五十三、探し物は何ですか
夢の中、しるこババアの自宅が見えた。
しるこババアは、崩れた家屋で瓦礫を捲って覗き込むという作業を繰り返していた。彼女は文献資料を探していた。
海沿い公園から命からがら逃げ出した後、シルコと二人で誓い合った。お互いしるこの神を倒す方法を探し、必ずや反撃しよう、と。
シルコは禅在のもとを修業も兼ねて訪ねることにしたそうだ。
対して、彼女は自宅の瓦礫に埋もれた数々の書物から手掛かりを見つけることにした。宗教に関する本、神話の研究書、町の歴史記録、そして、しるこ神社にも収められているしるこ伝説古文書。とりあえず、これらを掘り起こす。
日も暮れてきた。今日はこれくらいにしておこう。しるこババアは瓦礫の隙間に入り込んだ。
そこには、大きな瓦礫が組み合わさり、空洞が出来ていた。雨風が防げれば良しとし、彼女はそこに寝泊りをしていた。外から見ればただの瓦礫の山だ。身を隠すにも丁度良い。
蝋燭に火を灯し、古びた本を捲る。しるこ伝説古文書だ。その本に何ページか目を通した時、彼女は違和感を覚えた。
そんな馬鹿な。内容が変わっている。しるこの神のもとに女が顕われ、世界を創り、神社が設けられたことになっている。しるこ太郎の記述がない。何者かが忍び込んで書き換えたのか。否、文字は古墨によるもの、切り取った形跡もない。
彼女はじっと本を見つめた。すると、頭の奥がチリチリと痛んだ。脳に箸を差し込まれ、記憶を掻き混ぜられているかのような感覚だ。
彼女は目を閉じて、黒い力を昂らせた。そして再び目を開けた時、本の内容は元に戻っていた。神は封印されたことになっている。
一体今のは何だったのだろう。
そう思った時、外から歌が聞こえてきた。
「しるこしるこしるこしるこ、しるこ、しるこ♪ ヘイッ」
忘れるはずもない。しるこの神の声だ。
彼女は蝋燭の火を消し、目を閉じて気配を消した。
「あれえ? たしか、けはい、あった。いるでしょ? 出てきてババア」
神はしるこババアが自宅に戻って隠れていることを知っているようだ。瓦礫を捲り上げながら彼女を探している。
なぜここを知っている? しるこババア思ったが、すぐに気持ちを切り替え、無心になることに努めた。
「ボク、もう、かえりたい。早く出てきて、早く、とかされて、ハハ」
次々と瓦礫が捲られる音がする。徐々に音が近付いてくる。しかし、動揺してはならない。ここは簡単には見つからない。気配を消すことに集中するのだ。
しばらくすると、音がしなくなった。神は諦めて帰ったのだろうか。しるこババアはそっと目を開けた。
「みーつけた」
目の前には僅かな隙間があった。そこから、神が彼女のことを覗き見ていた。
咄嗟にしるこババアは瓦礫を壊し、高く跳んだ。
神が小さな破片を幾つも投げる。破片はしるこに変わり、彼女に向かって飛ぶ。しるこババアは、緊急用に胃袋に溜めておいたしるこ、一般的には食べていたとも言うしるこを霧のように吹き、攻撃を凌いだ。そして、呪文を唱えながら走った。神が追う。
しるこババアは万が一のことを想定し、敷地の周りに溝を掘り、しるこを張っておいた。彼女は、敷地外に出ると同時に振り返り、そのしるこに手を入れて力を込めた。巨大な壁が敷地を囲む。これでしばらく神は追って来られない。
しるこババアは森に向かって走りながら考えた。
シルコは、無事だろうか。




