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しるこ地獄  作者: gojo
第三部 しるこパニック
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五十四、シルコ・ザ・グレート

 夕陽が見える。この夢は神によるしるこババア襲撃の少し前のことだ。



「ナゼ貴方ガ、オ師匠ノ所ニイルンデスカ!」


 シルコは家屋から飛び出し、おたまを構えた。

 入口にアフロヘアの影が揺れる。


「オシショウ? ああ。ぜんざいのこと?」


「オ師匠ハ何処デスカ? マサカ、しるこニシタデスカ!」


「ハハハ。ぜんざい、元気だよ。ぜんざい、お前、とかして良い、言った」


 森の中の古風な日本家屋。そこは料理人禅在の家だった。シルコは数日前からそこに通って修行をしていた。

 ところがこの日、禅在の家を訪ねると、そこに神がいたのだ。


「ぜんざい、お前、弱いから、いらない。お前、むかつく。ボク、とかす」


 シルコは額に血管を浮かばせたが、すぐに気持ちを落ち着かせ、鍋から静かにしるこを掬った。


 神を倒すことは不可能。ダメージを与え、動きを鈍らせて逃げるのが得策。


 おたまを振る。しるこの塊が跳ぶ。塊は虎に姿を変え、神を追った。神が横に跳んでかわす。虎は木にぶつかった。木がゆっくりと倒れて神の視界が遮られる。

 その隙にシルコは神の頭上に跳び、しるこを撒いた。しるこが網に変化する。捕らえられそうになった神は地面を叩いた。すると、地面から槍のようにしるこが伸び、網を破り、更にシルコに向かっていった。

 シルコは木を蹴ってかわす。続けて別の木を蹴って跳び、しるこを飛ばす。シルコは立ち並ぶ木々を蹴って跳びながら、しるこを幾つも飛ばした。

 四方から塊が神を襲う。神は楽々とかわし続けていたが、段々と面倒臭くなってきたのだろうか、明確な殺意がその目に宿り出していた。しかし、シルコは頭上を素早く跳び回っている。神は少し考え、土を拾い、それを溶かし、そして、腕を伸ばしてクルリと回った。神の周り、空中にしるこの輪が出来上がる。その輪は一気に大きくなり、辺りの木々をことごとく切断した。

 シルコは足場を失い、地面に着地した。神は背後へと回り、拳を打ち込んだ。シルコの体が砕け散る。だが、手応えがない。


「ハッハッハッ。ソレハ、しるこデ作ッタ身代ワリデース」


 神は声のする方を向いた。瞬間、シルコのおたまが振り下ろされた。

 おたまが神の肩口から斜めに進入し、胸まで切り裂く。


 シルコは思った。このまま振り抜いて体を切断してやる。


 ところが、途中でおたまが動かなくなってしまった。神から流れ出たしるこが、おたまをガッチリと押さえ込んでいたのだ。

 逃げろ。しかし遅かった。神の腕がシルコの胸に突き刺さった。シルコは、もうしるこ化は免れないと思い、神を蹴飛ばしておたまを引き抜いた。そして、距離を取って、残りのしるこを全て掬った。

 しるこを吐きだしながら言葉を吐く。


「……ハッハー。しるこ、沢山食ベテ下サーイ……」


 シルコは力を込めておたまを振った。巨大なしるこの虎が飛ぶ。神は負傷により思うように体が動かなかった。虎は神を半身食い千切り、神の体は回転しながら吹っ飛んだ。シルコが追い討ちを掛けようとおたまを高く振り上げる。



 神は思った。一瞬でしるこにするつもりが失敗した。おそらくこいつは白玉総一郎や禅在と同じ、『しるこになりにくい存在』だ。他の方法で殺らなければ。


 しかし、神が振り向いた時、シルコはおたまを天に掲げたまま、既に絶命していた。


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