六十五、胸を借りる
しるこゾンビ達の数は大分減った。
一気に全て切り裂いてしまおうと思った時、しるこで作った大鎌が形を崩し、消えた。
しるこ力の込めた量により武器の耐久時間が異なるようだ。そういえば、しるこババアが海沿い公園を壁で囲む際、かなり長時間力を溜めていた。それはこういう理由があったからだ。
手元にしるこがない。それを知ったゾンビ達が何匹も同時に襲い掛かってくる。僕は冷静にゾンビの頭を手で押さえた。ゾンビはしるこの塊だ。つまり、しるこ力を込めれば爆破させることが出来る。
次々とゾンビ達は弾けた。
すると突然、鉢巻の男がおたまをヌンチャクのように振り回した。
「ヒャッハー。なぜ私がしるこゾンビを束ねるしるこの神親衛隊隊長を務めているか分かるか? それは、ゾンビより私の方が優れているからだしるこ!」
この町は僕と母の夢の世界だ。つまり精神世界とも言える。その為、僕と母の経験、知識、趣向、ひいては先入観が投影されている。デフォルメされた人物やステレオタイプの人物を見かけることがあるのはその所為だろう。
それを踏まえた上で断言する。「ヒャッハー」と言う奴は弱い!
バチコーン!
僕がアッパーを繰り出すと、鉢巻の男は僕の後方に飛んでいった。しかし、死んではいない。男は立ち上がり、ゾンビ達に指示を出した。
「こ、こうなったら究極のしるこゾンビ『シルコング』を連れて来い!」
檻に入れられたゾンビが運ばれてくる。その大きさは三メートルほどだ。そのシルコングと呼ばれるゾンビは檻を溶かして外に出た。
檻、意味ない。
鉢巻の男がおたまで僕のことを指し示して叫ぼうとした時、男はシルコングに捕まった。
「待て! 私を捕まえてどうする! どうするんだしるこ! ギャー」
鉢巻の男はしるこにされ、シルコングに食べられた。
シルコングは人の形というよりゴリラの形に近い。両拳を地面に付き、今にも飛び掛ってきそうな姿勢を取っている。
その体からは凄まじいしるこ力が感じられた。
シルコングが一気に間合いを詰め、拳を振る。僕はその攻撃をかわしたが、拳圧で頬が少し裂けた。
この攻撃を受けたらただでは済まなそうだ。
続けてシルコングが蹴りを放つ。肘を振る。噛み付こうとする。僕は何とか攻撃を凌いでいたが、武器がないのでは反撃が難しい。
その時、すぐ近くの遺体が目に留まった。胸が溶け、そこにしるこが溜まっている。僕はそれを手で掬って力を込めた。
シルコングが跳び、僕に覆いかぶさろうとする。
僕は大きく腕を振った。巨大なしるこの槍が飛ぶ。その槍はシルコングを粉々に打ち砕き、そのまま雲を貫いて天に昇った。
しるこの神親衛隊は全滅した。だが、同時にこるし屋達も壊滅状態だった。生き残ったのはほんの数名。辺りは遺体だらけだ。
僕は、先程しるこを掬わせて貰った胸の溶けた遺体に近付き、礼を言った。
「あなたのお陰で勝つことが出来ました。ありがとう、マドンナ……」
胸の溶けた『マドンナ』の遺体は、懇願するような目で僕を見ていた。




