七十七、始まりの終わりについて
その日の夜、ジョニーの家で過去の記憶について二人に話をした。
「……僕が小次郎を死なせてしまってから母は寝込んでしまいました。僕が小学校に入った頃も伏せっていましたから、少なくとも三年はそんな状態だったと思います。その間に祖母が認知症になり、父は介護に疲れたのか、失踪しました」
ジョニーが口を挟む。
「何度もお前の母さんに会ったことあるが、俺の記憶では明るい人だったぞ」
「ある日、突然元気になったんだ。考えが変わったというか……ただ、一年数ヶ月前、また暗くなりました。父が発見されたんです。都心のアパートで餓死していたそうです」
しるこババアが尋ねる。
「それで衝動的に、母は心中を画策し、お主はしるこを掛けた、のじゃな?」
「衝動的、ではないです。母は僕と祖母のことをずっと嫌っていましたから」
再びジョニーが発言する。
「それは考え過ぎだろ。被害妄想だ。お前の家族は仲良さそうだったじゃねえか」
「はたから見ればそうだったかも知れないけど、僕は、嫌われていたと確信している。そもそも、このしるこの世界を見れば、そんなことハッキリしているだろ」
「それはここが異世界だからだ。海外旅行に行ってテンションが上がるみたいなもんだ」
「じゃあジョニーはテンション上がると人をしるこにするのかよ」
僕とジョニーが口論を始めると、呆れたようにしるこババアが口を開いた。
「まあ、それは現実世界に帰って確認すれば良いことじゃ。差し当たり、お主と母の共通認識として、小次郎の存在は心から消すことが出来ないということじゃ。小次郎、すなわち神は消せない。つまり殺すことは出来ん。やはり封印しか方法がないのじゃな」
「結局やらなきゃいけないことの再確認が出来ただけかよ」
「そんなことはないぞよ。この世界はお主達の精神の投影。その逆も然りじゃ。すなわちこの世界で神を封印するということは……」
「心の中の小次郎も封印されるということですね。また忘れてしまうとか?」
「否、しるこ伝説によればじゃ、封印後も人々は神を崇めておる。忘却ではない。前向きになると捉えた方が良いじゃろう。封印さえ成功すれば、お主もお主の母もハッピーエンドというやつじゃ。ほれ、前よりやる気になったじゃろ。話をして良かったのう」
「あ、はい、ええ、戦う覚悟は出来ました……」
そう返事をすると、しるこババアは笑った。
その顔を見て、疑問が湧く。
「……ただ、一つ気になることがあるのですが」
「なんじゃ?」
「夢が完結したら、この世界はどうなるのでしょう? 住人は? お婆々様は?」
「消えるじゃろうな」
「……それは、寂しいですね」
「なに。先程も言った通り、この世界は精神の投影であり、この世界を投影したものが精神でもある。姿形が消えようとも、わしらはお主の心の一部として生き続けるのじゃ」
しるこババアは僕の胸を拳骨で小突いた。
「さあ、白玉と禅在の話を統合する限りじゃ、あちらさんはわしらの計画を知った上で待ち受けていてくれるようじゃ。せっかくじゃから、しばらくは体を休め、のんびりと戦いの準備をしようではないか」
空には、丸い月が浮かんでいた。




