四 、夢の話
こんな夢を見た。
薄暗い小さな部屋。床は円形になっており、石で組まれた壁は弧を描いている。その壁に備え付けられた小さな燭台の炎は凍っているかのように動かない。空気の揺らめきさえない完全な密室だ。
その部屋に一人の青年がいた。
白いシャツを着た青年。その無造作に伸びた髪から覗く彼の顔は恐ろしいほど青く、そして、やつれていた。歳は恐らく十代後半だろう。しかし、その歳相応の雰囲気、例えば体格、例えば表情筋の付き方など、が欠落していた。
青年は部屋の中央で正座をし、何もない空間を見つめていた。
しばらくすると、入口の鉄扉が重い音をたてて開き、烏帽子を被った袴姿の老人が部屋に入ってきた。
「ほら、食事だ」
老人はそう言うと、青年の前に紙コップに入ったしるこを差し出した。
「今日のは社長が作ったものだ。ありがたく食えよ」
白い湯気をあげる紙コップを、青年は黙って手に取った。
その様子を確認すると、老人は再び鉄扉をくぐり、部屋を後にした。
青年はぬくもりを確かめるかのように、両手で紙コップを包み込んだ。
青年にとって、それは全てだった。
彼は生まれてからずっと閉じ込められていたのだった。生まれてからずっとしるこしか口にしたことがなかったのだった。
青年は静かにしるこを口に含んだ。すると、彼の目から涙が零れた。その涙は、怒りなのか、悲しみなのか、苦しみなのか、喜びなのか、彼には理解することが出来なかった。考えるという行為が身に付いていなかったのだ。
いずれにしても、涙は確かに流れた。
止めどなく流れる涙は、やがて頬を伝い、紙コップの中に落ちた。
しるこは砂糖だけではなく少量の塩を入れると甘さが引き立ち、より美味しくなる。青年の涙はしるこの甘さを引き立てた。
普段と微かに味の違うしるこを食べられたことを、青年は、喜ばしく思った。
「アハ、アハ、アハ……」
込み上げる笑い。自身の喉は音を出すことが出来るのだと自覚し、青年は益々愉快な気分になった。繰り返し、繰り返し、笑い声をあげる。
「アハハハハハ…………ハハ……」
ひとしきり笑った後、青年は大きく息を吸った。そして、ふと思い付いたかのように一つの単語を口にした。
「お、お、お……ん……」
薄暗い小さな部屋。
燭台の炎が大きく揺れていた。