四十六、一閃
計画は気付かれていた。何者かがしるこの神に入れ知恵をしていたのだ。
まるで空気が凍っているかのように静かに時間が過ぎる。
最初に動いたのはシルコだった。おたまを鍋に入れ、しるこを掬おうとした。その動きに気付いた神は、足元に転がっている石を真上に蹴り上げ、それを叩いてシルコに飛ばした。シルコは軌道を読み、体を横に反らす。ところが、石は途中でしるこに化け、進行方向を変えて加速した。不意を突かれたシルコは鍋を弾かれ、鍋が、地面を転がる。
すぐさま錆色がゆで小豆を投げた。神は横に跳んでかわす。その間にシルコは距離を詰め、おたまを振った。神は真上に跳んだ。そこを臙脂色がゆで小豆で狙う。空中ではかわせないはずだ。しかし、神はシルコの頭のお椀を蹴り飛ばし、赤褐色の方へ跳んだ。赤褐色が何粒ものゆで小豆を連続で投げる。ワインレッドも散弾状にまとめてゆで小豆を飛ばす。だが、神は踊るように全てをかわした。錆色がゆで小豆を団子にして勢い良く投げつけるが、神はサッカーボールを扱うようにそれを海に蹴り飛ばしてしまった。
神の言ったことは本当だった。神はここに辿り着くまでずっと足元を気にして走っていたのだ。今の神の動きは住宅街で戦った時とは比べものにならない。完全に僕達は遊ばれている。
しかし、落とし穴の場所が知られている以上、力ずくでねじ込むしかない。
赤褐色が背中から箸を抜いた。ゆで小豆がなくなったのだ。
「これは槍のように見えるが、箸だ。ここに『はし』って書いてある。刺さると痛えぞ!」
銛のような箸を実戦投入するのは初めてだ。本当に、箸として認識され、ダメージを与えることが出来るのか赤褐色は不安なのだろう。
しるこの神は律儀に話を聞いていた。落とし穴の手前でこちらに背中を向けて立っている。
今だ。僕は足に力を溜め、鍋の蓋を構えて一気に突撃した。しかし、神はこちらに視線を寄越すこともなく後ろ回し蹴りを放った。鈍い音がする。僕は崖の端まで飛ばされ、転がった。
咄嗟に攻撃を蓋で塞いだが、その衝撃は体の芯まで響いていた。胸が痛み、立ち上がることも出来ない。
シルコは膝を付き、しるこレンジャー達はほぼ弾切れ、なす術もない。
「あきた。やっぱ、かいすいよく、たのしいかな。とぶかな」
神はぼんやりと海を見ていた。挑発や冗談ではなく、本当に崖から跳ぶつもりというのが雰囲気から察せられた。
神が一歩足を前へ出す。誰も止められない。神は僕達の様子を見て鼻で笑い、高く舞った。
逃がすか。くそ野郎。
ふと、手にシルコの鍋が触れた。僕はそこから素手でしるこを掬った。今までしるこを武器として使ったことはないが、反射的に体がそう動いたのだ。そして、大きく腕を振り上げた。
その時、いつかのように、しるこまみれの赤ん坊の姿が頭を過ぎった。
どす黒い力がみなぎる。その力をしるこに乗せて、僕は腕を振り下ろした。しるこの塊が巨大な槍に姿を変え、神に向かって飛ぶ。神は体を反らしたが、槍は神の脇腹を掠め取り、雲を貫いた。直撃はしなかったが神の体は後方に飛び、地面を転がった。
そして、神は、落とし穴に落ちた。




