七十三、聞いてもいないのに良く喋る
「ようこそ、しるこ町役場会議場へ! さあ、楽しい会議を始めようじゃないか」
白玉総一郎が壇上に立ち、両手を大袈裟に広げて声を張った。
彼の周りにはおたまを持ったゾンビが何匹もいた。僕達三人は武器を持ち、防御の構えを取った。
しるこババアが尋ねる。
「なぜここにおるのじゃ。お主は車で出掛けたはずでは」
「神のお告げで、あなた方がここに来ることは分かっていたのですよ」
「お告げじゃと? 嘘を申すでない。あの神がお告げなどするものか。月の世界から来た女じゃな?」
「ハッハッハ。お気付きでしたか。そう、創造主の千里眼で見えていたのです」
最初からしるこババアはこれを懸念していたのだ。
千里眼を使いこなせる可能性。僕には出来なかったが、母はこの世界の扱いに慣れている。
「鍵ならばここにあります。差し上げましょう。ただし、私達を倒せたならばな」
そう言って白玉は鍵を飲み込んだ。同時に、ゾンビ達が襲い掛かってきた。僕達は左右に散り、攻撃をかわした。
そのゾンビ達はおたまを振り、時にはしるこを飛ばしてきた。今までのゾンビよりも遥かに強い。
僕達が苦戦していると、白玉が笑いながら話を始めた。
「どうです。強いでしょう? あなた方は神がしるこゾンビをどのように作るかご存知ですか? しるこの人形を作り、そこに名誉町民の魂を植え付けるのです。その魂の質によってゾンビの性能は異なります。あなた方が戦っているゾンビは、シルコンバットの戦士達の魂が植え付けてある。並みのゾンビとは違うのだよ。並みのゾンビとは!」
言われて見れば確かに戦士達の動きだ。体格も並のゾンビとは違う。苦戦しながらも何匹か仕留める。
すると、白玉が歩み寄り、机をしるこ状に溶かして投げつけてきた。
「なぜ私がしるこ化の能力を持っているか気になりますか? いいでしょう。教えましょう。神は元々しるこ神社の地下に幽閉されていました。彼がそこから脱出した時に最初に向かったのが近くの私の屋敷でした。使用人達は全てしるこにされ、そして私も、捕まりました。ところが、私は『白玉』という名前のお陰か、溶けにくかったのです。大部分はしるこになりましたが、頭は無事でした。それどころか屈強なしるこの肉体と、しるこ化の能力を得ることが出来ました」
「分かったぞよ。それでシルコの死体は溶かされていなかったのじゃな。溶かそうと思っても、『しるこ』という名前によって溶けにくかったのじゃ」
「おそらくそうでしょう。さあ、お喋りはこの辺で終わりだ。名誉を受け入れよ」
白玉とゾンビ達の攻撃は激しさを増した。
僕とジョニーはともかく、しるこババアに関しては掠っただけでもしるこになってしまう。
そこで僕は提案をした。
「お婆々様は逃げて下さい。ジョニー、ゾンビを頼む。僕は白玉を倒す」
僕には確信があった。良く喋る敵は負けが近い。
「ハッハッハ。侮られたものだな。いいですか? ゾンビ達はどんなに力があろうと、その知能は人間に劣る。それに比べ、私は優秀な頭脳を持ちながら、強力なしるこ化の力を備えているのです。あなた方には勝ち目はないのだよ」
お喋りは終わりじゃないのかよ。




