七 、夢の続き
いつか見た夢の続きのことを思い出す。
暗く狭い円形の牢獄。そこには青白い顔をした青年がいた。
青年の目の前には紙コップに入ったしるこが置いてあった。
長い時間、青年はしるこを色々な角度から見つめていた。そして、おもむろに紙コップを手に取り、興味深げに下から覗き、再び上からしるこを眺め、呟いた。
「お、お、おわん? ちがう。お、おわんでない」
ふと青年は紙コップの縁を人差し指で弾いた。すると、紙コップが欠けた。否、正確には縁が指の形に溶け落ちたと言った方が良いだろう。
それを見て、青年は何か確信を得たように目を丸くして微かに笑った。
しばらくすると、鉄扉が開き、烏帽子を被った老人がお盆にしるこを載せてやって来た。
老人は青年の手にあるしるこを見て、口を開いた。
「なんだ、昼のしるこを食べていないのか」
青年は老人の顔を不思議そうに見つめながら、口を動かした。
「な、なぬだ、なんだ、ひるのしるこ、た、たべで、な、ないのが?」
老人の言葉を真似たようだ。
それを聞いた老人は驚き、体を仰け反らせた。
青年はその様子も真似てみせた。
ヨロヨロと立ち上がり、体を仰け反らせたのだ。
「立ち上がるな! 元の場所に座れ!」
「たちあだぬな! もももばぼにずわで!」
青年はしるこを持ったまま老人に近付いた。
老人は叫んだ。
「座れ!」
その言葉を青年は嬉しそうに聞き、復唱した。
「すわれ! すわれ! すわれ! さけべ。ハハハハハハハ……」
そして、また一歩足を前に出した。
瞬間、青年の手にあった紙コップが姿を消した。器を失ったしるこが青年の指の隙間から床へと零れ落ちた。
しるこの染みが広がり、夢の世界は暗転し、時間が経過する。
おそらく朝だろう。
燭台の蝋燭はとうに燃え尽きていたが、開かれたままの入口から僅かに日が差し込み、円形の部屋の中は仄かに明るかった。
その部屋に青年の姿はなかった。
辺りにはしるこが散らばっていた。床も壁もしるこまみれだ。そして、あの重厚そうな鉄の扉が飴細工のように溶けて曲がっていた。
部屋の中央にはあんこ状の物体が転がっていた。
その物体は、人の形をしており、目にあたる窪みからは黒い液体が流れ出していた。その液体の流れ着いた先には見覚えのある烏帽子が転がっていた。
冷たい空気の中で、白い湯気だけが揺れ動いていた。