころか歴史が変わり、神は隠され、更に意にそぐわない人々がうろつきだした。
殺そうと思った。しるこでね。そして町をしるこで死に易いよう創り変えた。
そうしたら神が迎えに来てくれたの。物をしるこに戻す術を知った上でね。
もう分かったでしょ?
しるこを知る子はしるこで死んだ子。そしてあなたはしるこで死ぬ子……
ここはあなたを殺す町。ここはあなたの、しるこ地獄!」




