五十七、老々会議
しばらくして、また夢を見た。暗い森の中、しるこヶ丘の中腹だ。
そこでは神社の改装工事が行われていた。
地下室を破壊し、本殿には鍋の代わりにしるこの神の像を設置するようだ。
しるこババアが遠くからそれを眺め、溜息をついた。そして、森の奥へと歩き出した。しばらく進むと、おたまを振る黒い作務衣を着た老人がいた。
「禅在。探したぞよ」
「おお、お婆々殿。私もあなたをずっと探しておりました」
「お主に聞きたいことがある。これが何か分かるか?」
しるこババアは懐からおたまを取り出し、それを禅在の足元に放り投げた。
「これは、私がシルコに与えたおたまですな」
「禅在答えよ! シルコがお主の家でおたまを握り死んでおった。なぜじゃ!」
「……あやつは好敵手になり得なかった。それだけのことですな」
「はぐらかしおって。それだけではない。近頃、強いしるこ力を持った者が次々と神に消されておる。あの精神の幼い神が己で考えて行動したとは思えん。加えて、神はこちらの動きを読んでいる節がある。誰じゃ? 誰が裏で糸を引いておる。禅在、お主か!」
しるこババアが詰め寄ると、禅在は馬鹿にするように笑った。
「私はあなたと同じ、しるこで出来た一般人です。全ては主の意思によるもの」
「主? 白玉総一郎か?」
「白玉殿は私と同格。単なる仕事仲間ですな。私が言う主とは創造主」
「創造主じゃと? 月から来た女がいるとでも……もしや、あの女が……」
「あなたに説明しても分かりますまい。あなたは私と創造主が異なり、目覚めるのが遅いようだ。一つこれだけ知っておけば良いでしょう。あなたと私は敵同士だ」
禅在は静かにおたまを構えた。その構えはあまりに自然で美しく、彼の気配は森の空気に溶け込むかのようだった。
しるこババアも鍋に手を入れて構えを取る。
「侮るな禅在。しる皇の称号を得たのはお主だけではないぞよ」
禅在としるこババアが同時にしるこを放つ。そのしるこは二人の間でぶつかり、激しく弾けた。辺りの木々が吹き飛ぶ。
視界が悪いうちに禅在が距離を詰め、しるこババア目掛けておたまを振った。しるこババアはそれを鍋でいなし、指を弾いてしるこの滴を飛ばした。滴は散弾となって禅在を襲う。禅在も鍋で攻撃をいなし、更におたまを振るう。
近距離での攻防がしばらく続いた。
おたまの分、禅在が僅かに優勢のようだ。しるこババアは近距離戦は不利と踏んで、後ろへ跳んだ。禅在が追う。しるこババアは、しるこを掴んで頭上で手を振った。すると、ギロチンの刃のようなしるこが何枚も落ちてきた。禅在はそれを一枚一枚おたまで砕いた。
その間に二人の距離は開いた。禅在がしるこの塊を放つ、その塊は狼に化け、地を駆けた。しるこババアは横に跳んで避けた。
その時、彼女の背後から禅在が放ったものではないしるこが飛んできた。
不意を突かれ、しるこババアは左手に傷を負った。その傷はジュクジュクとしるこ状に溶けだした。
「この攻撃は……」
しるこババアの呟きに被せるように、禅在が言う。
「本当は一対一で戦いたかったのですが……」
しるこババアの背後には、しるこの神と黒い人型しるこの集団がいた。




