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しるこ地獄  作者: gojo
第一部 しるこ日和
8/93

七 、夢の続き

 いつか見た夢の続きのことを思い出す。


 暗く狭い円形の牢獄。そこには青白い顔をした青年がいた。

 青年の目の前には紙コップに入ったしるこが置いてあった。


 長い時間、青年はしるこを色々な角度から見つめていた。そして、おもむろに紙コップを手に取り、興味深げに下から覗き、再び上からしるこを眺め、呟いた。


「お、お、おわん? ちがう。お、おわんでない」


 ふと青年は紙コップの縁を人差し指で弾いた。すると、紙コップが欠けた。否、正確には縁が指の形に溶け落ちたと言った方が良いだろう。

 それを見て、青年は何か確信を得たように目を丸くして微かに笑った。


 しばらくすると、鉄扉が開き、烏帽子を被った老人がお盆にしるこを載せてやって来た。

 老人は青年の手にあるしるこを見て、口を開いた。


「なんだ、昼のしるこを食べていないのか」


 青年は老人の顔を不思議そうに見つめながら、口を動かした。


「な、なぬだ、なんだ、ひるのしるこ、た、たべで、な、ないのが?」


 老人の言葉を真似たようだ。


 それを聞いた老人は驚き、体を仰け反らせた。

 青年はその様子も真似てみせた。

 ヨロヨロと立ち上がり、体を仰け反らせたのだ。


「立ち上がるな! 元の場所に座れ!」


「たちあだぬな! もももばぼにずわで!」


 青年はしるこを持ったまま老人に近付いた。

 老人は叫んだ。


「座れ!」


 その言葉を青年は嬉しそうに聞き、復唱した。


「すわれ! すわれ! すわれ! さけべ。ハハハハハハハ……」


 そして、また一歩足を前に出した。

 瞬間、青年の手にあった紙コップが姿を消した。器を失ったしるこが青年の指の隙間から床へと零れ落ちた。


 しるこの染みが広がり、夢の世界は暗転し、時間が経過する。



 おそらく朝だろう。

 燭台の蝋燭はとうに燃え尽きていたが、開かれたままの入口から僅かに日が差し込み、円形の部屋の中は仄かに明るかった。


 その部屋に青年の姿はなかった。


 辺りにはしるこが散らばっていた。床も壁もしるこまみれだ。そして、あの重厚そうな鉄の扉が飴細工のように溶けて曲がっていた。


 部屋の中央にはあんこ状の物体が転がっていた。

 その物体は、人の形をしており、目にあたる窪みからは黒い液体が流れ出していた。その液体の流れ着いた先には見覚えのある烏帽子が転がっていた。


 冷たい空気の中で、白い湯気だけが揺れ動いていた。


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